【第八話中編】集いし者達【戦闘】
セルエ王女の赤い瞳を覗き込むことで、
王妃の過去に遡ることに。
果たして過去に何があったのでしょうか。
「…様!…ヴェリス様!」
ぼんやりした頭を上げると、
多くの人と、その中心に質素ながらも、
飾りを数点着けたローブをまとい、口元だけ見える人が立っていた。
「ヴェリス様!軍隊からの最終警告の文が届きました!」
「(あれが、お母さまよ。)」姿は見えないが、セルエの声が聞こえた。
何だか妙な感覚だ。
体は全く動かせないのに、視線が勝手に移動する。
「
…奴隷解放、奴隷商人たちの追放、
ようやく自分の手で自分の未来が決められる、それが形になってきたのに…!
それが、まさか新たな争いの種になるなんて…。
」
ローブの人は何かを決意し、演説台に立つ。
「
これから、『魔女の力』を一般の皆様に分け、その扱い方を教えます。
私たちはあなた方自身の力で生きていく場所を作るために頑張ってきました。
でも今度の相手は我々数人ではとても敵いません、
このままでは数にのまれ、昔に戻ってしまう。
自分の意志で自分の未来を決めなければいけない時が来たのです。
もちろん、絶対にとは言いません。
相手は人間、あなた方に人殺しを強いるつもりはありません。
ですが、奴隷商人たちはたやすく私たちを殺そうと向かってくるでしょう。
その時に自衛もできず、ただ死んでいく光景だけは見たくありません。
守りたい人がいる、守りたい場所がある。
その決意を固めた方は、どうかこの力を受け取ってください。
」
つい最近まで牢につながれ、何も権利を持てず、一方的な扱いを受けた者達。
自分だけは助かりたいと、同じ境遇の者でも見捨てるしかなかった者達。
それが短い間だけでも共に助け合い、共に達成感を得られた。
それを生み、導いたのは、目の前の『聖女』だった。
一人、また一人と彼女の前に立ち、『洗礼』を受ける。
無駄と思える交渉もあえて行い、攻めて来るまでの時間を引き延ばし、
彼らは『力』の扱い方を練磨していく。
全ては、その場所を守るため。
自分たちにも生きる権利も場所もあることを主張するため。
そして戦いが始まる。
遠くにはこれ見よがしに陣営の旗が広がり、
石粒のように見える兵たちが少しずつ迫ってくる。
まずは、地面の土を垂直に噴出させ、そして固め、大きな壁を作った。
戦場に連れていかれた者が、矢で先制攻撃を行う事を知らせてくれたからだ。
生成される壁の向こうではどよめき、進軍の乱れを感じる。
そこにまるでつぶてでも当たったかのような音が際限なく続く。
同時に、歩兵の叫び声がどんどん近くなってくる。
示し合わせた通り、合図をする。
最初であり最後の攻撃であることを願って…。
地表の土を集める者、土を打ち上げ壁を作る者、そして…。
壁を放り投げる者…。
その巨大な壁は、まるで石を投げたような勢いで、地面を滑る。
大量の砂煙を発生しながら敵陣に飛び込んでいく。
多くの兵たちを押し出し、引きずり、多くの断末魔を空に響かせた。
加減の知らないその初撃は、敵側に最大の被害を生んだ。
長期戦は望んでいなかった。
なぜなら、その力は本来人が扱うには消耗が激しすぎるからだ。
戦い、守りきれたとしても命は削られていく。
盤石な壁は徐々に弱くなり、攻撃も徐々に弱くなる。
それでも彼らは自分たちの権利を主張し、
命燃え尽きても悔いはないと笑顔を見せる。
攻撃をする者が一番消耗が激しかった。
「結局、最後は…、降参。」ヴェリスとセルエの声が重なる。
被害は戦闘に参加したもの全員。
非戦闘を選んだ人は事前に地下に掘り進めた場所に逃がしている。
結果が出なかった戦いで、彼らは憔悴しきっていた。
敵側から、身なりの大きな、黄金で着飾った男が目の前に立つ。
「
お主らが此度の首謀者か。
大陸最強などと謳っていたいた我が軍も、
この街を攻め落とすために2分の1も削られてしまった。
異形の力のおかげとはいえ、我が軍の1割も満たぬ者たちによってだ。
富と数と武器を手中に置けば、
この世の摂理さえ手に入ると思っていた我が覇道も、
どうやら考え直さねばならぬようだ。
そして敬意をしめそう、お主達はこれから国民として、生きるのだ。
」
それはつまり、国に生きる権利を与えられたことを表していた。
戦う前に皆が望んでいたこと。
しかし、今この場に生き残った者たちには、何の感動もなかった。
「(
せめて生き残った人たちだけは、普通に生きさせてあげたかった。
)」
丘で聞いたあの女王の声が聞こえた気がした。
そしてようやく体が動かせた…と思うと、視界が暗転する。
どさっという音と共に床に倒れ、額同士をぶつける。
「早く…どいてくださいませ!!」
騒ぎにならぬよう、しかし目の前の相手を威圧するよう、
王女セルエは頬も真っ赤にして肩を押す。
体が重く立ち上がれそうにないため、横に転がり、二人が寝転ぶ。
「…久しぶりに共有しましたが、他人の記憶を覗きこむとはこういう事ですわ。」
こういう事…、
体が重くなったことを指しているのか、
それとも過去の感情を掘り起こしたことを指しているのか。
一つ言えるのは、王女の部屋で寝転がるのを見られるとまずい気がすることだ。
鍵がかかってなければ当然アウトですが、
鍵がかかっていても不審に思ってこじ開けられそうで主人公補正にも限界がありそうです。
それにしてもセルエ王女は大胆というか積極的。
理解者が消えて孤独を感じていることの裏返しかもしれません。




