フグVSドラキュラ王
バスの中は混んでいて、フグと少年はずっと立ったままだった。
バスのアナウンスが流れた。
「次は、ドラキュラビル前!!ドラキュラビル前!!お降りの方は、ボタンを押して下さい。」
少年「フグさん、ここだよ。ボタンを押して。」
フグ「ドラキュラビル前って、名前もろ出しのバス停じゃないか。ちょっと待ってろ。ドリャアアアア!!」
フグは右足を振り上げて、踵落としでボタンを押したが、勢い余って、座っているおばさんの頭にも、踵落としが当たってしまった。
おばさん「あいた!!あんた、なんで足でボタンを押すの!!馬鹿じゃないの!!」
少年「そうだよフグさん。普通に手で押せばいいじゃん。」
フグ「す、すいません。空手の修行も兼ねて、ついつい足でボタンを押してしまいました。」
おばさん「なんでバスの中で、空手の練習をするの?こんな狭い所でそんなことしたら、人に当たるでしょ!!何考えてるの!!」
フグ「だ、黙れババア!!それ以上言ったら、俺の踵落としで頭かち割るぞ!!」
フグの怒鳴り声で、バスの中は静まり返り、おばさんは黙りこんだ。
ドラキュラビル前のバス停でフグと少年は下り、ドラキュラビルに入って、入口のインターホンを押すと、女の声がした。
女「はい。どちら様ですか?」
フグ「俺はこの街の保安官だ。このビルの主人に用があって来た。」
フグがそう言うと、オートロックの扉が開いた。
女「302号室へどうぞ。」
フグと少年は扉を開けて、玄関正面にあるエレベーターに乗って3階で下り、302号室の扉をノックした。さっきの女の声がした。
女「どうぞ、お入り下さい。」
フグはその言葉を聞いて、割り箸を輪ゴムでとめて作った十字架をリュックの中から出した。
フグ「お前も持ってろ。」
少年「なにこれ?こんなのいらないよ。」
フグ「いいから持ってろ。」
フグは、少年に無理やり十字架を渡すと、扉を開けて部屋に飛び込み、さっきの声と思われる、長い金髪の美しい女の額に、十字架を押し当てた。
フグ「ドリャアアアア!!悪霊退散!!」
女「キャアアアア!!ちょっと、いきなり何するの!!」
フグは少年に怒鳴った。
フグ「なにそこでボウッと突っ立ってるんだ!!お前もここに来て、この女の額に十字架を当てろ!!」
少年がどうしようか迷っていると、小柄で色白い痩せた男が、奥の部屋から現れた。
男「何なんですか?あなた達は!!私の妻に何をしてるんですか!!」
フグ「出たな!!ドラキュラ王!!その青白いイカにも麻薬をやってそうな肌と、痩せこけた体。お前こそまさに、ドラキュラに絵を描いたような男だ!!この十字架を喰らえ!!ドリャアアアア!!」
フグは女を押し飛ばして、痩せた男の額に十字架を押し当てた。
男「イタタタタッ痛いって。」
フグ「フフフフッ俺の十字架攻撃が効いてきたようだな。死ね!!ドラキュラ王。魂を天に捧げよ!!」
男「グワアアアア!!私の魂が、消滅する!!って、いい加減にして下さい!!そんなに額に割り箸を押し当てたら、痛いですって!!」
フグは、倒れた男に馬乗りになり、額に十字架を押し当て続けた。
フグ「消滅せよ!!ドラキュラ王!!」
男「イタタタタッ痛い痛い。」
少年がフグの肩を叩いた。
少年「フグさん、フグさん。なんかその人、ドラキュラじゃないみたいだよ。」
フグ「な、なに!!いやいや、そんなことはない。この色白に痩せこけた体。こいつはドラキュラ王だ!!」
男「私はドラキュラなんかじゃない!!普通の人間だ!!」
フグに押し飛ばされた、男の妻が立ち上がり叫んだ。
女「そうよ。私達は人間よ!!ただの普通の人間よ!!」
様子がおかしいことに気づいたフグは、馬乗りになった男からサッと離れた。