第11話 特訓で死にかけるってどうなってんだ!?
一体何が起きたんだ……?
俺はフランキーさんに連れられ国衛騎士団の訓練場にやってきてスウェインさんという騎士の人と訓練を
始めたんだ。格闘の訓練でスウェインさんにパンチを入れたらはずなのに何がどうなってるんだ。
なんで俺の手が文字道理無くなっており、壁に打ち付けられ体のありとあらゆる箇所から血を流してるんだ……?
あぁ、さっきまで俺を抱きしめていた痛みがなくなってきた……
これがもしかして死ぬってことか……?
30分前……
「彼が今日の特訓に協力してくれる、”スウェイン”だ。スウェインは国衛騎士団最強騎士の一人だ!
特訓に付き合ってもらうにはもってこいの奴だろう!」
「……フランキーさん、なにが”もってこいの奴だろう!”ですか。どうして騎士団最高峰の人を農民の俺の
特訓に連れてきてるんですか!フランキーさんが特訓相手でいいじゃないですか!」
「私が?私はアドバイス係だ!それに自慢じゃないが私は手加減出来んからな!下手したらルークス君を
殺しかねん!」
どうしてそんなに誇らしげなんですか……。
流石に魔王討伐作戦の前に特訓で死ぬのは御免だ、気を使ってくれてありがとうね隊長。ただスウェインさんも手加減できない人だったら俺は死んでしまいますけどその辺りは大丈夫なんですよね?
それにしてもさっきからスウェインさんは喋らないな、さっきからずっとこっち見てるし……。
きっと見るからに貧弱な俺の相手をしないといけないことを怒ってるんじゃないだろうか、こんな怖そうな人を怒らせる前にフランキーさんを説得しようそうしよう。
「フランキーさん、スウェインさん何か怒ってるみた」
「挨拶ぐらいせんかスウェイン!いくら人見知りで気が弱いとは言えど挨拶はしないとダメだぞ!」
「す、すみませんフランキー隊長……。この方から感じるヤル気に威圧されて言葉が出てきませんでした……。今日の特訓に協力させていただきますスウェイン・ゴードンと申します。最強の騎士と先ほどフランキー隊長が言ってましたがフランキー隊長一人に最強の騎士と呼ばれる方々が束になっても勝てません。」
威圧などした覚えはありません!むしろこっちが威圧されっぱなしで今すぐにも逃げ出したいです。
ただ見た目ほど悪い人じゃなさそうで安心した。きっとこの人なら手加減とかしてくれそうだ。
なんだ、フランキーさんの言うとおり特訓の先生として適任の人っぽい。
最強騎士が何人か分からないがどんだけ強いんだよフランキーさん。
「さぁではさっそく特訓を始めよう!スウェインは反撃せず防御に徹し、ルークス君は
力の限り攻撃し続けるのだ。まずは君がどの程度の実力を持っているのかを見たい。」
「わ、分かりました。絶対に反撃されないんですね?なんだか心が痛いですがスウェインさんを倒すつもりで攻撃しますね。」
「いい心がけだ!スウェインは最強の盾という二つ名があるぐらいだから厳しいだろうが頑張ってみたまえ!ではお互い準備はいいかね?」
俺とスウェインさんは10m程距離を取り一度お互い顔を見合わせ準備が出来てることを確認しフランキーさんに開始の合図をお願いする。
「それじゃあルークス君、無理はしないようにね、今日は初日だしゆっくりやっていこう。
それではよーい……はじめ!」
とりあえず今回は格闘戦の特訓だ、近づかなければ何も出来ない。俺は全力でスウェインさんに近づき
持てる力すべてを拳に込めスウェインさんの腹を殴った、はずだった。
いや俺が放った拳は確かに腹に当たっていた。だがその腹は鋼鉄のように固く体中に骨の砕ける音が鳴り響いた。そして次の瞬間俺の腕は何かに喰われ、後方に吹き飛ばされた。俺はどれぐらいの速さで吹き飛ばされたのかは分からないが後方にあった壁が砕けるほどの勢いで叩きつけられた。壁の砕ける音と同時に聞こえてきた全身の骨が砕ける音とべちゃっと言う内蔵の潰れる音だった。
「え……一体……な……にが……。」
フランキーさんとスウェインさんが何かを喋りながらこっちに向かってきているが何を言ってるのかは
聞こえない。全身を強く抱きしめる痛みはすぐに引いていき今度は眠気が襲ってきた。
あぁこれがもしかして死ぬってことなのか……?
俺はそこで目を閉じた。
何が起こったのか全然分からないけどスウェインさんが何かしたのだろう。
スウェインさん……手加減できない人でしたか……。
怒りという感情の前に死ぬことを察した俺の心は諦めの気持ちが勝った。
いや、でも神様がもし命を繋いだらかならずスウェインさん殴りますから。
俺はそこで意識を手放す、いや意識が旅立った。
目を覚ますとそこは今朝見たばかりの天井が見えた。
どうやら生きてるらしい。意識ははっきりしてるし体はどこも痛くない、喰われたと思った右手はある。
もしかしたら夢の中で目が覚めて特訓をしてその特訓で死んで目が覚めたのかもしれない。
もしそうだとしたら今日の特訓行きたくねぇ・・・
布団から体を起こし自分の体を確認する。体のどこにも傷らしいものは見当たらない。
右腕だって問題なく動く、やっぱり夢だったか。
ふぅ……と小さく溜息をついていると部屋の扉が開きフランキーさんとスウェインさんが入ってくる。
「おはようございます。」と挨拶をすると2人とも鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
なにかおかしいことを言ったのだろうか?もしかして寝過ごして今は夕方か?
そうだとしたらおはようございますじゃなくて「こんにちは」か。
「こんにち」
「大丈夫かねルークス君!?体はどこも痛くないか!?腕に違和感は無いか!?」
勢いよく飛びついてきたフランキーさんの言葉と全身がボロボロになっているスウェインさんを見て
俺はすべてを理解する。やっぱりあれは夢じゃなくて現実だったんだ。
「え、えぇ今のとこどこも痛くないですし腕も問題なく動きますよ。流石に死にかけるとは思いませんでした。いやどっちかというと生きてるほうが意外です(笑)」
冗談っぽく言ったつもりだったが俺の頬を涙が伝っていた。理由はたったひとつだ。
――すごく痛かったし怖かった。でも生きてて良かった……。
後から聞いた話だとすぐに救護班を呼びすぐに集中治療が始まったそうだ。
放浪癖のあるらしい最強の智と呼ばれる人が偶然この街へ戻っていたこともあり
治療はほぼ完璧に終わったそうだ。ただ腕だけは既にスウェインさんの中に棲む聖護獣に喰われてしまっていた為模倣品らしいがこれも最強の智さんの手によってほぼ完璧に再現されてるらしい。
すげーなその人。そして俺の無事が分かったフランキーさんはスウェインさんをボコボコにしたらしい。
スウェインさんは気が最高に弱い。咄嗟に最上級防護魔法を自身にかけ、されに最上級反射魔法を自身にかけたらしい。そしてそれに気がついた聖護獣が危険と勘違いしスウェインさんの腹に当たっている俺の腕をいただきます!ということだった。
気が弱いにも程があるだろう、貧弱パンチに全力で防御しなくてもその鋼のように堅そうな筋肉で
余裕で防げるっての。生きていたら必ず殴ってやると思っていたが、すでにフランキーさんがボコボコに
してるのを見て、逆に可哀想に思えて怒る気になれなかった。
フランキーさん明日からは俺が死にかけないようにちゃんと見守ってて下さいね……。




