第12話 アンナとアメリア
本当に死にかけたのか疑いたくなるほど俺は元気だった。
目を覚ましてから1時間程で俺は普通に歩けたし走れた。
やっぱり夢だったのんじゃないかと疑ってしまう。
だけれどスウェインさんの体は確かに傷だらけでずっと俺に謝ってくるのを見ると
確かに俺は死にかけていたのだと思い知らされる。
「す、すまなかったルークス君……私はなんとお詫びしたらいいのやら……。」
フランキーさんは俺が目を覚ますやいなや体力の付くものを買ってくると行ってすぐに出て行ってしまい
部屋には俺とスウェインさんだけに微妙に気まずい雰囲気が流れていた。だがすぐにその静寂はスウェインさんによって破られた、がそれは30分前の話だ。
「お願いしますから頭を上げて下さいスウェインさん。確かに死にかけるとは思いませんでしたけど救護班の人や最強の智さんのおかげでこうして元気でいますから!それにフランキーさんにボコボコにされたんでしょ?もし生きてたら殴ってやろうと思ってましたけどフランキーさんが代わりに殴ってたみたいなので俺は何も気にしていません。ただ、明日からの特訓では手加減してくださいね?」
「いっそ私を殺してくれ……私は君になんてお詫びすれば……」
もうこの会話は6度目だ。何度気にしなくていいと言ってるのに30分前からずっとこの調子だ。
確かに訓練なのに相手を殺しかけてしまうのはまずいけど、これでは明日からの特訓に支障がでかねない。
なんとかせねば……。
……そうだ、あの人を連れてきてもらおう。
「そうだ、じゃあ最強の智さんを連れてきてもらえますか?あの人のお陰で俺の腕がこうして生えてるわけですしお礼が言いたいです。」
「ア、アメリアを……?来てくれるかな……彼女は気まぐれですぐにどこか行ってしまうので
必ず連れてくるって約束は出来ませんがいいですか……?」
今スウェインさんが彼女っって言ったという事は女性だったのか。騎士にも女の人いるんだなぁ……
もしかしてスウェインさんやフランキーさんみたいにゴツイのだろうか……
いやもしかしたら最強の智と呼ばれるぐらいだもしかしたら旅好きのお婆ちゃんの可能性もある。
まぁなんにしろ俺を助けてくれたのは確かだ、俺はお礼を言いたい。もうここを離れてたら諦めよう。
「えぇ構いません。この街から既に出てたら無理に追わなくてもいいのでこの街にいれば連れてきて下さい。」
スウェインさんは元気よく頷くと勢いよく部屋を飛び出していった。
俺はやっとスウェインさんの謝罪から解放されホッと息をつく。
窓から空を見上げると雲は殆ど無く、太陽は頭上から俺を見下ろしており今がお昼時なのを教えてくれた。
「ちょっと小腹が空いたな、フランキーさんは一体どこまで買い物に行ったんだ?」
もう1時間は戻ってこないフランキーさんを心配しながらも俺は空腹を満たす為になにか食料が無いかと
部屋の中を物色し始めていた。
しかし部屋には食料らしきものは一切無く、俺は諦めて外に出て何かを買いに出かけることにした。
幸いフランキーさんから、街での買い物にはこれぐらいあれば困らないだろうと1000ルピーを受け取っていた。もちろん最初は断ったが「ここはお金がないと何も出来ない、私がいないときに無一文だとどうしようもないだろう?だからそれだけでも持ってなさい。」と言われ俺は気が引けながらも受け取った。
お金を簡単な袋の中に入れ俺はドアを開けた。
「あ、あの……これを貴方に渡してくれって……。」
ん?誰だこの幼女は?それに俺に渡したいもの?
彼女の持っているものを見るとそれはなにやら真っ赤な果物を持っていた。俺はとりあえずそれを受け取り、しゃがんで彼女と話をすることにした。
「ありがとうね。はじめまして俺の名前はルークス・クラヴィス、君のお名前は?」
「私は、アンナ・ブラスコヴィッチです。パパにこれを渡すようにお願いされたので持って来ました……。」
パパ?それにブラスコヴィッチはフランキーさんの姓だ。もしかしてこの天使のような肌を持ち
くりくりとした大きな目をした愛らしい女の子があのゴリラの如く筋肉にまみれたフランキーさんの
愛娘だというのか!?
「……アンナちゃん、パパの名前はなんていうのかな?」
「パパはフランキー・ブラスコヴィッチ。ルークスさんはパパと友達なんじゃないんですか?」
やっぱりフランキーさんの娘さんかー……どうやったらあの人の子供がこうなってしまうんだ!?
いや、奥さんが天使のように美しい人だったのかもしれないな、うん、きっとそうだ。
「あぁそうだよ!俺はパパと友達だよ!それでパパはどこに行ったのかな?」
「パパはもう少し集めてから戻るって行って森に戻りました。」
あの人現地調達してたのかよッ!道理でいつまで経っても帰ってこないわけだ。
心の中でフランキーさんにツッコミを入れているのが顔に出てしまっていたのだろうか
アンナちゃんは心配そうにこちらを見つめていた。
「ルークスさん……さっきから変な顔になってるけど大丈夫ですか?」
「あ、あぁ!パパやみんなのおかげで体はすっかり良くなったよ!か、顔はアンナちゃんを楽しませようとワザとやってたんだよ!心配しないで!」
いかんいかんアンナちゃんに不審がられてはパパに何か勘違いされてまた死にかけちゃうよ!
そういえばアンナちゃんもここに住んでるんだったな。
急に押しかけてしまって迷惑になってないだろうか?
「アンナちゃん、急におしかけちゃってごめんね、パパと一緒に仕事に出るまでお世話になることになるんだけどいいかな?」
「大丈夫ですよ、パパはルークスさんはとても大切な人だって行ってましたし他の騎士の人たちがとまりに来ることはよくあるのでもう慣れっこです。」
そういうと彼女は照れくさそうにしながらも自慢げな表情をしていた。
か、かわいい……!
きっと俺の顔は気持ち悪いことになっているだろう。だが誰も見てないんだ気にしない!
しかし現実は残酷だ、アンナちゃんの後ろに俺の顔を見て「うわぁ……」と小さく声を漏らす綺麗な茶色の髪をした同い年位の女の子が立っていた。
「……私は変態を助けてしまったのね。まぁいいわ貴方もう体は大丈夫なの?」
これまた見覚えの無い人だな。とりあえず分かるのは俺の第一印象は最悪だろうということだ。
俺のことを聞いてくるという事はきっと救護班の誰かだろう。
「えぇ、貴方達救護班とアメリアさん?のお陰でこうして元気になりました。本当にありがとうございます!」
すこし声が大きかったかもしれないが命の恩人だ、声が小さいより大きいほうがいいに決まっている。
だが、彼女から返事は返ってこなかった。
彼女のほうを見ると彼女は俯き、両手を強く握り締めていた。
バッと勢いよく彼女は顔を上げ俺のほうをにらんだ。どうやらかなりご立腹のようだ。
「あんな役立たずと一緒にしないでっ!私が一人でやったようなもんなんだからもっと感謝しなさい!
私は国衛騎士団最強の智と呼ばれているアメリア・ブラウン!貴方の命の恩人よっ!」
スウェインさんが探しに行ってるはずの彼女がまさかここを訪れるとは。
彼女がここにいることをスウェインさんに伝えることできない……まぁいっか。
スウェインさんは夜になるまで探し続けたらしい。