【第八話前編】集いし者達
突然の『魔女の女王』存在宣言。
グラディスは困惑するセルエ王女に連れられ、
王都のさらに城の中に一緒に入ったようです。
ちなみに城内用正装は浮かばないので、着替えさせられるシーンはカット。
「即刻、兵を向かわせ『根絶やし』にするべきだ!」
不安と焦燥が入り混じった顔でやたら装飾の多い老人が机を叩いた。
その鬼気迫る顔が周りに感染し、動揺が広がる。
かつての『戦い』の数少ない生き残りとしての発言だった。
そこに、腕を組みながら考えていた髭を蓄えた中年の男が語る。
「
…『罠』という事も考えられませぬか?
「なぜ急に『女王』と名乗る必要があるのか?
『戦い』は『和平』で終わり、『生き残り』もいない。
いま、安易に鉱山に近づけば部隊に大きな被害を受けるかもしれぬ。
」
僕は今、セルエ王女の『臨時の護衛』として部屋の隅で見ていた。
通常、城で初めて見る相手でそんなことは許されないらしいが、
セルエ王女が関わると特別らしい。
『占いで相手の善悪を判別する能力』が知られているからだ。
過去に反乱を企てた者も、全て彼女が先手を討ったそうだ。
反乱を企てる証拠の存在もあり、等しく彼らは『国外退去』を命じられた。
奇しくも、その頃から『山賊』が増え始めたそうだ…。
「
たかだか、数百名の、蛮族共に!
一体何十、何百、何千の同胞が母子の再会を夢見ながら死んだか…!
やはり総指揮官になっても小童だ!
」
老人は口を歪め、話し合いの場で机を叩き、音で扇動する。
「
なればこそ!
最大最強の『女王』が『力』を振るえばどうなるか!
そのため『和平』という形を取ったのではないのか!
戦争が終わったと思えば、今度は『魔女狩り』!
排除せねばというその思考が、
無用の血の流し合いをするという予想ができず!
やはり元総指揮官でも爺は忘れやすいことで!
」
語気の荒い言葉に、冷静さに欠けた応酬が始まる。
「グラディス、行きますわよ。」セルエはげんなりした顔で部屋を出た。
部屋の熱気も高まり、殴り合いが始まりかねなかった。
床を伝って何やら振動が響くが、分厚い扉で声にまではならなかった。
「ふぅ…、ロゼットとグライツは普段は双璧の知将とまで呼ばれますのに。
…未知の力はどんな知識人も狂わせますわね…。」
セルエは俯き、独り言のように話す。
その肩は、震えていた。
ここに住む人々が、母親をどんな目で見ていたのか、
『力』が発覚した姉がどんな扱いを受けたか。
すべて、覚えているのだ。
さらに、『過去視の力』で母親から戦争状態の記憶も持っているかもしれない…あれ?
「
セルエ王女、良ければ、君のお母さんの記憶について聞かせてくれないかい?
君がその『力』で、お母さんが『女王』だと確信してた理由を。
何か、手がかりがつかめるかも…。
」
「
無礼者!…っと申し上げるところですが、生まれた所からして仕方ありませんわね。
わたくしも、グラディスがなぜ『あの魔女』に気に入られたか興味があるのですわ。
その理由が、お母さまの過去が関係してるように思えるのですわ。
今日はわたくし、『力』を怯まない方とはお久しぶりで気分がよろしいの。
」
その時、部屋に入り、僕に入るよう促し、扉の鍵を閉めた。
そして振り返りざまに首に手をまわし、額と額がぶつかった。
「…動かないで、わたくしの目を逸らさずに見るのです…そうすれば、見えてきますわ…。」
赤い目がすぐそこにあった。言葉を吐く息があごを伝い、心臓の鼓動が早まる。
「
な…なにをもたもたしてますの。
ここでお話しすると誰かに聞かれた時面倒ですから、
こうやって、頂いた記憶の共有をさせていただくのですわ…。
は、恥ずかしいのでさっさと済ませてくださいませ!
」
突然な行動に目が泳いでしまったけれど『そういうもの』らしい。
深呼吸をして落ち着かせる。
セルエ王女に息がかかり、微かに肩を震わせる。
お互い気恥ずかしさを感じながら、赤いその瞳の奥を覗き込んだ…。
この後、サリア・セルエ両王女の母親であった、王妃の記憶と連結されます。
魔女が普通に住む世界はどんな風だったのか…、それはまた次回(更新は未定)に。




