切っても切れない仲
仕事が終わり、帰りにフグは、タケゾウとしゃぶしゃぶを食べに行った。店の中は、夕方過ぎだったためか、客があまり入っておらず、2人は座敷に座った。
フグ「タケゾウ、お前の奢りな。お前は貧乏だから、中級の食べ放題コースと飲み放題コースにしといてやるよ。」
タケゾウ「はい。」
タケゾウ(ゲッ食べ放題が1980円で、飲み放題が980円かよ。2人で6000円ぐらいか。いたい出費だ・・・・。)
タケゾウは、店の天井を見ながら、少し半泣きになった。
フグ「どうしたタケゾウ、そんな顔をするな。ほら、肉が来たぞ。それから生ビールも。」
タケゾウ「はあ・・・・。」
2人はしゃぶしゃぶを食べ始め、10分ほどすると、トークが弾みだした。
しかし、2人の心の中は捻れ曲がっていた。
フグ(フフッタケゾウの奴、楽しそうに話しやがって。だがな、タケゾウ、お前は俺のことを大親友だと思っているようだが、俺はお前のことを友達とは、これっぽっちも思っていない。お前は、すぐ人を裏切るクズ野郎だ!!お前を利用できるだけ利用してやる!!そして、利用できなくなったら、紙屑のように捨ててやるぜ、ポイッとな!!)
タケゾウ(フグさん、楽しく笑ってられるのも今のうちだけだ、あんたは俺のことを大親友だと思っているようだが、俺は、あんたのことを友達とは、これっぽっちも思ってない。俺は、あんたをいつでも裏切れる、心の準備ができてるんだ!!しかも、俺はあんたと違って実家だ!!一人暮らしのあんたにとって、このバイトで生活が苦しいのは、十分分かっている。それが、あんたの弱点だ!!)
そんなことを思いながらも、ほろ酔い気分になった2人は職場の話で盛り上がり、いよいよ退店の時間が迫って来た。
フグ「タケゾウ、もう、可愛い女には懲りただろ?だから俺が、お前に世界一ブスな女を紹介してやる。」
タケゾウ(何を言い出すんだ?このオッサンは。アホか!!)
タケゾウ「い、いやあ。それはそうと、フグさんに女の知り合いなんかいるんですか?」
フグ「別に人間じゃなくてもいいだろ、お前は。そうだな、お前に今度、山でイノブタを獲ってきてやるよ。それを彼女にしろ。」
タケゾウ(このオッサン、どこまでも人を馬鹿にしやがって!!帰りに崖から突き落としてやろうか!!)
タケゾウ「フグさん、イノブタは勘弁して下さいよ。会話ができないじゃないですか。」
フグ「タケゾウ、冗談だよ冗談。」
フグ(タケゾウ、今のでキレないとは。お前、ちょっとだけいい奴だな。クズだけど。)
タケゾウ(このジジイ、ふざけやがって!!どうせ、あんたのことだ。すぐ職場の奴を殴って、クビになるに決まってる!!そのとき俺は、あんたのことを思いっきり笑ってやるぜ!!)
時間が来たので2人はレジに行き、タケゾウが財布から金を出そうとすると、フグがサッと4000円出した。
フグ「タケゾウ、残り2000円出してくれ。全部奢ってやりたいのは山々だが、さすがにバイトの俺の給料じゃ無理だ。」
タケゾウ「・・・・フグさん、ありがとうございます。」
酔いが回って、少しだけ2人の心に、雪解けが始まったようだった。
フグ「また明日な。」
タケゾウ「はい。フグさん、気をつけて帰って下さい。」
フグとタケゾウは店を出て、それぞれ帰宅した。
今日も逞しくワイルドに、異世界を生きるフグであった。