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第参話

 「誰です」

性急なノックにやや不機嫌な調子でここバレエ館の館長は声を返す

「平民連れが私にそのような口の利き方など、規律の乱れの表れだな」

全くどうして平民は己の身分を自覚をしないのであろうか。

「お偉い方がこのような所へ来る事などなかったものでね。失礼をしました」

「物分りが良いな、その賢い頭で判断をしてもらいたい。欲しい踊り子がいる」

館長は怪訝そうな顔立ちをする

「誰の手もついていない踊り子でしたら勝手に楽屋へ行って無理矢理に手篭めにすればいいでしょう」

分かっていない、あれに誰も手をつけないはずがあるまい

「昨日の夕の演目で主役であったあれだ、あのような素晴らしい物には誰が手をつけているのだ」

すると、館長は首肯して面白げに答える。

「ええ、あれはもうとあるお偉方の物となっています。もう買うこともなりません」

やはりか、それでも引き下がるわけにはいけない。

あれは私の物でないといけない。

「その方よりも私に所有された方が幸せだと思うのだ。あれもお前も」

館長は不服そうに鼻を鳴らす

「残念ですね、あれはあの方に買われた事を心から喜んでいます」

「私に買われたとすれば、ほとんどの自由も食事も衣服も用意する。勿論、お前にもそれ相応の物を渡してやる」

もはや呆れ果てた様に館長が告げる。

「あれの持ち主は私です。なので、この場はお下がりになって私を呆れさせないほうが宜しいですよ」

私を馬鹿にしているのか、このクズは。

しかし、こいつはあれの持ち主であるのは本当のこと・・・だとすれば、ここは従うしかないか。

全くもって屈辱でしかない。

「そうか、では今だけだ。今だけは引き下がる。また、次は良い返事を貰う」

腹立たしい、このままあれの控え部屋へ押しかけるのも考えたがそれはあまりにも下品だ。

また次にはあれに直接話をつけるしかないか・・・




 「誰ですか」

この時間は誰も来ない筈なのですが、どなたでしょう。

「失礼します、ハワード卿の代理で来ました。貴方がイリス嬢ですか?」

はて、見たことのない人ですね。信用していいものでしょうか、それに・・・。

「あの方は私の名前などとうにお忘れだと思っていました。代理の方ならそれくらいご存知でしょう」

どうして、代理人だと言う方は方頬をゆがめておられるのでしょう・・・面白い事など何もなかったはずなのに。

「いや、これは失礼。貴方の口調があの方と少しだけ似ているように感じましてね。」

この人は何を言いたいのでしょう、あの方と似ているなどと。

「それで、用件は何でしょうか。本番前の主役の舞台を覗く等と言った無作法はあの方はなさいませんでしたよ」

何か気に喰わないことでもあったのか、すぐに無表情になる。

忙しい方ですね。

「そうですね、ハワード卿よりメッセージです。こちらへ置いておきます。では、失礼。」

辞去の返事も待たずにさっさと行ってしまわれました。

それにどうして広くもないこの部屋だというのに卓の上になど置かれるのでしょう。

しかし、あの方が来ない。

これで今日の舞台は途中で顔を赤らめたりも足の開きを戸惑ったりもしなくなるでしょう。

あの方が寄越したペーパーナイフで開けた綺麗な封にはとてもシンプルな紙が一枚。

『今夜は私は行けない。充分に舞台を楽しめ』

そのようなことを書きながら微かに香水をふっているのはあの方の未練でしょうか。

夜のあの人は、とても強引で好きにはなれませんけども一度舞台に来て下さればいいのに・・・。




 とても、気丈であった。

貴方はそこに惹かれたのでしょうか。それともそうなるようにしたのでしょうかな。

それなのに夢を見続けることは許しませんか。

残酷な事です。

しかし、とっても楽しそうではありますね。


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