【第七話後編】君のいた場所
門番を倒しひと段落かと思いきや、
サリア王女そっくりな、しかし雰囲気がまるで違う人が出てきました。
どうやら気に入られたようですが、果たして。
「あぁ、私としたことがつい興奮してしまって失礼いたしましたわ。」
軽く会釈し、その上で食い入るように僕を見続けている。
「え、っと…。サリア様でしょうか…?」自己紹介を促す。
「あ、いけないいけない。『陰気な姉』と同じに見られると困りますわ。」
屈み込みながら『赤い瞳』で僕の顔を覗き込む。
「
…私の名前はセルエ。ふふっ…。
…あなたは強く、機転が利く上に信用もできそうですわ。
優しい方たちに囲まれて過ごし、生きるために狩りを磨き…。
『陰気な姉』を純粋な心配で追いかけて…。
」
思わず後ろに飛びのく。
なんなんだ、この子は。
会って間もないのにまるで見透かしたように…。
「
…そして色々と言い当てる私を不気味に思っていらっしゃる。
でも、今更驚くことでもないでしょう?
『進路の力』ラコックス、『錯視の力』メリダ、
そして『わたし』…。うっふふふ。
」
恐ろしいほど的確に『今までのこと』を言い当てる。
あまり考えたくないが、そういう『力』なのだろう。
「さて、これで『自己紹介』は十分ですわよね?」
相手のことは覗き込み、自分のことは隠そうというのか。
「
まだ『サリア王女の妹セルエ様』としかわかりません。
あなたの『力』は何なのですか?
なぜこんな場所にいらっしゃるのですか?
」
「
あらら、私としたことが、言った気になってましたわ。
『勝手に話してくれるから』、つい慣れてしまっていけませんわ。
ここにいるのは禊の儀を行い、王位継承を約束されるため。
そして私の『力』は『過去視』ですわ。
生まれてから今までの全てを、言葉を介さずに伝えてくれる、
それはそれは便利なのですわ。
信用できる者、裏切り者が最初からわかるのは何と素晴らしいのでしょう。
不安ばかりの『未来しか見れない陰気な姉』と違って、うふふふ。
言葉にしなければ不安を煽ることもありませんのに、ねぇ?
だから『力』を疎まれ、王位継承権を剥奪されるのですわ。
先日の『サリア王女帰還記念』のお祭り、お楽しみいただけました?
あれで、『力』は消せないことが王都に大々的に伝わりましたわ。
もうこれから一生、あんな寂れた街で細々と女王ごっこをするのですわ。
あぁ、姉とはいえ、なんと不器用で愚かなのでしょう。
黙っていれば、疑われて将来を棒に振るなんて起きなかったですのに。
」
相手のことを知り安心したか、セルエ王女は隠すことも悪びれもせず話す。
おかげでサリアという少女の作り笑いの悲しい表情の説明がついた。
彼女は瞳に映る人々の『最期』を常に見ていたのだ。
不慮の事故かもしれない、自業自得かもしれない。
家族に看取られ笑顔でも、お別れなのだ。
ありとあらゆる『避けられない別れ方』を目にすることで、
彼女に無駄な責任感を植え付けてしまったのではないだろうか。
母親の死を避けられなかったことも彼女のせいではなかったのに。
その次の瞬間、考えを中断せざるを得ない事態が発生する。
「(私は、『魔女の国の女王』!)」
まるで水の中に潜って聞く声のように、
反響音が混ざった形で、『あの人』の声が聞こえてくる。
「(今、サリア王女と一緒なんだよ。…眠ってもらってるけどね。)」
セルエも耳を抑えて目を見開いていた。
どうやら、今の言葉が聞こえているらしい。
「うそ…あの『女王』?お母さまが『女王』ではなかったの…?」
セルエは明らかに動揺している。
「(
もしかしてみんな、王妃様が『女王』だったって、信じてた?
死んだときは悲しい顔しながら、安心してた?
残念!私が本物!さぁ、どうする?
私は『惑わしの山』にいるよ!『王女』と一緒に!さぁ、どうする!?
)」
からかうように、遊びに誘うように、声が響いていくのだった。
急転直下、いよいよ佳境に入ってきました。
『魔女』が表向き消え、平和になったと思われた国に響く、
自称『魔女(本物)』の存在宣言。
『力』を持つ王女が人質となったようです。
過去の繰り返しになるのでしょうか、それとも…。
2016/9/16修正:王妃は『魔女』以上の『女王』




