【第九話後編】絶望の未来
抜け道と思われた場所で、ラコックスが立ち塞がりました。
いつになく不敵な笑みを浮かべる彼女は、何か大事な話があるようです。
洞窟の中で『山賊』ラコックスと対峙する。
「『山賊』…。」セルエは体を強張らせる。
『山賊』はセルエ王女の早まった行動で生まれた。
それを見てラコックスは応える。
「
そう、『山賊』だ。『国を去った者』。
のらりくらりと搾取して過ごす王族、
国を反映させるために難しいことを考える学者。
居場所を得るために国に寄り添う一般市民。
そして王族の代理で暴力を行う兵士。
兵士は暴力以外出来ない、いや、『許されない』。
個々人の考えで動くことは軍隊としては問題だからね。
でも、『優しかった親父が壊れていく』のは見ていられなかった。
だから、移動中に見つけた集落で、暴力とは無縁の生活を求めたんだ。
それをお偉いさんが脱走兵としてみなして、
『山賊』という、いかにも排除したくなる、
『大層な称号』をお与えになったのさ。
おかげで、手探りの集落生活はすぐに終了。
最近は『山賊』っぽさが板についてきて、
持つ者からおこぼれを頂く日が続いてるってわけさ。
だから、『山賊』は最初から『山賊』じゃなかったってわけさね。
本来お互いが放っておけば済む話だったんだがねぇ…で、今回も大事だし先手を取りに来た。
」
「先手…とは何のことですの?」セルエは緊張した声で聞き返す。
「
『魔女』と一緒に逃げるのさ。」ラコックスは言い放つ。
「そう、逃げりゃいいんだ。世界は広い、
『魔女』を知らない場所なんてどこにでもあるんだ。
なんであたいらは狭い土地で殺し殺されなきゃいけないんだい?
」
セルエは頭を振る。
「
そんなの…無理ですわ…。
だって、私やお姉さまは城の周辺や街の中しか歩いたことがございませんのよ?
貴女だって山にずっと籠ってらしたじゃないですか。
確かに、『力』を知られれば身の保証もできませんが、他に生き方を知らないのですわ。
」
「籠っていないさ、隠れていただけでね。」ラコックスはまっすぐな目で見る。
「いいかい、私らの住んでる場所は、北と西は海に囲まれて、
北の唯一の道は城がふさいでいる。
残る南は果てしない森で、東は山が連なっている。
既に日持ちする食料をまとめて、どちらかに移動する手はずになってるのさ。
たとえ軍が追って来ても、
『魔女』相手に深い森や山で戦うのは躊躇するだろうさ。
…道案内役もいることだし大丈夫だと思うがねぇ?
」
ラコックスはソールに目くばせをした。ソールは気のない返事を返す。
「
…あー買い被りすぎだな。
俺だって色々と歩き回っちゃいるが、
今回は分が悪いと思うぞ。
なんといっても、目立ちすぎだ。
誰も知らないうちにいなくなるなら良かっただろうが、
あれだけの喧伝をしたんだ。
他のところにも噂が行くぞ。
危険人物ってな。
」
「だが、時間は止まらぬ。生きる限り、追うか迎えるかしかできない。」
後ろから声が聞こえ、慌てて振り向くとメディラスさんがいた。
間に僕らがいるにもかかわらず、
ラコックスさんをまっすぐに見つめ、笑った。
「
…相変わらず正確な座標指定だ。
地図の印との誤差はほとんどなかった。
街の者達もメリダが既に誘導を終わらせている。
あとは、説得だけだ。…ヴェリスをな。
」
「え…?お母さま…?」セルエが思わず口を出した。
「…ふむ、それはだな…。」メディラスさんは話しかけようとしたとき。
「はいはい、時間切れ。隊長の『高尚な』言葉を理解する時間はもうないよ!」
ラコックスさんは手を叩き、当然のように先導し、歩き出したのだった。
メリダ以外の主だった『力』所持者が山に結集。
これが吉と出るのか凶と出るのか、最終話までお待ちください。




