千里眼
フグは、仕事帰りに自販機で缶コーヒーを買おうと思い、金を入れた。そして、ボタンを押したが、缶コーヒーは出てこなかった。
フグ「クソッ壊れているのか?俺の貴重な130円が!!」
時給720円のフグにとって、130円は、なかなかの買い物だった。フグは、自販機に中段回し蹴りを入れた。
フグ「ドリャアアアア!!」
自販機がかなり凹み、ガラスの部分にヒビが入った。
フグ「俺の空手の威力は、こんなもんじゃないはずだ!!セイヤ!!セイヤ!!」
フグは、自販機に正拳突きを何発も入れ始めた。それを見て、通りがかった中年の男が、止めに入った。
男「ちょっと、あんた何やってるんだ!!自販機をこんなに壊して。いい歳こいた大人が、暴走族みたいなことしてるんじゃないよ!!ったく。」
フグ「・・・・・・・・分かってないのは、あんただ。この自販機は魔物だ!!自販機の姿をした魔物だ!!ドリャアアアア!!」
フグは、自販機にソバットを入れ、さらに回し蹴りを何発か入れた。
中年の男「おいおいおいおい!!もう辞めとけ!!街の警備員が来るぞ!!」
男が、再びフグを止めようとすると、自販機の中の裏側から、小柄な身長1.3メートル程のゴブリンが出て来た。
男「うおっ自販機の中からゴブリンが出てきた!!」
フグ「な。言ったとおりだろ。私のような空手の達人になると、千里眼が使えるようになる。」
ゴブリン「クソッ俺の商売道具をメチャクチャにしやがって。俺の負けだ、ほらよ。お前が入れた分だ。」
ゴブリンは、財布代わりにしている布袋から、130円を取り出し、フグに渡した。
フグ「なんだ?これは。俺はこの自販機に、1000枚ずつ100円玉と10円玉を入れた。だから、これだけじゃ足りない。」
ゴブリン「嘘つけ!!1000枚ずつと言ったら13万だ!!そんなに自販機で、ジュースを買う奴なんているはずないだろ!!」
中年の男「確かにそれは言いすぎだ。13万と言えば、缶ジュース1000本分だからな。せいぜい、よく買っても10本ぐらいまでだろ。」
フグ「うるさい!!黙れ!!俺は確かに今、100円玉と10円玉を1000枚ずつ入れたんだ!!ドリャアアアア!!」
フグは、ゴブリンの顔に右上段回し蹴りを入れた。
ゴブリン「ギャアアアア!!」
ゴブリンは倒れ、フグは、お金の入った布袋を手に取った。
中年男「おいおい、何も全部取らなくても。」
フグ「・・・・・・・・。」
フグは、中年男を少し見つめて近寄った。
フグ「貴様も喰らえ!!ドリャアアアア!!」
フグは高くジャンプして、中年男の脳天に踵落としを喰らわした。
中年男「ホゲエエエエ!!」
中年男はその場に倒れ、気絶した。
「卑しい奴め。これは全部、俺の金だ!!」
フグは、さらにその場に倒れているゴブリンと中年男の腹に、何十発か蹴りを入れた。
フグ「金は、人の心を変える恐ろしい魔物よ。俺のような空手を極めた者でさえ、一瞬、その魅力に惑わされそうになった。危ない危ない。」
フグは、自分にそう言い聞かせて、その場を去った。
フグ「今日は、久しぶりに高級寿司でも食いに行くか。」
今日も逞しくワイルドに、異世界を生きるフグであった。