第10.5話 団長 アーク・エルケンス
結局フランキーさんは娘自慢を終えるとすぐに寝てしまった。
どうやら他の人たちがフランキーさんと一緒に飲まない理由はこれだったらしい。
酒に対して強くないのにハイペースで飲み誰よりも先に出来上がってしまい寝落ちするまで続く
娘自慢、そして何をしても起きない程の爆睡。こりゃみんな呑むのを控えるわけだ。
結局フランキーさんと同じくらい体格のいい人が肩を貸していた。
うん、俺全然関係ないけどとりあえず謝っておこう。
「あの、なんだかすみません。流石に俺じゃこの人は運べないので助かりました。」
「なに、気にすることは無いさ。フランキー隊長と付き合いは長いのでねさすがに慣れっこさ。おっと自己紹介がまだだったね。私は国衛騎士団団長、アーク・エルケンスだ。君も作戦に参加するんだってね、フランキー隊長から話は聞いてるよ。苦しい戦いになるが一緒に頑張ろう!活躍を期待してるよ。」
いつの間に話したんだよフランキーさん……。最高適正武器「農具」の俺が国衛騎士団団長に期待されるって一大事だぞ。仮にお世辞だったとしても、作戦に参加する以上それなりの手繰れだと思われてるとするとかなりヤバイ。なんたって俺は武器がからっきし使えないのだから。「よ、よろしくおねがいします」と気弱に挨拶をするとアーク団長は俺の心中を見透かしたかのように笑いながら話す。
「君は他の町で兵士をやっていたり傭兵をやってたわけではないのだろう?体格や歩き方、仕草や目線の動かし方ですぐ分かるよ。フランキー隊長から聞いてるかもしれないがこの作戦に選ばれた人たちは皆、国王陛下一人で決められた。この作戦は全員が揃い次第街を出る手筈になっている。つまり殆ど訓練などは出来ない。それでも君が選ばれたという事はきっと何か理由があるのさ。だからルークス君は出来ることをやればいい、武器を握って魔族と戦うことだけが戦場に出て戦うという事ではないんだよ。」
やっぱり騎士の人ってすごいんだな、何も言ってなくても分かるのは流石戦いの中に身を置いてる人って感じだ。俺達の話し声が耳に入ったのかフランキーさんは目を覚まし肩を貸してくれていたアーク団長に礼をいい自分の足で歩き始めた。妙に足早で歩きフランキーさんは少しみんなの先を歩く。上司に肩を借りるのは流石に不味いんじゃないかと思った俺は少し小走りでフランキーさんに近づきアーク団長達に聞こえないように小さな声でフランキーさんに聞いてみた。
「ちょっとフランキーさん、団長さんに肩借りるって大丈夫なんですか?上司に肩借りちゃ不味いんじゃないですか……?」
まだアルコールがバリバリに回ってるのだろうフランキーさんは俺の気遣いをお構い無しに
デカイ声で答えを返した。一体俺の気遣いはどこへ行ってしまったのだろうか?もしかしたら村に帰ってしまったのかもしれないな。
「アーク団長のことか?いつも世話になって悪いとは思ってるが酒を飲むといつの間にか寝てしまってな、気がついたら大体団長達に肩を貸してもらってるぞ!いつも感謝はしてるぞ!」
「そ、そうですか……。」
フランキー隊長の大音量の声に気がついたアーク団長は半ば諦めた顔をしながらこちらへ近づき溜息混じりにフランキーさんに声をかける。
「フランキー隊長、誘っていただけるのは嬉しいですがどうか寝ないようにだけお願いしますよ……。
仮にも団長の私が部下であるフランキー隊長を毎回送ってるのを国民は「普通逆でしょッ!」って
笑ってるんですからね。あと今はもう大分遅い時間ですあまり大声で話さないでくださ。」
「お、すまんすまん!いやーなんだか気分がよくてな!」
だから声が大きいですってフランキーさん。そして国民に笑われてるってそれ騎士としてどうなんですかフランキー隊長……。い、いや街の人たちに親しまれているという表れと言う可能性も……でもデカイ声は近所迷惑に違いないな。
「あれ、アーク団長はフランキーさんに対して敬語を使ってフランキーさんはアーク団長に敬語を使っていない……?まずいですよフランキーさん、いくら酒入ってるとはいえそこは守らないと!」
俺がフランキーさんにそう伝えると2人はキョトンとした顔でお互いの顔を見合っていた。俺は何か変な事を言ったのだろうか?今度はフランキーさんだけでなくアーク団長も笑い始めた。
貴方も十分に声大きいですよアーク団長……。
「あぁそうかルークス君は知らなかったね。フランキー隊長は私の先輩で、本来はフランキー隊長が団長の座に座ってるはずだったのだよ。実力も人望も私より遥かにあるというのに「私に団長は務まりません。」と言って国王陛下の申し出を断ったのさ。そして団長に選ばれたのは私でまさに肩書きだけなんだよ。」
「なに言ってるんだ!団長として立派になったじゃないか!私がなるより遥かにいいと思うぞ!」
「……とこんな感じで未だに変わってもらえないのです。」
フランキーさんの実力がどの程度なのかは分からないが隊長なのだからきっとすごいものなのだろう。人望に関しては街の人達をみていれば一目瞭然だ。ただ多分さっき話してくれたことが気に掛かってるのではないだろうか?団長になればきっと今以上の恩恵を受けれるに違いない、もし俺がフランキーさんの立場だとしたら一番大切な人を守れなかったら自分が団長を名乗るのは出来ない。もしかしたら本当に自分には向いてないと思っただけかも知れないけど俺はふとそんなことを思った。
「さぁ家にはもう着いてますよ。いつまでもこんなとこで話してると日が昇ってきちゃいます。
明日も訓練ありますし早く寝ましょう。いくらフランキー隊長とはいえど遅刻は許しませんからね?」
「あぁ分かってるさ!っとそうじゃない。ルーク、明日スウェインを借りてもいいか?
時間はないが明日からルークス君の特訓をしたいと思っててな。」
「ふむ……明日は特に特別な予定も任務も入ってなかったと思いますので構いませんよ。
では明日伝えておきますね。時間はどうします?」
「お昼からにしよう。いいかお昼からだぞ?」
「フランキー隊長……朝起きられないからお昼からとかそういう理由じゃないですよね?」
「……」
この人はなんだかんだ苦労してそうだ。さっきから溜息ばかりついている。
今もまさに「やれやれ」と言わんばかりの溜息を連発中だ。
だがその溜息の中にはしょうがないなぁと思わせるような笑みがありフランキーさんもそれを見て笑っている。俺はそんな関係の二人が少し羨ましくなった。
「分かりましたよ。ではお昼に訓練所に来てくださいね。それでは失礼しますね。」
ルーク隊長はフランキーさんにお辞儀をし背を向けて去っていった、と思ったら隣の家に入っていった。
隣かよッ!
「さぁ私たちも今日は寝よう。娘は流石にもう寝てるから明日の朝改めて紹介するよ。
手をだし」
「出しませんから。俺が言うのもなんですが早く家入って休みましょう。今日は色々ありすぎて疲れました。」
「お、おう!そうだな!今日は寝よう!」
フランキーさんの家にお邪魔し部屋に案内された俺はすぐに夢の世界へ旅立った。
明日から俺は農民ではなく兵士として訓練するのか、不安だが出来るだけのことはやろう。
俺は必ずベリアルを打ち倒さなければならないのだから。
だが俺はまだ知らなかった、明日の訓練で拳が砕け内臓が潰れるピンチが訪れることに。
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進みが悪くテンポ悪いかもしれませんがのんびり行きます。
現在の登場キャラクター
主人公 : ルークス・クラヴィス
国衛騎士団1番隊隊長 :フランキー・ブラスコヴィッチ
国衛騎士団団長 : アーク・エルケンス
国衛騎士団騎士 : スウェイン
敵キャラ
魔王???
ベリアル