対面
第1章2話:「対面」
魔王が勇者と対峙してから数刻、魔王が持った銀色の装飾が施された白色の古書。
初代魔王から引き継がれた、魔族の起源から存在されるとされる魔本だ。
中身には、初代魔王から生まれた魔法、魔族達への知識、様々な契約、などの知識が詰まっているものになる。
ただ、ページには何も書かれておらず、その魔本に関しては魔王しか読めない代物だ。
ページは使用者の意思によって開き、契約呪文を詠唱することでその力を発揮するものになる。
現段階で魔王が唱えた契約は”白銀の雷帝”と呼ばれていた、古代最強の竜を召喚する詠唱したのだ。
竜は魔本から身体をあらわにさせ、雷鳴をとどろかせながらその地に足をつき、けたたましく咆哮した。
そして長い銀色の髪を靡かせ、赤い目をよりいっそう輝かせながら、魔本を持った少女は微笑みながら言った、
「さぁグランフィール、奴を叩きのめせ!」
魔本を掲げながら勇者を倒すようにと命じ、次なる魔法を発動させるべく、魔本のページがさらにめくられ詠唱を始める。
竜は勇者めがけて突進を仕掛けた後、体の回転を利用しつつトゲのついた尾で薙ぎ払う。
突進を利用しながら竜の頭に乗った勇者だが、絶妙なタイミングで体を回転させられ、その場でバランスを崩し、頭からおちる。
そこからの、薙ぎ払いを持っていた剣で受けきるが、そのまま弾き飛ばされ、床にたたきつけられた。
「ぐはっ!」
思わず、息が詰まる。どんな装備でさえ高速の超重量の攻撃、さらに魔法が乗った一撃を食らえば身体まで衝撃がとおる。
現状を苦虫をつぶしたかのような表情で把握し始める。
「なるほど、さすが太古の竜だ。ならば…」
今まで無言を徹していた勇者が、思わぬ強敵に相対し高揚を浮かべながら新たな攻撃に転じ体制を立て直す。
持っている刃を撫でるかのように、手を剣先から柄までおろすと、すさまじい熱気を放ちながら真っ白に刃が光った。
「ゆくぞ。」
そして剣を前に突き出し、突進の構えを取った後、一瞬にして勇者の姿がその場から消える。
すさまじい熱気がまた室内を襲い、竜の尾が切り落とされ宙を舞う。
別段消えたのではない、剣の加護による超高速の移動を利用し目にもとまらぬ速さで疾走した。
瞬間的超加速を上下左右利用し、その勢いで竜の後ろをとりつつ尾を目がけて剣を振り下ろしたのだ。
「ギャアアァォォォッォォオン!」
竜の悲鳴があたりに響いた後、勇者が2発目と言わんばかりか竜の背目がけて剣を突き刺した。
そこから頭にかけて走りかけたようとした時、竜の鱗が大きく立つ。
身体が真っ白に光はじめたと思いきや、竜から高出力の電撃が周囲に放たれる。
「なにっ!?」
慌てて竜の背から飛び降り、持っている剣を使いながら襲い掛かる電撃を受け流す。
電撃はそのまま周囲の物をお構いなく粉々にしながら、勇者の逃げる経路を最小限までに減らしていった。
竜の背後から魔王が続けさまに、粉々になった床や家具などの破片を凍らせ、勇者に向けて投げつけた。
氷の猛吹雪は鎧の隙間、勇者の視界を遮り攻撃の邪魔をしていく。
「ぐあぁぁぁ、小癪な!!」
「なんだ、案外わめくやつなんだな。」
余裕を見せながら次の召喚を完了した魔王が笑みを浮かる。
魔本から2体目の竜があらわれ、今度は足で踏みつけた床が凍り付いていく。
氷帝と呼ばれる竜、「アヴソリューター」と呼ばれる古代の竜が現れた。
「そろそろ終われ勇者よ。長旅ご苦労だったな。あの世で我が友たちとよろしくやっていろ。」
「やれ」と言わんばかりに手を振り下ろし、2体の竜が勇者に突っ込んでいく。
これでついに終わる、2体の竜はお互いに得意とする技を繰り広げながら勇者めがけて攻撃を仕掛けた。
1体は電撃を身にまとい勇者めがけて放ちながら、もう1体は周囲を凍らせながら勇者を食い散らかさんとする。
完全に逃げ場を失った勇者、もうどうすることもできないだろうと魔王も思った瞬間だった。
目の前の2体の竜の動きが止まった。
突然起きたアクシデントに一瞬目をうたがった。
なぜ止まる、もう目の前の敵を倒せるはずだ、なぜ…
思った時、手にあるものに剣が突き刺さってるのが見えた。
魔本は貫かれ、勇者がいた場所に誰もおらず、1本の剣だけが刺さっている。
「な…何!!?」
声を発しつかの間、勇者が魔本に刺さった剣を宙でつかみ、魔本をのもすごい速さで切り刻んだのだ。
「っ・・・!!!」
魔王は慌てて魔本を捨て、後ろに下がった。
魔本は粉々に切り刻まれ、前にいた2体の竜は光となって消え去る。
「思った通りだな。その本が奴らの触媒か。…これで、形勢逆転だな魔王!!」
魔本を失った魔王はその場で青ざめた表情をする。
勇者は剣を輝かせ、魔王を切り伏せると次の体制に移る。
「終わりだ、魔王」
「ま、まだだぁ!!!」
必死に腰にぶら下がる、液体の入った瓶を勇者に投げつけ、自身の魔法で応戦するが、勇者の高速の剣技の前にすべてが無に帰す。
そして、恐ろしいまでの衝撃が魔王を襲い、壁へとたたきつけられる。
「がふっ」
頭からは血が流れ、勇者からの猛突進のせいで魔法障壁は砕け散り、次いで剣による身体への裂傷。
精霊の剣により魔族に対しての効果が上乗せされ、身体へのダメージが激しすぎるせいもあり、意識が渾沌とする。
「…っっ」
「魔王、貴様は我が最愛の物たちを殺しすぎた。」
「…な、にを…」
「なぜ、なぜ殺した…」
意識が朦朧とする中、勇者が急に涙ながら語り始めたのだ。
「なぜた!我がヴェインを!我がブラムを!なぜ殺した!!愛していたのに、なぜ…俺から奪った!なぜだ!!」
「…?」
状況的におかしいくらいのセリフが頭の中が鮮明になっていく。
そして名前を大声で叫んだ勇者の言葉に、すごい疑問が頭をかすめる。
愛した?誰を?女か?
…いやでも、叫んだ名前って男じゃないか?
疑問交じりにそれを勇者に弱弱しい声で問い返してみた。
「その者達は…仲間なんだろ…お前を守って、死んでいった…戦争とは…そういうもの、だろ…」
「そうだ、彼らは俺を守って死んでいった、愛しい人を守るのに身をささげると言ってな!」
「なら、いい仲間、だった、じゃないか…ならそれでいいだろ…」
「あぁ、そうだ!仲間としてだ!」
「いや、なに…今、言った彼らは、男だものな……そんなわけ、ないな…」
「何を言っている…彼らを愛していたのは事実だぞ!!!」
「…」
もしやこいつって…
「こんな状況で、聞きたくはないんだが…最後にいいか…?」
「なんだ?」
「お前、もしかして、男好き…なのか?」
「先ほどからよくわからんことを言うやつだな魔王とは、彼らとは愛しあい、この先のことすら考えた中だぞ」
「だから、男同士で好きあっていたということでいいんだよな?」
「だから、それの何がおかしいんだよ!!!?」
うわぁ…こいつ本物だ…こんな奴に殺されるのか…いやだわ…
嫌悪感丸出しの顔に、案外余裕な自分がいたことが不思議でしょうがない気持ちになるが、彼が男好きの変態勇者というのが確定したことに
衝撃とショックを隠し切れなくなった。
「もうそろそろ、頃合いだな、死ね!魔王!!!」
「あーもうどうでもいいから殺せよ…変態勇者め」
軽くやけくそになる。
頭から流れた血で視界が赤色に染まる。朦朧とした意識中、様々なことが頭をよぎり始める。
死んだらどうなるのか、民は今後平気なのか、ここで倒れる自分を許してくれと心の中で言い続ける。
あぁ、まさかこんな奴にやられるとは思わなかった。
自分が強敵と認識した奴がこんなふざけたやつだなんて、どんなに剣の腕がよかろうと、自分の世界を壊したのが愛した人間からの復讐。
別段、同性愛者を否定するつもりはない、が今回は理由が理由すぎる。
まぁ、ある意味生き物的には正解なのかもな、人間とは…不可思議でよくわからないな。
恨みをのせ、渾身の力で振り下ろされた一撃。
相手を殺すことしか考えられない殺意ある一撃。これですべてが終わる。
「女子相手に、てめぇ何物騒なもん振りかざしてんだ!!!」
勇者が気が付くころには、目の前には物体がすでにあった。
その気配に気が付かず、不意を突かれているのもあり、もろにその物体に衝突した。
衝突した直後、勇者の体はものすごい速さで壁を貫き、さらに隣の部屋の壁も貫き、外へと身を投げ出され町まで落下していった。
なんだ…誰だ…
一体何が起きたんだ…
民と兵は城から逃がした後だ、それは先ほどの結界での気配で確認済みだ。
勇者は…私は殺されるはずでは…
この、顔に触れる暖かいものは一体…
薄れく頭の中、ちょっとした安堵に浸り彼女は意識を閉じた。