14歳
〜嫌われ者〜
中学2年
もう すでに
落ち零れていた
授業内容も
わからず
教室では
寝てばかり
教師にすら
見放され
授業中に
教室を出ても
何も言われなくなった
仲間達と
クラスを離され
何もする事もなく
休み時間のたび
廊下に仲間が
集う
そのまま
教室へは
戻らず
学校を抜け出し
意味もなく
街を徘徊する
仲間五人と
攣るみ
路上を歩いていても
何もかもが
くだらなく
ただただ
退屈な日々を
過ごしていた
商店街裏の
細い路地で
他校の連中と
擦れ違った
威嚇的
眼飛ばし
無意味な
闘志根性
何事もなく
通り過ぎた
数秒後
不意打ちを
喰らう
真後ろから
飛び蹴りされ
そのまま膝から
崩れ堕ちた
一斉に
集中攻撃の
蹴りを喰らい
何が起きたのかすら
わからず
蹲り
蹴りを浴び続けた
乱闘が始り
仲間達が
それぞれに
殴り始め
商店街の組合関係の方が
一報を受け
すぐに駈け付け
呆気なく
幕が降りる
殴られた他校生は
逃げ出し
起き上がれず
地面に這っていた俺のせいで
仲間諸共
学校へ通報され
強制的に
連れ戻された
職員室の廊下に
正座する
見世物のように
一時間近く
竹刀を持つ
体育教師が
何度も 竹刀を振り落とし
煙草も
取り上げられた
蹴られた痣が
無数に痛みを
訴える
無傷の仲間達
俺さえ居なければ
逃げられたと
冗談として
愚痴った仲間
右顎を蹴られ
奥歯に当たり
切れた頬肉から
滲み出る
鉄の味
無性に
苛立ちが
抑え切れず
血の含む唾を
仲間の開襟に
吐き捨てた
他愛ない
冗談すら
聞き流せない俺
職員室の前の廊下で
取っ組み合いの
喧嘩になった
仲間が止めるのも
聞かず
仲間の腕を
振り払って
『反省なし』
教室へ戻される
仲間達の中
俺ひとり
校長室へ
朗らかな
校長
憎悪だけを纏い
睨み据える俺
校長は
何も話さず
何度か腕時計を見て
「教室へ戻りなさい」
それだけを
告げた
放課後
何事もなく
仲間が迎えに来る
俺が殴り掛かった
仲間の顔が
笑顔で
俺は顔を叛けた
「行こうぜ」
仲間の声と共に
教室のドアを
力任せに
叩きつけ
仲間は
いなくなった
俺は
”嫌われ者”に
なりたがる
〜休み時間〜
休み時間
仲間の集う
廊下を避け
教室の中
寝たふりを
続けた
授業開始を告げる
チャイムが鳴ると
教室を出て
屋上へ向う
退屈な授業と
真面目な生徒に囲まれ
過ごす時間を
寝てばかり居ても
ただの苦痛に
なるからだ
屋上へ向う階段は
突き当たりの便所から
曲がった場所にあり
あまり
一般の生徒達が
居る事は少なく
階段を数段登り
折れ曲がった
踊り場に差し掛かった時
屋上から
降りてくる
三人の女子の姿は
違和感が
あった
同じクラスの
女子三名
当然 話した事もない
足早に階段を降りる
二名の女子が
俺を避けるように
壁際に寄った
後を追う女子が
俺と擦れ違い様に
声を掛ける
「子猫がね 元気ないの」
不安そうな顔をして
突然 掛けられた言葉
何を言っているのか
意味が わからず
俺に声を掛けてきた女子の方へ
振り返った二名の女子が
露骨に嫌な表情をして
「触らないで」
言葉を投げつけ
階段から姿を消した
屋上の踊り場には
見慣れない
小さなダンボール箱があり
箱を開けると
柔らかなタオルに
包まれた
小さな白い子猫が
居た
捨て猫を
拾ってきたのだろう
そして里親が
見つかるまで
女子三名で
屋上の踊り場に隠し
世話をするつもり
なのだろう
”触らないで”
とは
この白い子猫の事
首を捻り
屋上のドアに
手を掛けた時
”元気ないの”
そう言った
女子の言葉が
気になった
箱から
子猫を取り出すと
掌に乗る程
小さな猫で
真っ白な
可愛い猫だった
苦しくて泣いたのか
目の縁に目ヤニが
こびり付き
踊り場に吐き捨てた唾で
擦ってやると
堅くなった目ヤニが
黒い目の縁から
なんとか取り除く事が
出来た
軽い小さな子猫
子猫の割りに
腹が丸く膨らむ
親猫から離れ
捨てられた猫
薄いピンク色の肛門を
親指で摩ってやると
力みだした子猫が
水分のない
堅い糞を
懸命に排便し
カチカチの長い糞を
出し
”ミ~”と
微かに小さな声で
鳴いた
授業が終わり
廊下を走り
屋上の階段を
駆け上ってくる女子達
相変わらず
俺を避け
壁際に寄りなから
子猫を心配し
顔を叛け
擦れ違う
”元気ないの”
不安な顔の女子と
目が合い
俺は 擦れ違い様
「ウンコした」
それだけを
告げた
放課後
誰も迎えに来ない
教室から出る時
既製の制服を着た
真面目な女子が
人目も気にせず
俺に声を掛ける
「飼えないよね」
名前すら覚えていない
クラスの女子
俺は首を捻り
足早に通り過ぎた
”嫌われ者”の俺に
話掛けるな
俺に関わると
ロクな噂が
流れない
〜小さな恋〜
数日後
子猫の里親が
見つかったらしく
踊り場から
ダンボール箱が
なくなった
屋上への階段で
女子達と
擦れ違う事もなく
相変わらず
誰ともつるまず
独り
授業が開始する
チャイムが鳴ると
教室を出てく
便所の前の水道で
手を洗っていた
子猫の女子が
笑いながら
声を掛けてきた
「飼い主 見つかったよ
猫好きの いい人」
笑うと
目が細くなる
女子
嬉しそうに
報告する
”嫌われ者”の俺に
笑い掛けた
窓際の俺
壁際の女子
同じ教室の中
苦痛だった
退屈な授業
俺は 寝たふりをして
教室の中に
居続けた
休み時間になると
女子の席に
集まり
会話をする女子達
壁に寄り掛かり
目を細め
笑う
俺は
廊下の壁に寄り掛かり
女子と背中合わせに
笑い声を
聞いていた
小さな小さな
”恋”
誰にも
否定されない
小さな恋
白い子猫が
優しい恋を
俺に与えてくれた
同じ学校で
三年間
同じ時を
刻んだ
真面目な女子と
堕ち零れの俺
卒業するまで
一言も
喋る事なく
中学時代
残された
”記憶”
~END~