勝手に保安官
仕事が休みの日曜日の午前中、フグは、ボロい木造の家である小屋に寝転がり、天井を見ながら、昔の苦い思い出にふけっていた。
一 数年前 一
夕暮れ時の雨が降る森林の中で、フグは倒れている空手の師匠のもとで叫んでいた。
フグ「先生、しっかりして下さい!!」
フグの師匠は、デップリとした打たれ強そうな体格で、身長175ぐらいのアジア人。腹を角か何かに貫かれて穴が空き、大出血をして倒れていた。
師匠「フグよ・・・・いくら鍛えても・・・・人間の強さには限界がある・・・・魔物には・・・・空手だけでは勝てない・・・・この世界では・・・・負けたら終わりだ・・・・どんなことをしてでも・・・・生き続けろ・・・・俺みたいに・・・・空手にこだわるな・・・・。」
フグ「し、師匠!!師匠!!」
そして師匠は息絶えた。
フグのボロ小屋の戸をガンガンと叩く音が聞こえた。
フグ「誰だ、こんなクソ早くからドアをガンガンと。そんなに叩くと壊れてしまう!!」
ドターン!!
ドアが外れて、1人の少年が入った来た。
フグ「おい、なんだ貴様!!ドアを壊して人の部屋に勝手に入って来やがって!!叩き殺すぞ、小僧!!」
少年は14.5歳ぐらいで、街でよく見かける中学生のような感じだった。そして、腰元に長い木刀を据えていた。
少年「あら、ドアが外れた。すいません。空手の達人・フグさんですか?これから街の外れにある廃れたホテルに、ヴァンパイアを倒しに一緒に行ってもらえませんか?」
フグ「ふざけるな!!俺の家のドアを壊しやがって!!まず謝るのが先だろ!!」
少年「ドアを壊してごめんなさい。」
フグ「ったく。これだから最近のガキはよ。とりあえず、中に入れ。」
フグは、ブツブツ言いながら外れたドアをはめて、少年と畳の上に向かい合って座り、話を聞いた。少年の話によると、吸血鬼の子孫の男が、街の外れにあるビルに引っ越して来たらしい。で、近所の人達は、その男に特に何かされたわけではないが、吸血鬼の子孫なので、恐くて夜も眠れないということだった。
フグ「何もされてないんだったら、別にいいじゃないか。」
少年「でも、吸血鬼だからいつ血を吸いに襲って来るか分からないし。とにかくフグさん、俺と一緒に吸血鬼の所に行ってくれ。あんたは空手家であり、この街の保安官でもあるんだろ。」
フグ(そうだった、俺はこの街の保安官になったんだ。)
フグが勝手に自称・保安官を名乗っていたので、一部の街の人達は、本当にフグが保安官だと思っていた。そしてフグも、自分が本当に保安官になった気分になっていた。
保安官と少年に呼ばれて、フグは心地良い気分になった。
フグ「よし。保安官のこの俺が、その吸血鬼を成敗してやる。ちょっと準備するから待ってろ。」
フグは、リュックにポテチとチョコ等を入れて背負い、猟銃を持った。
少年「空手で闘うんじゃないの?」
フグ「保安官と言えば銃だろ。今の俺は保安官9割、空手家1割だ。」
フグと少年は家を出て草原を歩き、街の入口にあるバス停に着いた。
フグ「お前、まさかバスに乗るつもりか?俺は今財布に、62円しか入ってないぞ。ATMの中には、100億あるんだがな。」
少年「歩いてたら何時間もかかってしまう。それに疲れるし。バス代、フグさんの分も出すから。」
フグ「おお!!悪いな。ついでに帰りのバス代も頼む。」
少年「・・・・分かった。」
少しして、オレンジ色のバスが来たので、2人はそれに乗り、吸血鬼の子孫を倒しに向かった。