【第九話前編】絶望の未来
自分たちの力でサリアを救いに行くことを決心したグラディスとセルエ。
気は許せたとはいえ、出会って日の浅い相手同士。
微妙な空気が流れます。
「…先ほど、『魔女殲滅作戦』と銘打った作戦が発令されましたわ…。」
魔女。
『女王』から夢を通じて流れ込んだ記憶では、
どこかの泉の水を飲んだことから始まった。
その力は膨大で、人知を超えたもの。
求めれば『覇王』にもなれるのだろう。
だが、その力は人が扱いきれるものではなかった。
使えば、命が削られる。
長生きできない運命を背負った人々に追打ちをかけていく。
『女王』のように大地と同化し、
『人を捨てる』ことで、恐ろしく長命にもなれるのだろう。
だが、その先にあるのは孤独でしかない。
だから、終わらせるのか?
「グラディス、何をぼうっとしているのです。
そんな窮屈な服はさっさと着替えて、向かいますわよ。」
セルエが僕の服を放り投げ、背中を押して部屋の隅へ移動させた。
その間に、色付き硝子などで装飾された仕切りを動かし、布をかぶせる。
「はぁ…こんなことになるならちゃんとした間仕切りを用意するべきでしたわ…。
装飾ばかり凝って、隙間がある仕切りなんて、必要な時に役立ちませんわ…。」
セルエは独り言を言いつつ、色付き硝子の向こうで着替えているようだ。
時間もない、早く着替えて向かわないと。
「思っていたよりもしっかりした服だね。」
動きやすさと頑丈さを重視したデザインの服があることに驚く。
セルエはふふん、と鼻を鳴らして自慢げに話した。
「
城下の仕立て屋が作ってくれたのですわ。
こう見えて、城から抜け出すのはよくやってまして、
『お召し物を汚されては大変です。』と言って、
旅用の服をその場で仕立て直してもらいましたの。
」
まるで子供が自分の新しい持ち物を見せるように、
体を回転させたり、裾を引っ張ったり、飛び跳ねる。
今まで見せたこともない無邪気な顔に思わず見とれてしまう。
セルエははっとした顔になり、いつもの調子に戻る。
「
…さ。グラディスも召し変えてくださいませ。
終わったら『脱出』しますわよ。
お早めにお願いしますわ。
待たせてる方もいますから。
」
部屋に隠し階段があったのにもびっくりだったけれど、
さらに驚いたのは隠し通路を抜けた先の森の中で待ち合わせた人物だった。
「よぉ、また会ったな。」
傭兵ソールは会った時と同じように朗らかな顔で迎えた。
「
『宝の探究者』ソール、ただいま推参。
ご依頼は『惑わしの山』の案内とお二人の護衛ってところか?
頭に響いた妙にあどけない声の魔女さんとご対面…。
…くぅっ!サリア様も一応心配だが、この胸の高鳴りは久々だ!
」
「相手は十数年前に戦争を起こした力を持つのに、怖くないのですか?」
浮かれ気味のソールに警告気味に質問する。
ソールはちっちっち、と舌を鳴らしながら指を振る。
「『見たことがない物』に触れるのが俺の原動力だからな!」
どうやら恐怖も好奇心が打ち勝つらしい。
セルエは「頼もしいですわ。」と相槌を入れるだけだった。
顔は笑ってるが、「ついていけない」と顔に書かれている。
三人は何が起こるかわからない『惑わしの山』に、緊張感なく向かうのだった。
これから本拠地に向かいますが、
クリーチャーたちを薙ぎ払う無双モードではなく、
外堀から埋めていく隠密モードのイメージで続きをお待ちください。




