木漏れ日のような人(2)
僕たちは駅から出て、暑いですねだとか、晴れてよかったですだとか、当たり障りのない世間話をしながら、コンクリートでできた林の、陽炎の揺れるアスファルトの道を歩いていた。ほぼ真上から照らす力強い太陽が彼女の白い肌を、眩しく輝かせた。熱せられた風に汗がにじむ僕とは反対に、彼女は涼しげに歩みを進めていた。
「ここ、曲がります。」
彼女はふと立ち止まって言った。その声とともに先ほどまでの暑さを忘れさせるような涼風が僕の体の熱を浚った。風の来た道を目で追うと、そこは小さな路地だった。比較的低い建物の間の路地だったので暗くて不気味ということはなかったが、この先に何かあると期待するには少々殺風景すぎた。だが彼女は迷わずその道を行く。僕は慌てて後を追った。
その路地を進んでしばらく。気付くと周りは住宅地になっていた。今風の家も多々あったが特に目を惹いたのは、立派な門構えの平屋の日本家屋。漆喰や檜、低木などで作られた塀。その向こうには青々とした桜の木が顔を覗かせている。住人たちが打ち水をしたのだろうか、道には所々色が濃いところがあった。
すると彼女が足を止めた。
「ここです。私のお気に入りのお店なんです。紅茶がとっても美味しくて。ハーブティーなんかもあって、飽きないんです。食事はチキンのバジルソースがおすすめです。」
見ると、白い壁にオレンジ色の屋根の、小さい頃に読んだ物語に出てきた家のようだった。入口までの道はレンガが敷かれ、その左右には僕の背丈程度の木々が無作為でありながら統一感を持って立ち並んでいた。ドアには"open"の札がかけられ、その横では、いわゆる学校の椅子に"本日のメニュー"と書かれた黒板が座っていた。