出会い(1)
夏の雨は好きだ。特に暑い日の夕立が好きだ。突然降りはじめ、すぐに止む。そんな、慌ただしい雨がとてつもなく愛しい。
熱いアスファルトから立ち上る湿気は、その匂いを立ちこめさせて暑さを空へ連れていく。降ったあとには雲が切れて青い空が再び顔を出す。
僕は書店で立ち読みをしていた。休日に夕立の降りそうな時はいつもそうしている。それが僕の楽しみだ。小さな書店なので、雨が降り始めると屋根を叩く音が聞こえる。しばらくその音を聞き、僕は書店を出る。傘は持って来ていない。ギィっと音を立てるドアを抜け、店の軒先に置かれたいつもの椅子で、真っ黒な空を見ながら大きく息を吸い込む。むわっとした空気と共にアスファルトの臭いが僕の鼻を抜けた。
しばらく足を投げ出してぼーっとしていると、扉が鳴った。ふと扉の方に目をやる。女性が出てくるところだった。その女性は伸ばしっぱなしの髪を一つに束ね、少し大きめのTシャツにGパンで、化粧をしてる風でもなく、少しずり落ちたメガネを直していた。あまり身なりを気にしていない様子で、少しみすぼらしい雰囲気のある女性だったが、立ち居振る舞いに不思議な統一感があり、とても綺麗だという印象を受けた。思わず彼女に見惚れていると、こちらに気づいた彼女と目が合ってしまった。勢い良く目を逸らす。彼女の瞳は、僕の心にあるものを全て見透かしてしまうような光を纏っていた。