出会い(2)
それからしばらく、二人とも黙って雨の音を聞いていた。
「いつも、そこにいらっしゃいますよね。」
「えっ、なんで?」
彼女は唐突に話しかけてきた。びっくりして彼女の方を見ると、彼女は小脇に抱えていた書店の制服の緑色のエプロンを僕に見せた。それについた名札には高橋と書かれていた。
「私、ここでバイトしてるんです。まだ3ヶ月とちょっとですけど。」
彼女は少し照れたように言った。
「ああ、なるほど。」
そう言って僕が空に向き直ると、彼女は尋ねてきた。
「なんでいつもそこにいらっしゃるんですか?」
彼女の方は向かず、答えた。
「夕立が、好きだからだよ。ぼーっと眺めてるのが、好きなんだ。」
言い終えて、気づいた。初対面の人に、何て簡単に自分のことを喋ってしまったんだろう。しかも、素の自分で。今思えば、彼女の着飾らない雰囲気が、僕にそうさせてしまったのかもしれない。
「それよりあなたは、僕が傘を忘れただけだとは思わなかったんですか?」
彼女はこともなさげに言った。
「"いつも" そこにいらっしゃるからですよ。」
僕はその意味がよく分からなかった。それが分かったのか、彼女は付け加えて言った。
「最初は、傘をお忘れになったのかな、と思ったんですけど、わざわざ雨が降り出してから出ていかれてるようだったので。わざとなのかな、と思って。」
にっと笑う彼女少し幼げに見えた。