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【第五話前編】束の間の再会

地平線は、建物だった。


建物の形も、『店』というお金を消費して物を買う場所が道の両脇にある。

村の地平線が森だった事を思うと、違和感を感じる。

しかしそれは悪い意味ではなく、わくわくするものだった。


何もかもが、村とは違う。


物珍しさに意味もなくうろうろしてしまう。

賑わう声、たまに聞こえる怒号、笑い、それと砂利の音。

ここの道には端っこに草がある程度で、大粒の石で敷き詰められていた。


遠くで、何か大きな音が聞こえる。


それは定期的に聞こえてくる音。

気になって近づくと、周りの人も音の方に吸い寄せられていく。

それに併せて何かの叫びのような声も増えていく。


「…様、万歳!」「我らの街の希望!」「我らにさらなる繁栄を!」


それは、誰かを褒めていたり、応援しているような叫びだった。

さらに近づくと、人だかりで前に進めなくなってしまった。

そして大きな音は楽器だったことが分かる。


神輿が担がれ、周りで楽器を吹いたり、叩いたりされているようだ。


残念ながら細かいことは遠目のため分からなかったが、

神輿の中だけははっきりと見えた。

…あの少女だ!


村に現れ、母を亡くし、数日後には旅立ってしまった謎の少女。


僕は大声で話しかけようとしたが、名前をそもそも知らない。

そして、少女の顔を見て声も引いてしまった。

それは明らかに変な表情だった。


騒がしさと裏腹に、物憂げで悲しい目をしながら、笑顔で手を振っていたのだ。


人は普通、そんな顔はしない。

少なくとも、僕の村では。

嬉しい時は突き抜ける程の歓声を響かせ、悲しい時は誰かの胸を借り泣き叫ぶ。


それが普通…だと思っていた。


でも、ラコックスさんのように複雑な心境を持つ人もいる。

全て、村の事を基準に考えてはいけないのかもしれない。

だから、きっと『何もわかって』ないのだと思った。


「すみません、これは何をしているのでしょう。」


思わず、傍の人に声をかけた。

「ん?旅の者かな。凱旋されている『サリア』様の帰還を祝ってるのさ。」

その人は誇らしげに語り出した。


「『サリア』様は長らく悩まされた『呪われた力』を解呪して戻られたんだよ!」


嘘だ。あの悲しい目は明らかにそんな喜ばしい顔じゃない。

何かを知り、何かに怯え、何かを諦めている、そんな顔だ。

訝し気な顔をする僕に、その人も怪訝な顔をする。


「…お前、どこから来た?怪しいな。」さっきと変わって、冷たい声だ。


その雰囲気に感づいてか、周りも僕を見つめ始める。

その不穏な空気と一体感に、僕はたじろいでしまう。

「そ、その…。南からですけど。」口調が乱れながらも言葉を紡ぐ。


「南?未開の野蛮人が住むところからか?…お前、『生き残り』か?」


『生き残り』という言葉が魔女達を指すことをなんとなく察してしまう。

「ち…違います。」囲まれる中では言葉を選ばないとどうなるかわからない。

冷たさから不穏へ、不穏から殺気へ…。


「何の騒ぎだ!」神輿の傍で警備していた屈強な人が近づいてくる。


「こいつ、もしかしたら『生き残り』かもしれん。…どうします?」

どうします?が疑問の言葉に関わらず、暴力しか選択肢がない物言い。

男がじろりと見ると、大声ではないが僕を見る人達全員に聞こえる声で言った。


「馬鹿者!待ち望んだ者の帰還を喜ぶ式を血で汚すつもりか!」


その周囲だけ、はっとした顔をした。

「この者は私が責任をもって預かる!お前たちはこの式を見守っていろ!」

男は、僕の腕をがっしりと掴み、集団の輪から抜け出していく。


「…よりによってこんな日に、こんなつまらない役目が待っているとは。」


男は、その太い腕で僕を有無を言わせず引っ張りながら、独り言を言った。

そして、いくつもの棒で仕切られた、四角い部屋に誘導され、

閉じ込められてしまった。


「式が終わるまでおとなしくしていろ。…今日は運がいい、死なずに済む。」


屈強な男は嫌な笑いをして元の場所に去っていった。

かたや1人の少女を祝福する祭りじみた式。

かたや誰もいない場所に閉じ込められる僕。


街の裏表が恐ろしいと思った瞬間だった。

ちょっと今回はシリアス重視で、

笑い要素は無理でした。

求めるものではないかもしれませんけれど…。


5/10更新

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