フグの決断
フグと少年は、痩せた色白男とその妻と向かい合って、ソファーに座り、イチゴのショートケーキとコーヒーをご馳走になりながら、話を聞いた。
フグ「こいつに、あんた達は吸血鬼の子孫で、夜中に血を吸われたら恐いから、一緒に退治してくれと頼まれてな。それでここに来たんだ。」
痩せた色白男「なるほど。確かに私の遠い祖先は、戦争で敵の兵士達を串刺しにしたらしく、それでドラキュラと呼ばれてたらしいのです。あだ名がドラキュラってだけで、人間の血を吸ったりはしません。無論、私も妻も。」
フグ「仕事は何をしてるんですか?」
痩せた色白男「作曲家です。デビル・エンジェルズのキーボード担当で活動しています。」
少年「え?本当ですか!!サイン下さい。」
フグ「そんなに有名なのか?」
少年「フグさん知らないの?聞き応えのある曲ばかりで、有名なバンドだよ。」
フグ「あ、あ~あ、あの有名なデビルな、デビルデビル。も、もちろん知ってるさ。」
フグはなぜか、見え見えの嘘をついた。
少年は、痩せた色白男から、サイン入りの色紙をもらった。
少年「フグさん、どうやら吸血鬼じゃないみたいだ。帰ろう、ただの噂だったんだ。」
妻「ちょっと待って。」
妻が席を立ち、台所に行って冷蔵庫から、モンブランを何個か取り出して箱に詰め、フグと少年に渡した。
妻「お土産です。」
フグと少年は、モンブランの入った箱をそれぞれ受け取った。
少年「わあ、ありがとう。」
フグ「・・・・・・・・ドリャアアアア!!」
フグは突然立ち上がり、痩せた色白男の妻に右上段回し蹴りを入れた。妻はぶっ飛び、窓ガラスに顔をぶつけつて気を失い倒れた。
痩せた色白男は立ち上がり、妻のもとに行ってしゃがみ込み、倒れた妻を抱き抱えた。
「大丈夫か!!しっかりしろ。あんた、なんでこんなことするんだ!!」
フグは、猟銃を痩せた色白男の頭に突き付けた。
少年「フグさん、なにしてるんだよ!!その人達は吸血鬼じゃないって!!」
フグ「確かに話を聞いた限り、99%吸血鬼じゃないだろう。しかし、100%吸血鬼じゃないとは言いきれない。俺はこの街を守る保安官。危険因子は削除しなければならない。今すぐこの街から出ていけ!!お前達がいなくなれば、地域の人達が安心して眠れる。」
少年「フグさん、ケーキとかご馳走になったじゃないか。それに、お土産までもらって。」
フグ「子供は黙ってろ!!立て!!早く表の車に乗って、その女と共に、この街から出ていけ!!」
痩せた色白男「わ、分かったから、荷物をまとめさせてくれ。」
フグ「ダメだ!!さっさと車に乗って出ていけ!!」
フグは、痩せた色白男と倒れた妻を立たせ、ビルから外に出させて、車に乗せた。
フグ「じゃあ、気をつけてな。新しい街でうまくやれよ!!2度とここには帰って来るなよ!!帰って来たら、保安官の特権で撃ち殺すからな!!」
フグは、痩せた色白男に猟銃を向けながら、別れの挨拶をした。
痩せた色白男は、助手席に妻だけ乗せた車を運転して、この街から出て行った。
少年「なんでそんな酷いことするんだよ!!フグさんなんかに頼むんじゃなかった。」
フグ「一度吸血鬼という噂がたったら、例えそうじゃなかったとしても、その噂を消すのは難しい。これは、あの夫婦のためでもあるんだ。」
それから数日後、ドラキュラビルの地下から、何人かの少年少女の遺体が見つかった。
少年少女達は、農村出身の行方不明者達で、酷い拷問の痕があったそうだ。