第弐話
ただひたすらに欲しいと思うのも館へ向かううちに冷めていき、どのようにして手に入れたものか、それを考えざるを得なくなった。
そういえば友人連中が下卑た事を言っていた。
踊り子と言うものは演目が終われば控え部屋で金を沢山携えた男を待って身体を解しているのだと。
なるほど、金持ちほど激しいとでも言うのだろうか。
私にはあまり変わった性癖はないと思うが、金はある。
しかし、私が他の物好き共のように控え部屋へと行けと・・・。
それは気に喰わない、どうして踊り子などの為に私が恥をかかねばならん。
・・・そうか、汚れた物を手に入れるには私も多少は汚れねばならんか。
いや、もう少し落ち着いてから、あのバレエ館の館長を訪ねるとしよう。
佳人と踊り子との嬌声を飽きるほど聞かされてから、青年貴族と佳人は馬車を連ねて後者の家へと向かった。
馬車のワゴンの中で、青年は眠り。
佳人は、窓越しに無感動な目でそれを眺めていた
佳人の館の中、青年貴族が遠慮儀気味に今の椅子に着く。
洋酒を棚より選別しながら佳人が振り返る。
「酒は何でも良いだろう。いつも貴様は飲もうとはせんがな」
少し迷惑そうに青年が応える。
「飲むのはいつも貴方だけです。私は介抱のために用意されているのでしょう」
「私は貴様だけにしか介抱されたくないのでな」
見る人が見ればゾクリとするような笑みを浮かべる。
「そんなことより、意外でした。あの娘をこの広すぎる館の家具にするのかと思っていました」
「あれは踊りたいと言ったのでな。あくまで抱かれる時も踊り子として抱かれたいそうだ」
青年は鼻を僅かに鳴らす
「かつて、貴方が飼っていた物の髪が美しいといって切り落とさせた事は忘れられましたか」
悲しむでもなく無表情で佳人は呟く。
「忘れたりはせんよ、反省もしなかったが。それでも、命を絶たれたりなどされるのは宜しくない。家具も犬も捨てるのは主人からであるべきなのにな」
「珍しい、悲しんでおられるのですか」
無表情から冷たい目となる。
「黙れ」
その後、佳人は黙々とグラスを傾け、青年は欠伸を漏らしながらもボトルを除けて佳人の酔いつぶれるのを阻止したりなどした。
先ほどの会話以降、ずっと無口であったがおもむろに口を開く
「では、私は休ませてもらうとするよ。部屋を用意させている。寝顔を見つめる趣味がなければそちらに引き上げるといい」
「喜んで、引き上げさせていただきます。1つだけ答えていただいた後にですが」
怪訝そうに眉を寄せる。
「何だ」
「貴方があれほどに望まれた髪は今でも保管されていますか
「腐ってしまったので捨てた」
あくまでも無表情であった。
「そうですか。では、良い悪夢でも見てください」
この青年には珍しく笑みを浮かべながらそそくさと辞去した。
本当は笑い出したかったのかもしれない。