【最終話前編】君が『君』でいられるために
隠し通路を抜けた先に、
『魔女の国の女王』ヴェリスとお世話になったマギルが立っていました。
そして傍らにはサリアが横たわって…。
「ようやく来たね。みんな。」
ヴェリスは初めて会った時とは変わり、
上に立つ者、女王として威厳をもって振る舞う。
椅子に仰々しく座り、傍らでマギルが僕らを睨み、隣にはサリア王女が眠っている。
「ここが、ボクの世界のすべて。そして、君たちの辿り着く場所。」
「姉さま…?眠ってるの?」
セルエが姉に語り掛ける。
声を掛けられてもサリアは目を覚ますそぶりは見せなかった。
「
『魔女の力』を抜いたのさ。
ただ『魔女の力』はボクらの中で一体化している。
それを無理やりはがしたから、疲れて眠ってるのさ。
」
「…!そんなことしたら!」メディラスさんが叫ぶ。
「
…さすが『先読みの力』メディラス。
彼女は大部分の記憶を『魔女の力』に引っ張られ、
目覚めてもしばらくは赤子のように言葉も出せず、動くこともできなくなるね。
でもこれで正解。『力』が無くなれば、もう世界が歪むことは無いんだ。
」
「確かに『魔女』ではなくなるかもしれないけどね。
…それは『普通』でもなくないかい?」
ラコックスさんは顔を歪ませ、言葉を足す。
「何をするかわからない相手より、何もできない相手に、人は優しくなるものさ。」
ヴェリスは拳を揮わせて怒り、
かすれた声で泣き、
遠い目で諦めていた。
「
ボクらは怖い存在。その気がなくても、時に畏怖を、恐怖を植え付けてしまう。
君たちはできないけど、
ボクはね、意識を過去に遡ることができるんだよ。
繰り返しても、傷つくことしかできなかったよ。
それでも何回も、何十回もやり直したよ、自由になれる道を探して。
時に敵になる人を片っ端から全員打ち倒した、虚しかった。
時に『力』を使わず生きた、助けられず、悲しかった。
時に誰にも関わらずに生きた、寂しかった。
今回は、『力』を色んな人に分けてみたよ。
『未来視の力』サリア。
『自律の力』レグネラ。
『進路の力』ラコックス。
『先読みの力』メディラス。
『錯視の力』メリダ。
『過去視の力』セルエ。
そして、『創造の力』グラディス。
でも、やっぱり『魔女の力』は不幸しか呼ばない。
だから、もうここで終わり、みんな『特別』に疲れただろう?
メリダも、そろそろメディラスから離れたらどうかな?
」
「…さすが、『女王』、油断させて捕縛、というわけにはいきませんか。」
「
動く対象と居ればずっと隠れられるとでも思った?
ボクはそういうのも経験済みなんだよね。
他の人もボクが思ってた使い方以上は扱えてないみたいだし、
万が一のためにマギルがいるから、下手なことしない方がいいよ。
」
「…マギルさんも魔女だったんですか!?」僕は驚いて声を出した。
「
そう、とびっきり危険な『力』さ。
みんなを眠らせて、最後にボクがこの世界から消えるための『力』…。
自分には使えないから、マギルには、申し訳ないんだけどね。
」
「十分生きた。『力』が無ければ、捕らわれ、どうなったか…。」マギルは呟く。
その時、大きな地鳴りと小さいながらも多数の咆哮が響く。
「…!もう来たのか!ヴェリス、遠くへ逃げれば良い話ではないのか!?」
メディラスさんが独白にかまわず、本題を振る。
「試したさ!でも、最後は数に呑み込まれて終わる!場所が変わっても!」
「相変わらず頑固者だ!お前が分け与えた『力』を得た仲間を頼れないのか!」
「ボク以上に扱えないのにボクが実現できなかったことをするってのかい?」
「できる!1人1つでも、複数人が力合わせることで期待以上になる!」
メディラスさんとヴェリスさんの言葉の応酬が激化する。
「お前が一番悲しんだ、『戦争』で身に染みてわかっているはずだ!」
「…確かに1人でできないことはいっぱいできたけどさ…みんな死んだんだよ!」
ヴェリスさんは戸惑っている素振りを見せる。
メディラスさんが、最後の一押しをする。
「
お前は強制したか!?逃げても、死んだ奴は死んだ!
俺たちも奴らも、お互いがむしゃらに生きているだけじゃダメなのか!
それに突出した力を持たずとも、奴隷はどうだ?奴らは幸せだったか!?
何も選択できず終わるか、存在を認め合うまで抵抗する、どちらが良かった!
」
「
…メディラス、君の言う事は一理あるよ。
でもね、ボクは、もう死んでるんだ…。
この山から動くことはもうできない、逃げられるのは君たちだけだ。
ボクは君たちから『力』を奪う、君たちはボクから逃げる、それが、答えさ。
」
一筋の希望、それが見えたころには手遅れだった。
さて、止まるまで抗い続けるのか、抗った末、止められてしまうのか。
終わりは、もうすぐです。




