第四話
舞台では演目が行われている時間、不躾にもノックの音が響く
「誰です」
不機嫌そうな館長の声。
「ご亭主、私です」
口だけは笑みの形をした青年がドアから顔を覗かせる。
それを見るややや柔和な表情となる。
「ああ、貴方ですか。何か御用でしょうか」
「近いうちに計画している公演の為にこちらの舞台を貸してもらいいたいのです」
少々驚きがかくせないようである。
「それは払うものを払ってくだされば結構ですが、此処までいらっしゃるということは・・・」
「ご推察の通り、実を言えば三日後です。よって今、返事をしていただきたい」
館長は多少気を悪くしたようで、それでいて愉快そうでもある。
「貴方がそのような無理を仰るのですから、あの方のご希望と言う事ですか」
青年は首肯する。
「それと、三日後にでも間に合うような役者も手配していただきたい」
「あの方からしっかり引き出してきて頂けるなら喜んで」
「勿論です」
両人、あくまで無表情であった。
「あの、これは貴方がお書きなさったのですか」
楽屋の一室、今はイリス専用となっている此処に青年とイリスが二人でいる。
「ええ、これが本業ですから。たまには書いてあの方に差し出さないといけないんです」
「それにしても、三日後とは性急過ぎませんか。このように凝った物ならもっと時間をかけるべきでしょう」
その通りだと言わんばかりに青年は首肯する。
「そうして欲しいとは言ったのです。それでもあの方の我儘がどの様な物かご存知でしょう」
「舞台が三日後なのも、内容も何も文句はありません。でも、気になることが1つだけ」
青年は首を傾げる。
「あの方が舞台で皆と同じ様に稽古をされるんですか。なんだか可笑しく思えてしまって。」
「ええ、脚本と同じで演出も私ですから。舞台も上がった以上は従っていただきます」
「そうですか、楽しみです」
イリスは心底そう思っているように笑った。
眩しいとさえ思ったのか青年は目を細める。
「しかしですね、一箇所だけ私の権限の及ばないところがあります」
「ええ、私があの方を殺す所ですね」
少し楽しそうな口ぶりであった。