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18話目



 天ちゃんから、「もう教室に行ってろ。休みじゃねぇんだから、話せるだろ?」と言いつつ、犬を追い払う様にシッシッと手で払う仕草を見せた。


「・・・はーい。」


 返事をした後、握っていた携帯をポケットにしまった。「失礼しましたー。」と小さく言い、保健室から出て、教室へと向かう。自分の席に向かう間に、クラスメイトから「おはよー、海斗。昨日はサボりかよ?」と声を掛けられる。それに「ちげーよ。風邪で死んでたんだしー。」と笑ってみせた。


「・・・席に着け。」


 前方の入り口から、静かな声が聞こえた。その声に素早く反応し、自分の席に着き、先生・・・蓮さんに目を向ける。

 そして、はっとする。気だるげな様子がデフォになっている蓮さんだが、目に力がない様に見える。・・・クラスメイトは気付く気配はない。心の中で蓮さんへ呼び掛けるが、それが伝わるはずもなく、じっと見つめるだけで終わる。


 ・・・HRが終わるまでの間、蓮さんに視線を送ったが、交わることはなかった。


 朝のことで苛立ちが募りつつも、昼休みに突撃しようと決める。チラチラと時間を気にすすものの、早送りなど出来るわけもなく、時計とにらめっこを始めて、ようやく一限目を終えた。

 授業終了の挨拶と同時に、ポケットにある携帯が着信を告げる。その音は挨拶の声と、ざわつきによってかき消された。

 携帯をそっと覗き込むと、送信者は天ちゃんと表示されていることにそっと肩を落とす。一応、読んでおこうとメールを開き、読む。驚きに、目を見開く。


『蓮が倒れた。とりあえず、保健室で寝かせてる。本人が病院は必要ないと言ってる。お前は昼休みに来い。』


 それを読み終えると、同時に教室を飛び出した。

 「廊下は走るなよー。」という教師の声に「はーい、すみませーん。」と口先だけで返しては、保健室へ向かう。倒れたなら、寝てるかも、と思い、なるべく音を立てずに中へ入る。

 部屋には誰もいない様子だった。奥の部屋、かな?と向かうと、中から話し声がする。

 

『・・・蓮さん・・・と、天ちゃん?』


 そっとドアに耳を当て、悪いと思いつつも、盗み聞きをする。


「・・・なんだ。」


「は?何言ってんだよ。海斗だって、俺らだっているだろ?」


 蓮さんがなんて言ったのか聞こえなかったが、天ちゃんは口調を強くして、少し呆れた様子も感じられた。


「・・・今はな?でも、お前らと一緒でどうせいつかはいなくなる。」


「お前ら・・・って、俺も、桜も、樹里だって、いなくなってねぇだろ?」


「お前には桜が、樹里にだってできただろ?俺のことを一番に思ってくれる奴は居ねェ。・・・分かってた、そんな奴居ねェって・・・。いつかは置いて行かれるって、それが昨日、現実になった。・・・思ったより早く来たなって、思ったよ・・・。」


「だから、海斗がいんだろ?それに俺らだって離れていく訳・・・」


「ッ離れて行くに決まってる!・・・それに海斗は・・・もうすぐ卒業だ。今以上に周りが見える様になって、気付くだろ?俺じゃねェって・・・。」


 泣きそうで消えそうな蓮さんの声、怒ってて心配だという感じの天ちゃんの声。少しこちらまで泣きそうになった。

 盗み聞きだけれど、蓮さんが溜め込んでいた心の声を聞けたことに、嬉しいという気持ちと、有んな風に思わせていたという悔しい気持ちの二つがムクムクと湧いてくる。その二つで高ぶった感情を抱えたまま、勢いよくドアを開けると、蓮さんはベッドに、天ちゃんがその傍に立っていた。


 驚いた様子の二人の視線が、俺に注がれた。

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