第一話 俺に魔王を倒して来いっていうのか!?
2週間前まで農民だった俺はなぜか勇者にクラスチェンジしていた。
俺はロセウス村という小さな村に生を受けた。
イーリス大陸のほぼ最南にあるといっても過言ではない位置にあるこの村は
隣の街に出かけるまで丸1日かかるという最高に不便な村だ。
そんな辺鄙な場所にある村には当然都市のように華やかな店があるわけがなく、あるのは畑で採れた野菜や狩りの獲物を物々交換で売ってる年寄りぐらいだ。
そう、この村はまさに時代遅れなのだ。
成人を迎えると同時に村を出て都市を目指すの者が殆どで、都市から遠い村は
ここ同様かなりの高齢化が進んでいた。
だが俺は都市で華やかな生活を送りたいわけじゃなかったし村を出る理由が特に無かったから
今もなおこの村に住んでるというわけだ。
さて今日の仕事は終わったしゆっくり昼寝でも……ん?村長が走ってこっちに向かってきてるが
何かあったのか?
とりあえず足を止め村長を待つ。
普段は椅子に座りっぱなしで生きてるのか死んでるのか分からないような爺さんが
必死な顔して走ってるのだから何かあったんだろう。
「おい、ルークス……はぁはぁ……なにしたんじゃ……はぁ……」
「落ち着けよ爺さ……村長。とりあえず息整えろよ。」
きっとこれ以上話を続けさせたら爺さん酸欠で倒れちまう。
何したんだって爺さん言ってたけど別に変わった事はしてないはずなんだけどなぁ
変わったこと……うんやっぱり何もしてないな。
ここ最近は畑仕事して釣りや狩りしたり昼寝してたぐらいでこれといって怒られるようなことは
してないはずだ。
爺さんも落ち着いたみたいだな、聞いてみるか。
「どうしたってんだよ村長そんなに慌てて?」
「ルークスお前一体何したんじゃ!?お前に用があると国衛騎士団の人が来とるぞ!」
「国衛騎士団?国を守る為に作られたってやつだっけか。それがどうして俺なんかに用があるんだ?」
「わしも詳しくはまだ聞いとらん。とにかく急いで来るんじゃ。」
とりあえず会うだけ会って見るか。
どうせ人違いとか……いや待てよ?もしかして騎士団へ入団しろって話か?
どっかと戦争でもするのか?それとも人員補充か?
どっちにしろご勘弁願いたいね。自慢じゃないが俺の戦闘能力は最高に低い。
80近い村の爺さんと殴り合っても負けるし、狩りもナイフや弓が使えないから罠を使ってる。
どれだけ弱くても鍛えればなんとかなると思ってるのかもしれないがやる気がないから無理だ、
丁重に断ろう。
まだなんの話なのかも分かってないのに俺は騎士団の入団を断る決意だけできた。
爺さんの家に着くとそこには体格のがっしりとした栗毛の馬が立っており
その姿はまさしく威風堂々という言葉が相応しかった。
流石騎士の馬ってだなぁ、きっちり訓練されてるのか俺が近づいても怯えたり
威嚇するわけでもない、騎士が一流なら馬も一流ってわけか。
「キンチェムも君が気に入ったようだね、ご機嫌みたいだ。」
振り返るとそこには馬にも負けないほどがっしりとした大柄な男が立っており、
身に着けている鎧は傷だらけで歴戦の勇士なのは一目で分かった。
だがその体格と鎧の傷とは裏腹にとても優しそうな顔をした男だった。
「キンチェム……たしか意味は”私の宝物”でしたよね。」
「おぉ異国の言葉の意味を知ってるとは驚きだよ!いやぁ嬉しいねぇ。」
騎士は嬉しそうな顔をしてキンチェムに近づき背中を撫で始める。
キンチェムも嬉しそうな顔をしておりそれだけで二人の間には強い絆と信頼感があるのが分かった。
「両親が色々な国を歩き回ってるものですから、それで少しだけ知ってるだけですよ。」
「そうだったか、おっと挨拶が遅れた。私はウィリディア国、国衛騎士団第一部隊隊長フランキー・ブラスコヴィッチというものだ。君がルークス・クラヴィス君かな?」
「えぇそうです。俺がルークス・クラヴィスです。国衛騎士団が僕に何の用でしょうか?騎士になれというのならお断りいたします。俺の戦闘能力はそこいらの爺さんより低いですし俺はのんびり暮らすほうが性分に合ってますから。」
「キンチェムが君を気に入ったということはそれなりに素質はあるはずなんだけどそれは残念だ。
だけど今日は騎士団へ勧誘しに来たわけじゃないんだ。」
「違うのならいいのですが……じゃあそれこそ何の用でしょうか?」
「騎士としてではなく一個人の意見としては、騎士でもない君にこれを伝えるのは心が痛むのだが
国王陛下の直々の命だから伝えなければならない。」
「国王が俺宛に?」
フランキーは腰にかけていた麻袋から一枚の紙を取り出し読み上げる。
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ルークス・クラヴィス……貴殿に魔王討伐の命を我が名において命ずる。
魔王討伐の暁には貴殿の望みを叶えることを約束いたす。
第28代国王アルブム・アングイス
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……は?




