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【第三話後編】不信の村

辺りに広がる、空色に発光する花畑らしき庭。


その中央に、女の人がいた。

重ねた手を枕にして、

すやすやと眠るその人の寝顔は安らかだった。


恐る恐る近づくと、うっすらと目を開け、

ゆっくりと伸びをして、欠伸をし始めた。

大口を開けた状態で、目と目が合う。


「わ、わ、はわわ!?」


口を閉じきれず奇怪な声を発し、顔がみるみる紅潮する。

座っていた場所を飛びのき、『庭』の隅へと移動する。

まるでお話に出てくる恥ずかしがりやな少女だ。


しかし、どうみても、大人の女性だ。


「い、いやぁ。まさかここに人が、しかも男の人が来るなんて…。

でも、乙女の寝顔を覗くなんて、ひどい!さぁ責任を取りなさい!」

どことなく幼稚さの見える言葉。お転婆な子だとこんな感じなのだろうか。


しかし、どうみても、大人の女性だ。


「えっと、勝手に入ったのは謝ります。すみません。」僕は話し出す。

「ふふっ、知ってるよ。むしろ諦めずにここまでこれたことを褒めないと。

中には絶望して、岩に取り込まれる人もいるから。」さらりと怖いことを言う。


「ようこそ、最下層へ。ボクは『魔女』の国の女王さ。もう死んでるけど。」


耳を疑う言葉が飛び出す。

「え、人は死ぬと土に還って、骨になるんじゃ…。」

どこをどう見ても、人その物のその人が死んでるなんて信じられない。


「ふっふー。混乱してる?これも『力』のおかげさ。

ボクの『力』は『地に繋がる』こと。

この鉱山が僕の体であり、命でもあるんだ。


「だからもう300年は生きれるんじゃないかな?」屈託なく笑いかけてくる。


しかし、刹那、恐ろしく冷徹な表情に変わる。

「でも、これは秘密のこと、ほかの人には絶対に言わないこと。」

それが女王であった頃の顔なのだろう。


「い、いや…外のお婆さんに頼まれて薬草を取りに来ただけなんですが。」

「お婆さん?…あぁ、マギルか。お婆さんかー…。」

何かを思い出すように、目を閉じ、考えている。


「実はお願いがあってここに来るよう誘導したんだ。」上目遣いを始めた。


「ボクの目になってよ。今『外』がどうなってるか知りたいんだ。

もちろん2つの特典付き。まず入口までの近道を作ってあげる。

2つ目は、君に『力』を与えてあげる。」そして意地悪い笑みがこぼれる。


「ここまで来たら、お願いというより脅迫かな?うふふ。」


…僕も『外』が気になって旅を始めましたんです。

だから他人事には思えません。

事情は分かりませんが、僕でよければお手伝いします。


やった!『力』は本来一部の人にしか与えないから君は本当に運がいいね。

人によっては万の武器を得るに等しく、人によっては無駄になる『力』。

万能でも、自身の理解と世の摂理に叶わぬ物は『想像』の域から出ない『力』。


授けるのは、『創造の力』だ!


その言葉を発すると同時に、

怪我をした僕の左手に空気の塊が集まる感じがした。

…少し、熱い。


「…成功してよかった!」さらりと危険な行為であったことを口にする。


体は山と一体化してこの『部屋』から出せないけど、

君の手の甲に刻まれた紋様を通じて、

世界を見渡せる!話せないけどね!


話しながら、岩に『切れ目』を入れ『外』の景色が覗く。


…あとは君の夢に割り込んで話しかけたり、

夢の中を連れ回すことがあるかもしれないけど。

あ、『認めた証』として薬草持って行って、マギルも納得するから。


夢まで覗かれることに悪寒がはしったが、

八方塞がりなこの状態で逃げることはできなかった気がする。

半分諦めつつも、薬草を手に、その空間に入り、『入口』に到着した。


「…帰ってきたか。やはり『あやつ』に縁あるものかもしれんな。」


恐らくマギルという名の老婆はどことなく懐かしそうに薄く笑った。

「あ、マギルさん。これ、薬草です。」罠でなかったが、もう立ち去りたい。

「では、約束通り食料じゃな。…荒れた地では地下しか物が育たん。」


「豆と芋の類じゃが、飽きなければ数日は持つじゃろう。ほれ、もってけ。」


「ありがとうございます。できれば、街への道を知りたいのですが。」

「あっちじゃ。」マギルは指をさす。『僕の歩いてきた方角』を。

「いや、あっちから来たんですが…。」頭を掻きながら聞き返す。


「では、この山を越えなされ。頂上なら街も見えよう。恐らくじゃがな。」


ようやく不可思議な場所をさまよう冒険物から、

人と関わり、『外』の事情を辿る物語っぽくなり始めました。

次回からどんな『力』を出すか自由なような苦行が始まります。


2016/4/13

左手に怪我をして、紋様は左手に入ったことにしました。

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