【第八話後編】集いし者達
記憶の共有をすることで過去の戦争の記憶を覗き込み、
力を消耗し、部屋で力なく倒れこむ二人。
付き合いは短いものの、常に勝気だったセルエ王女も思うところがあるようです。
「時々思うんですわ。」セルエは天井を仰ぎながら独白する。
「
『魔女の力』は起源はわかりませんが、記憶では奴隷の一人から生まれたもの。
奴隷達はそのまま生きていてもどこかで死んでいたのですわ。
でも『力』を得たばかりに、多くの人を傷つけ、傷つけた方の縁者を悲しませ…。
守りたい方達さえも悲しませた。
お母様は奴隷達を助けたかったという想いで動いた。
お姉さまはお母さまを守りたかったという想いで動いた。
わたくしは今ある暮らしを守りたかったという想いで動いた。
…分かっていますわ。
お母様は戦争を引き起こし、
お姉さまは弾圧のきっかけを生み出し、
わたくしは弱い立場の方々が山賊となるのを止められなかった…。
なぜ、なぜですの。なぜ、『私たち』は生まれてしまったのですの…。
生まれなければもしかしたら誰も傷つかなかったかもしれない。
『力』を得てしまったがために、罪悪感と孤独で胸が一杯なのですわ。
こんな苦しい思いをするくらいなら、最初からいなければ…。
」
言葉に詰まり、涙が溢れる。
「
…お姉さまも『あの魔女』も、死ぬために出向いたのかもしれませんわ。
傷つけたすべての方々の贖罪のために。
そんな中、わたくしだけここでのうのうと…。
」
「助けに行こう。」僕の口をついて出たのはその言葉だった。
「
『力』のせいで傷つける?
『力』が無くても傷ついた人はいっぱいいたじゃないか。
悪いのは『信じることができなかったこと』だったんだよ…。
」
村で育った頃を回想する。
村の人たちを信じていた。
なぜなら、両親がみんなを信じていたからだ。
だから僕も信じた。
その僕をみんなは信じてくれた。
たったそれだけのことなのに、
それが抜けただけで、
人が人を扱い、人が人を傷つけ、人と人が争う。
そして人は疑う、陥れる、排除する。
「
誰も死ぬ必要なんてない。
だって、使い方さえ間違わなければ素晴らしい『力』じゃないか?
その『力』を信じて、受け入れていれば誰も傷つかなかったと思う。
皆、どこか違うんだ。『力』があってもなくても、大して違わない。
」
「う、あぁ、ぁあああ!」セリエは僕の服に顔をうずめ、泣き出した。
「
…ありがとう、ありがとう、ありがとう…!
やっぱりあなたは…、グラディスは…、
初めて、『信じられる』方なのですわ…!
」
その後セルエは泣き声とも叫び声ともとれる音を僕の体に響かせたのだった。
セルエ王女は自信満々な普段の態度と裏腹に、
『力』への罪悪感と孤独に苛まわれていたのでした。
鬱ルート直行の物語の結末は果たして笑顔で終わることはできるのでしょうか。
…頑張ります。
2016/10/18修正:文字数調整しました。




