題三話 聞き慣れた声
村で唯一酒を作ることが出来るのは俺だけだ。交易も殆ど無い村だから都市に出回ることもまずない
うちの酒を夕食のときに出すとフランキーさんは「こんな旨い酒は飲んだことが無い!」と喜んでくれた。
ただ、酒とは思えないほど果物の甘い味が強く出ており何杯でもいけそうな気がするのだがこれが
意外にアルコール度数が高い。
案の定フランキーさんも直ぐにアルコールが回ったのか顔が赤くなっていた。
「ルークス君……敬語はやめろっていっただろう!!」
「だから流石にそれは出来ませんって、というよりお酒弱かったんですね意外です。」
「いーや、私は強いほうだぞ!これしきで酔っ払うわきぇがにゃい!」
いや、もう完全に出来上がってます隊長!すでに呂律が回っておりません!
酒が好きでも直ぐに酔っ払ってしまう人と言うのは大抵が自分は弱いと認めようとしない。
それをこっちが何度も突っ込むと不機嫌になるのを良く知っている。親父がそうだから。
ここは別の話題を振って意味の無い説教を喰らうのを回避しよう。
「そういえばフランキーさんは結婚してるんですか?」
「おぉよく聞いてくれた!今年で5歳になる子がいるんだが世界で一番可愛いぞ!……ヒック……娘はやらんじょ?」
おっとこれは話題のチョイスを誤ってしまったぁ!
フランキーさんの性格を考慮すれば子供に溺愛なのは気がつけたはずなのに迂闊だった……。
そこから2時間愛娘の自慢話を聞かされたのは言うまでもない。
フランキーさんがトイレに席を立っている時にこっそりと酒と同じ果物を使ったジュースに変えておいた。それからフランキーさんのアルコールは徐々に抜けていき愛娘自慢が終わる頃には真っ直ぐ立って歩くことも呂律も無事正常に戻っていた。
「今更ではあるけどいきなり来てしまって問題なかったのかい?君の両親にだってまだ会ってないし。」
「あぁ、気にしないでください。うちの両親は自称旅人やっててここには俺しか住んでいません。」
「そういえばキンチェムの名前の話のときもそんなこと言っていたね。旅人かぁ……面白そうだなぁ。」
「昔、残される俺の気持ちを考えてくれ!って言ったんですけどね、お前ももう大人だろう?と考えてるのか考えてないのか良く分からない返事されましたよ。本当自由気ままな両親には参っちゃいます。」
「ははっそれは自由気ままな両親だね。でも君が一人でも大丈夫だと信頼されてる証じゃないかな。」
「そういう風に捉えるまで時間が掛かりましたけど今はそういう風に思ってます。」
「大人になったんだね。でもそれでも残される方はやっぱり寂しいものだよね……」
そこで家族の話は終わった。
夕食を食べ終わるとフランキーさんが少し外を歩きたいと言ったので散歩がてら村を歩くことにした。
夜風は心地よく夜空に浮かぶ満月の月光を頼りに話をしながら村歩き、俺がいつも昼寝をいつもしている川辺で足を止めた。
「ここはいい村だ、都市から近ければ私は必ずここに住んでいただろうな。」
「何も無くてすぐに飽きちゃいますよ。都市に言った友人達からたまに手紙が送られてくるんですが
もう絶対に村で生活できないって書いてありますよ。」
「ははっ確かに君たちのように若者からすると都市は魅力的に見えるんだろうな。私はこの村の方が都市より平穏で自然に囲まれていて家族で暮らすには最高の場所だと思うよ。」
フランキーさんの声は過去を懐かしむような悲しむような声色になっていた。
気になってフランキーさん見ると何かを思い出したのだろうか寂しげな表情を浮かべていた。
誰にだって苦しい経験や辛い経験というものはある。それは人に聞いて欲しいときと触れて欲しくないときがある、その人が話さないのであれば俺は無理に聞こうとは思わない。
「おっと、しんみりしちゃったね。そろそろ戻ろうか、明日は早朝には出発したいから早いが休ませて貰うよ。」
「いえいえ気にしないでください。では戻りましょうか。」
俺達は再び歩き始める。たださっきとは打って変わって会話をすることは無かった。
会話が無くて息が詰まるという事は無く、むしろ無言の時間がなぜか心地よいと感じていた。
しかし直ぐにその時間は終わる。フランキーさんは急に足を止め俺の肩を叩く。
「ルークスくん、これ以上先に行ってはだめだ、何かがいる。」
「何かって……熊とかですか?」
「いや……これは多分魔物だ。しかもかなり強力な。」
魔物?そんなはずはない。俺が知ってる限りではこの村に魔ものが出たなんて話しは聞いたことが無い。
でももし本当に魔物だったら?フランキーさんがいるから大丈夫だとは思うけどもしフランキーさんが蒔けたら?不安が頭の中を縦横無尽に駆け回る。そんな私を見かねてフランキーさんは「大丈夫だ」と何度も声をかけてくれた。
「ここから直ぐ先にいる……多分屋根の上に乗ってるね。」
「えっ俺の家ですか?」
「あぁ、多分そうだね。とにかく武器が無いとどうすることも出来ない。慎重に進もう。」
「あのっ俺はどうしたら……」
「敵が一匹とは限らないからね、一緒にいるほうが安全だろう。」
俺は「わかりました」と大きくうなずきフランキーさんについていくことにした。
木々に体を隠しながら徐々に進み家が見えるところまでたどり着く。すると屋根の上には確かに何かいるのが見えた。そしてその何かは俺達に気がついたのかこちらに向かって……否、俺に向かって言った。
「ルークス、お前を殺す……抵抗せず大人しく死んでくれ。」
聞き覚えのある声だった。その声の主は自称旅人で年に数回しか聞くことは無いが聞き間違えたり忘れるわけがないほど聞きなれた声だった
「何言ってんだよ……親父……。」




