プロローグ
いつもの喫茶店。窓際の一番隅の席。二人のお気に入り。暖かな日の光が心地良い。まどろみに包まれながらいつものキャラメレミルクティーを飲む。
「あー、海に行きたいなぁ」
カップを置き、テーブルに突っ伏しながらつぶやいた。
「また、突拍子もないこと言わないで。それに、今何月だと思ってるの。1月だよ。もうすぐ2月。水もつめたいだろ。僕は寒中水泳はごめんだ。」
彼はいつもと変わらない声で言った。正面に座る彼の顔を窺うと、真面目な顔をしていた。どうやら本気で言っているようだ。
「誰も海に入るなんて言ってないじゃない。眺めるだけよ。"海は入るもの"なんて誰が決めたのよ。」
私が笑いながらそう言うと、彼はばつの悪そうな顔をして窓の外を見た。少しむくれながら彼は言う。
「でも、寒いのに変わりないだろ。」
私は彼の横顔を見つめ、微笑みながら言った。
「そうね。一人だと寒いかもしれないわね。」
彼はますますむくれる。私の言わんとすることがわかるからこその反応だ。
「冬の海もなかなかいいものよ。どう?これから行ってみない?ここのあつ〜い紅茶テイクアウトしてさ。」
彼は左手首をさすりながらしばらく黙り込み何かを決心したように口を開いた。
「少しだけだからな。」
彼のその仕草の裏にあるものを私は何も知らない。