木漏れ日のような人(1)
約束は昼食も兼ねての"お茶"になった。店は、誘ったのはこちらだから、と言って半ば強引に彼女が決めてくれた。
あれから一週間。まだまだ猛暑の続く八月のはじめ。待ち合わせは十一時。力強い太陽は容赦なく僕を照らす。その眩しさに目を細めつつ、とめどなく吹き出てくる汗を拭きながら待ち合わせ場所の駅へ急いだ。
十分前に駅に着くと、彼女は既にそこにいた。手元の本に目を落としている彼女は、生成りのタイトなパンツにふんわりとした紺色のノースリーブシャツ、足元はえんじ色のパンプスを纏っていた。約束をした時とは違って、薄くではあるが化粧をして、髪も綺麗に整えていた。見た目は変わっていたけれどすぐに気づいた。やはり、この人はとても美人だ。周囲の目を引くほどに。僕が待ち合わせの相手だということが、何だか申し訳なく思えた。
少しの間見惚れていると、彼女は本に落としていた視線を上げ、辺りを見回した。彼女はこちらに気づき、閉じた本を手にしたまま、こちらに駆け寄ってきた。
「お早いですね。待たせてしまいましたか?」
額の汗を拭いながら僕は言った。
「いえ、全然。その、楽しみだったので早く来ちゃいました。」
彼女は、笑って言った。その頬にはうっすらと紅がさしていた。物事を誤魔化そうとしない、とてもまっすぐな人だ。
「じゃあ、早速行きましょうか。」
そう言って彼女は灼けるような光の方へ歩みを進めた。