【第六話後編】君に追いつくために
店番の正体は、なんと山賊の親玉をしていたラコックスでした。
お互いの唐突な再開に驚きながら、
本日もラコックスの話は止まりません。
「いやぁ、お前、いやグラディスが新人だったとはねぇ…。」
数日前の山賊の親玉であった人が、
まさか店番をする人だったという事実に僕も驚いた。
でも、どうやらそれが事実なようだ。
掃除しながら、ラコックスは続けた。
「
実は街には正規の部隊と、極秘裏に結束する部隊と別れているのさ。
正規の奴は昨日みたいにサリア嬢を護衛したり、番兵をしている奴だな。
で、極秘裏の部隊『淡き竜の爪』は『力』が使える者のみで出来た部隊さ。
そうやって分けておいた方がいいってサリア嬢の方針でね。
」
「え…。『魔女殺し』サリア、の方針…ですか?」僕は思わず聞き返した。
「
あぁ、その二つ名はメリダが言う奴だな。
…少し話しとこうか、ここは元々『魔女』が支配する都だった。
そこに、北の大地から遠征に来た国王が友好を結んだ。
そして『魔女』を王妃に迎え入れたんだ。
その数年後、双子が生まれた。
その片割れがサリア嬢というわけ。
でもこんな汚い街をサリア嬢が治めるのも変な話だろう?
国王のいる首都ではなく、ね。
そこで『魔女殺し』と二つ名がつく事件が起こるのさ。
ある日、王妃が出かけようとするときサリア嬢が泣きついたんだと。
このまま外に出ては死んでしまうから行ってはいけないってね。
不謹慎とはいえ子供の言葉をまともに受けとる人がいなかったんだってさ。
『魔女の力』と言われてはいたけど、
北から来た人にとってはまじない程度にしか思ってなくて
『魔女の都』に住んでた人も不信感で『力』を見せてはいなかったからね。
そして、王妃が出かけたら、死んじまったんだよ。
王妃を乗せた馬車の馬が急に暴れだして、
道から逸れて王妃が放り出され、
当たり所が悪く、ね。
サリア嬢に陰謀を図る理由もないし、
交流を追ってもつながりは見えず、
悲しい事故で片付きはしたけどね。
一部とはいえ『魔女の力』を恐れられ、『魔女の都』の住人も恐れられた。
そしてそれから…『魔女の力』を持ったとされる、
多くのものは迫害されて、最後は死んじまったな。
単なる『力』と言ってごまかして生き延びてる奴と隠れてる奴以外はね。
『力』…とごまかしているが、結局は全部『魔女の力』に過ぎないからね。
それから友好的とされた『力』を持つものはこの街に隔離されてるのさ。
サリア嬢は自分の『力』を呪っちまって、
消す方法を探す旅をレグネラとしてたはずだったんだが。
帰ってきたのはサリア嬢だけってことは、どっかで…。
」
相変わらず、相槌さえ入れさせない完全な独白だ。
代わりに、言葉を区切った時が話の終わりを指していた。
あの少女は、『見えてはいけない何か』に怯えているのだろう。
昨日見た夢の少女のように…。
と、そこで僕は気づき、声を出す。
「
でも、やっぱりおかしいですよ。
それじゃ、ラコックスさんは同じ街の人同士で争ってたんですか、あの山で。
とても同じ部隊の人とは思えませんでしたが。
」
ラコックスは豪快に笑い、返事を返す。
「
はっはっは!まぁ、話を聞けばそう思うか!でも違うんだよね。
あいつらは正規で、あたいはあいつらにとってはただの山賊。
『淡き竜の爪』の存在をあいつらは知らない。
で、何で山賊を手助けしてるのかを聞きたいんだったら、長くなるけど?
」
メディラスさんが物を教えるくらいの時間をかける予感がした。
正規部隊も知らないなら、話す相手を選ぶから、溜まるものがあるだろうけど。
任務は完了だろうし、既に夕刻で、メリダさんに心配をかけられない。
「色々教えてもらってありがとう。ではまた逢う日まで。」頭を下げ店を出る。
「
は?何を言ってるんだ。明日からここへ来るんだよ。
今日はあくまで『淡き竜の爪』正式入隊のための試験。
それに合格しただけさね。
明日からは山賊業の片手間に『力』の使い方を鍛えてやるから覚悟しときな。
」
GWのおかげかようやく一歩前進です。
他の方と比べると牛歩もいいところですが、
ある程度イメージが固まらないと書けない性格です。
それで正しく表現できてるかというと微妙という…。
5/10更新
文字数調整と誤植修正しました。
5/15更新
誤植修正しました。




