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掴めぬ組織

「錬金術師様を殺そうとしたのは、ある組織です」


「組織?」


 おいおい、異世界に組織だ秘密結社出たらファンタジーじゃなくて、寧ろSFだぞ。


「私は、そこに引き取られました。スラムを漁って私を助けてくれ、人権も確保されて、最低限の生活は送ることが出来ました」


 人権も確保され、最低限の生活が出来る。

 恐らく酷い環境にいたスラム街よりずっといい生活になったのかもしれない。

 リリアにとって生活を保証されるのはありがたいことだろう。


 でも、どうして今は人権を放棄されかねない事態に陥ってる。

 そもそも何で俺が? いや、これについては答えが出てるか。


「その組織にとって錬金術師が存在すると不都合があるのか? 何なんだ、そこは。どんな集団なんだ」


「それは……」


 急にリリアの表情が青褪め、自らを抱きしめる。


「実験……」


 震えた小さな声で呟いたのは、理解し難い言葉だった。


「実験?」


 科学者の集団だろうか。それとも魔法の触媒か。


「異端の魔力を持つ錬金術師と外敵である魔物を融合させる。それを操って世界を作り変えることを目的とした組織。彼らは【ガーデン】と名乗っています」


「錬金術師と魔物の融合……それって、もしかして」


 リリアは頷く。


 今、直面してる脅威である巨大キメラ。

 村ごと食べてしまう未知数の力に異様な魔物。

 混ざり物の能力が魔物を巨大化させ、異様な力を与える。


 何が起こるか分からない錬金術師を餌にして、破壊の限りを尽くすのが、それだとしたら……。


「いや、でも……俺を殺す目的が分からんぞ。俺が死んだら、魔力の有効活用は出来ない。魔物を変異させることなんて出来ないし」


 いや、待て。

 俺を殺すことで得をすること。実験とやらに使いたいということ。その繋がりは、簡単に思いつくことだった。


「俺の肉体が器か。魔力もろとも命を失った錬金術師の空っぽな器」


 魔物を媒体にしたキメラは作れたから、次は逆だ。

 錬金術師の器に魔物の能力を植え込んで、どうなるか試したいんだ。

 自我の云々は関係なく、力や能力を発揮するために、兵器として運用出来ればいいんだ。


 何てイかれた組織だよ。

 人体実験どころの話じゃない。品種改良じゃねぇか。

 成程、品種改良して植物のように未知を育てる。自分達は水をあげて監視していればいい。

 皮肉だな。庭と名乗るなら、それらしいもの作れ。植物に謝れ。あと俺にも。


「ま、やることは変わらんか」


 そのガーデンってとこに殴り込みに行くしかない。

 リリアに対する扱いも実験もやめてもらう。

 今の俺なら、理の始原とやらがある。負けることはないだろう。


「青葉さん」


 やっぱ、うちの可愛いご主人様は止めるよな。此処からの説得が大変だ。


「私も同行させて下さい」


「は……?」


 新しいパターンだ。


「今の青葉さんなら問題ないとは思いますが、新たな契約を結んだこともありますし、何かあった場合の対処出来るのは、私だけです」


 何かあった場合の対処か。確かに強い力を使ったら反動がありそうだな。

 しかも、一回限りだ。その後は介護されないと動けないから、ありがたいと言えばありがたい。


 でも、気掛かりもある。


「俺が倒れても運べなかったら、対処も何もないだろ」


「大丈夫ですよ。青葉さんは軽いので」


 そう言ってエイルはガッツポーズをする。

 そういえば、この女はゴリラだった。物理ガン振りの魔導師。絶対勝てない。

 介護は心配しなくていいか。いや、俺一人でエイルを守れるか?

 誰かもう一人くらい連れていきたいが……。

 ガキのトーマやアイリを連れて行くわけにはいかないし。

 そうなると………。


「ライド」


「ん、ああ……」


 ライドの表情が曇る。


「悪い。ちょっと都合が悪くてな」


「え、まあ……それだったら仕方ないけど」


 珍しいな。ライドが都合が悪いなんて。

 そりゃ、武器商だもんな。寧ろ暇な方がおかしいか。

 この話し合いすら時間割いてくれてるんだもんな。


「俺が同行するよ」


 入り口で声をかけたのは、睦月だった。お前、久しぶりだな。


「全て話は聞かせてもらったみたいなこと言うのやめてもらえる?」


「やだなあ。みたいな、じゃなくて、そうなんだよ。こっそりね」


 普通に気持ち悪い。盗聴かよ。


「趣味悪いな」


「好奇心旺盛と言ってくれ。旅してたから、ガーデンのことも知ってる。向こうには曲者もいるしな」


 確かに旅で人形劇やってたって言ってたっけ。

 曲者ってのも気になるし。情報量持ってる奴がいる方がマシだな。交渉術とか上手そうだし。

 なるべく関わりあいたくないが。気持ち悪いし。


「曲者って、そいつが糸引いてるのか」


「あ、それは間違いなくあり得ない。面倒ごとが嫌いでガーデンしか頼れる場所ない奴だし」


 意味がわからん。頼れる場所がない……リリアみたいなもんなのか。

 警戒して損はないだろう。


「じゃあ、向かうのは……俺、エイル、睦月でいいな。何かあったら大変だし、リリアは此処に置いていいか?」


 エイル以外の女って怖いし。例え、同情に値する子供だとしても。

 これは、俺自身の問題ではあるが。


「ああ、そのくらいなら面倒見れる。アニーもいるしな」


「アニー? 巻き込むの危なくないか。だって、あいつ」


 あいつって威勢は良いが、果たして誰かを守れるのか……そもそも、自分の身ですら危ないんじゃ。

 トーマ達にリスクを負わせたくないし。子供を危険には遭わせられない。


「何言ってんだ。アニーは、俺よりも強いぞ」


「は?」


 ライドの発した言葉に間抜けな声が出てしまう。

 こいつ武器商より冒険者や傭兵の方が似合うほどの強さ誇ってるぞ。

 それに対して、アニーは特筆して強いなんて……確かに掴む力とか、首根っこ引っ張られたりした時は強い女だとは思ったが。


「俺は武器の扱いに関しては詳しいし、鍛冶魔法使えるから武器を振る機動も操れる。体は、それなりに鍛えてるしな」


「武器の腕って魔法だったのかよ」


 何かちょっとショックだ。ライドの特性だから仕方ないといえば仕方ないんだけど。

 魔法が悪いとは言わんけどな。俺も錬金術出来なかったらポンコツだし、異世界の祝福受けなければ赤子同然だ。


「比べてアニーは、大量の雑貨取り扱うだけあって荷物運びで鍛えてる。中級程度の魔法までしか使えないが、護身のためだろうな。体術は得意分野。あいつ可愛いし、あれで絡まれやすいんだよ」


 兄貴差分入ったな。自分の妹ベタ褒めかよ。

 だが、しかし……。


「やっぱ、女って怖ぇな。気をつけとこ」


「はは、うちの妹に何かしたら出禁だな」


「その線はない。安心しろ」


 何が悲しくて気も力も強い女に近付くんだよ。嫌だよ。怖いもん。


「明日の朝に出発が妥当か。今からだと夜になるし、外は危険だ。睦月、お前ちゃんと道案内出来るか?」


「拠点が変わってなければね。ガーデンと取引もしたことあるしね」


「取引?」


「俺の仕事は人形師。孤児院の子供のためにパペット劇を依頼されたこともある」


「孤児院の子供のために人形劇? やっぱり、善人の集団……いや、やっぱりリリアに対する処置が……」


 頭が混乱してきた。


「あの……錬金術師様?」


「あ? まだ何かあんのか、リリア」


「オロフ様には気を付けてください。あの方は……何というか」


 ああ、そうか。確か、リリアはあのハゲの代理でアイテムの効力の確認に来たんだっけか。

 そうなると、オロフが一枚噛んでそうだな。貧民層とか異端者嫌いなあいつが関係しても不思議ではない。

 ただ、それも憶測にすぎんが。


「行けば分かるだろ。心配しないでガキ共と遊んでろ」


 不安そうなリリアの裾をアイリが掴む。


「青葉さん達なら大丈夫。だから……」


「……はい。お言葉に甘えるのが一番でしょう。お任せして申し訳ありませんが……お気をつけて」


「ま、俺も関係してるから気に病むなよ。ぶっ飛ばして話し聞いて解決してくるから待ってろ」


 ぶっ飛ばして話を聞くのは変わらんし、そっち片付けないことにはどうにもならないしな。

 何せこっちにはゴリラ魔導師と胡散臭い交渉人がいる。更にその交渉人は顔見知り。

 不利な状況ではない筈だ。


 少なくとも俺だけ単身で乗り込むよりマシな筈だ。

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