その1 【外見より中身より】
内容は2,000文字以下のごく短いショートショートとなっています。
ささっと最後まで読んでいただければと思います。
なぁ、同志。聞いてくれ。僕に彼女が出来たんだ。そう。この前話していた隣のクラスのSさんだよ。どんな人にも優しい女神みたいな人だよ。
この前の金曜日、彼女を手紙で屋上に呼び出して、そして告白したのさ。
悪かったよ。君に内緒にしてて。でも僕は本気だったからね。君に知らせていると振られてもいいように予防線を張るかもしれないと思ってね。
ハハッ。許してくれるかい?ありがとう。やはり持つべき物は親友と彼女だね。
痛い痛い。え?告白の状況をもっと詳しく聞かせろって?マイッタな。気恥ずかしいよ…
え?絶交?おいおい。さっき許してくれるって言ったじゃないか…
フフッ。まぁ、いいか。白状するよ。
さっきも言ったように手紙で呼び出したんだ。放課後にね。彼女は来てくれないかもしれないと思ってたよ。でも、きちんと来てくれた。
彼女は息を切らせていた。なんでも日直の仕事があったそうでね。それを終わらせてすぐに来てくれたようだね。
僕はこれはいけると思った。正直に言うとね。だってそうだろ?手紙、呼び出し、屋上、放課後ときたら、もう猿にだって今後の展開は読めるはずさ。
そこに急いで走って現れた女の子を見て、そうでないと思えるかい?
僕は前置きもすっ飛ばしていきなり告白してしまったよ。
君の優しさに触れて、僕は恋に落ちてしまいました。ぼくと付き合ってくださいってね。
クサいって?まあ、いいじゃないか。彼女はこの告白が結構好みだったらしいよ。
その告白を聞いて彼女の顔は真っ赤になった。いや、正確に言うと彼女の顔は最初から真っ赤だったんだ。血の色みたいにね。だって時間は放課後で、太陽は沈みかけ、真っ赤な光の残滓を撒き散らしている頃だったから。さらには走って血の巡りも良くなっていた。
でもその世界が真っ赤に染め上げられた世界でも、その告白の後は一際紅くなったんだよ。彼女の顔は。
もちろん。僕の顔も負けず劣らず真っ赤っ赤だよ。
そして1分ぐらいたったのかな?そんな時、彼女は口を開いたのさ。可愛らしい唇を動かしてね。
私のどこがいいの?とね。
愚問だと思ったよ。そもそも告白の前口上で言ってるじゃないかと。でも再確認をしたいと思っているのだろうと考えた僕はもう一度言葉を付け加えて言った。
僕は君の優しさに触れて、恋に落ちたと思った。君の優しさに包まれて、恋は確信に変わった。つまり君のどこがいいのかと尋ねられたら、僕は君の優しさこそ僕が君を愛する理由だと答えるだろう。とね。
だってそうだろう?僕は彼女の内面が好きなのさ。外見が綺麗ってだけで股間を熱くする猿どもと僕は違う。僕は彼女の内面にこそ惹かれた。だから好きになった。そして僕は股間を熱くなんてしない。心はどこまでも熱く煮え滾っているけどね。
すると彼女はいきなり泣き出したんだ。意味がわからないだろう?だから聞いてみたんだ、なぜ泣いているの?とね。
すると彼女は答えたよ。×々〒君に告白されるなんて…嬉しくて…これ夢じゃないよね?嘘じゃないよね?と。
なんて可愛らしいことを言ってくれるんだろうね。
夢じゃないよ。もちろん。嘘でもない。僕は嘘をついたことはないのだから。と最大限にカッコつけて言ったのさ。
そうしたら、君、彼女はどうしたと思う?なんとね、彼女は微笑んだのさ。モナリザも腰を抜かすほどの美しさだったよ。僕はあの微笑みを超える美しさに出会ったこともないし、この先出会うこともないだろうね。
その殺人的な微笑みで僕に言うのさ
私でよかったら、どうぞよろしくとね。
こうして僕たちは付き合うことになった。付き合って4日目になるが、ここまで幸せな4日間はたぶん世界中何処を探してもないと思うよ。彼女の優しさを独占できるんだからね。
君も彼女を作りなよ。もちろん僕みたいに中身を重視してね。
………は?なんだいそれ?僕が彼女の外見に惹かれたって言うのかい?誤魔化しているだけだって?
君には失望したよ。話しかけないでくれ給え。
行間一
ハハハハハハハハやっぱり僕は間違えてなかったんじゃないか!!!これで証明されたんだ!!ハハハハハハハハハハハ……
些細なことで友人と喧嘩をしてしまった。俺には割と多く友達はいるがあいつには俺以外に友達がいなかったからな。あの日喧嘩してから今日まで1週間。全く口を聞いていない。でもあいつは彼女とはうまくいっているようだし、気にすることもないかな。
今は放課後、世界は夕焼けに包まれて、どこもかしこも紅に染められている。俺は夕日が好きだ。単純に綺麗だと思うからな。
友人に貸していた物を俺は俺の隣の教室に取りに来た。本来ならそいつに行かせればいいんだが、何か用事があるらしい。渋々自分で取りに来た。
「っと…誰かいるのか?」
ドアについた窓ガラスから教室の中に1人男子学生がいるように見えた。割と遅い時間なのに勉強熱心なやつもいるもんだな。
ドアを開けて入ってみると、やはり教室は窓から差し込む光で真っ赤に染められていた。光の差さない下半分くらいはいっそモノトーンに見えるくらいに暗かった。そしてその1人の男子学生とはあの日喧嘩別れした友人だった。
『ん…やぁ同志。久しぶりだね』
「お、おう。久しぶり」
『ハハハ…ちょうど君に会いたいと思っていたところだったんだ』
友人は机に腰掛け、顔だけを此方に向けている。逆光でよく見えないが、笑ってはいるようだ。
「そうか。で、なんでこんな時間に教室にいるんだ?なんで僕に会いたかったんだ」
『ハハハ。焦るなよ。ちゃんと言うからさ。…これを見て欲しかったんだ』
指差した先には何かが床に転がっていた。ちょうど抱き抱えることができるくらいの決して小さくない物。もちろんそれも、夕日に照らされて真っ赤に染められていたように思った。
『僕はあの日からずっと考えていたんだよ。それまで僕には確信があった。彼女のことを内面のみで愛していると。でもあの日君に言われてから、その確信が揺らいでしまった。
よく考えれば考えるほど、彼女の外見にこそ僕は愛情を感じていたように思ってしまうようになった。彼女の唇を、目元を、胸を、腰付きを好いていたんじゃないかと…僕が言う猿どもと同じく、ヤリたいだけの盛った獣ではないかとね』
俺は気付いた。おかしい。絶対におかしい。だってあの床の部分には光は当たっていない。ならば赤く染まっているのはどう考えてもおかしいではないか。
『でも、今日は僕はそんな獣ではなかったと証明できるようになったんだ!!だってそうだろう?ハハハッ…だって』
床に転がされた決して大きくないその物は、
『こんなにも醜くなってしまったSさんを、僕はこんなにも愛してしまっているのだから!!!!』
顔面の皮を剥がされ、全身を滅多刺しにされ、血で赤く染まったSさんだった。
友達選びの超基本条項 その1
【外見より中身より人を殺さない奴】
初めての投稿です。
至らないところも多々あることと思いますが、それでも少しでも何かが貴方の心に残ればと思います。
どうぞ今後もよろしくお願いします。