【第七話中編】君のいた場所【戦闘】
訓練という名の雑用を押し付けられ川の水を汲みに来たグラディス。
ただのお使いのはずが、
どうやら問題発生したようです。
肩に激痛が走る。
それでも容赦なく『それ』は攻撃を続けようとする。
足を封じられては勝ち目がない。
素早く距離を取り、様子をうかがう。
どうやら、『それ』は入り口を守る門番のようだ。
全身が石でできた奇怪な人型の物体。
よく見ると、関節の継ぎ目と腹に『淡き竜の爪』に似た紋章があった。
これも、誰かの『力』だというのだろうか?
幸いなことに、そいつは入り口からは動かないようだ。
鉱山のこともあり、うまく通り過ぎても、
行き止まりまで追いかけてくるだろう。
何とかして動きを封じないと。
周りは一本の川とまばらに生える草、
そしてごつごつした歩きにくい石でできている。
試しにメディラスさんの時と同じように草で足を絡めさせる。
全然長さが足りない。全く動けなくなるほど覆うにはかなり辛そうだ。
次に、石を継ぎ目に埋めて間接にあたる部分を固める作戦に出る。
と言っても、石を自由自在に宙に飛ばせる『力』ではないから、
大きめに育てて、石つぶてのように投げるくらいしかできない。
当然のごとく、投げた先から手を模した岩石がたたき壊す。
『力』が足りなかった。
紋章を光らせるごとに恐ろしい倦怠感が襲ってくる。
襲ってこないのをいいことに、休憩だ。
色々考える。『創造の力』について。
ラコックスさんの『進路の力』は物を動かなくしていた。
メリダさんの『錯視の力』は風景に溶け込んでいた。
それぞれが全く違うから、まったく参考にならない。
『力』を受け取った時のことを思い出す。
「
人によっては万の武器を得るに等しく、人によっては無駄になる『力』。
万能でも、自身の理解と世の摂理に叶わぬ物は『想像』の域から出ない『力』。
……。
」
言葉通りだとすれば、自然らしい、「ありえる」動きは操れることになる。
相手は何だ?…石だ。
石は時間がたつとどうなる?
先ほどのように周りの石と重なって大きくなる?
いや、それだけじゃ、ない。
体力は回復した。
覚悟を決め、『そのイメージ』を頭に描く。
左手の甲の文様を中心に、光が包んでいく。
しかし、色が青ではなく、赤く光る。
考える余裕はない、その瞬間から体力は削られている。
移動しながら相手に焦点を定め、攻撃する…。
森で培ったこの体なら十分やれるはずだ。
駆け出す。
相手がこちらに反応し、臨戦態勢に移る。
右腕を大きく振りかぶり、地面に叩きつける巨石の手。
地面をえぐったその手から無数の石が噴き出す。
…隙は今しかない!
右腕で防御しながら、相手の狙うべき部位に狙いを定める。
相手が振り下ろした不安定な右腕の上に飛び乗り、
その勢いで当て身をするように紋章を左手で突いた。
一瞬空気が逆向きに流れる感覚を感じた。
紋章が点滅したかと思えば、じりじりと紋章が消えていく。
かつて時間をかけ紋章を刻まれた石が、
同じ速度で『戻っていく』。
『力』を失った右腕の関節が自然に切り離され、地面に転がる。
片腕になった相手と、対処方法が分かれば後は早かった。
同じように左腕を封じ、動きを統括している腹の部分をつけば、
ただの岩石群がそこに積まれてた。
「きゃははは、お兄ちゃん。すごーい!」
ぱちぱちと手を叩く音が背後から聞こえた。
振り返ると、なんとそこには…。
「サ、サリア王女…?」
街での憂いを帯びた表情からは考えつかない目を輝かせた少女が立っていた。
なぜ街にいるはずの王女がここにいるのか、
岩石を操っていたのは彼女だったのか。
色々想像が膨らむ展開にしてみました。
2016/8/1:文字数調整、助詞の訂正




