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【打ち切り完結】どうやら俺の錬金術は世界を救うらしい  作者: 森鷺 皐月
第一章 錬金術師として手始めを
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職人の魔法使い

 西洋風の家々が並ぶその一角にある店の前で立ち止まる。

 他より少し大きめのレンガ仕立ての家。

 そこが店だということは『シデン堂』と書かれている看板ですぐに分かった。


 エイルとキスしてから、俺には色んな文字が解読出来た。

 中央の噴水広場の端にある掲示板に張られたチラシとか、このシデン堂のような看板の文字とか。


 キィ…と音を立てて扉を開け、店内に一歩踏み出して周囲を見る。

 壁には剣や弓などの武器が飾ってあり、カウンター近くには武者鎧のような防具が置いてある。

 更にカウンターの下部には色とりどりの装飾品がガラスケースにしまわれていた。

 所謂、装備品店。ゲームやアニメでもこの内装は見たことがある。


 しかし、ふと気付いたことがある。カウンターにいる筈の店員が見当たらない。

 その代わり、俺達の目の前で泡を吹いてる赤い髪の青年が転がっていた。


「し、死体……?」


 顔面蒼白で白目を剥いているその表情は生きている者のそれとは違っていた。

 しかし、何故、店の入り口に死体が?

 今度は殺人事件か。

 勘弁してくれよ、もうこれ以上は俺の精神が持たない。


「ライドさん、こんな所で寝ていると風邪引きますよ」


 異様な空気を打ち砕くのはエイルの穏やかな声。

 寝てるというか、永眠してるってこれ。

 風邪引くも何もあったものではない。

 それとも此処じゃ、死人も病気になるとかわけの分からない常識じゃないだろうな。


「あー……」


 妙に気だるそうな声が死体の口から発せられる。

 そして起き上がると、口から零れた泡を拭い、目を擦るとゆっくり立ち上がる。


「ん、あれ……エイルさん? え、エイルさん!?」


 目を大きく見開き驚愕の表情を浮かべて、背筋を限界までピンと伸ばし、まるでロボットのように体をカクカクと動かしたそいつの姿は不自然だ。

 確実にエイルを前に緊張している。


「す、すすすすすみません! ちゃんと仕事してます。軽いうたた寝は許して下さい!」


 あれをうたた寝と言うのなら、仮死状態も同等に考えられる。

 どうやらこの男はエイルに頭が上がらないようだ。


「大丈夫ですよ、ライドさん。普段から疲れてますし、少し目を伏せるくらいかまわないと思います」


 伏せてるんじゃなく、白目剥いていたけどな。


「いやはや、面目ない……っと、そちらの」


 エイルから俺に視線を向けると、ライドという男は硬直した。

 よく固まる男だな。

 というか、心なしか視線が熱いのだが。


「女……の子……?」


 俺の顔を見て言っているのだろう。

 中性的な顔なのは知っているが流石に健全な高校男子だ。

 体も女子ほど、か細くない。着痩せするタイプとは言われるがな。


 ひとまず、女子に対して好感を持ってるこういう男は触れてくるか調べるようにじろじろ見るかのどっちかだ。

 故にセクシャルハラスメントに当たるわけだが、俺は男なので触られようが見られようが不快に思わない。

 流石にベタベタしつこく触られるのは嫌だが。

 そもそもセクハラはされた方が不快に思うかどうかで成立するのだから、その行為には当てはまらないのだ。

 かと言って、相手が調べ終わるまで待ってる気長な奴でもないのが俺だ。


「残念ながらついてるもんはついてるぞ」


「え、そうなのですか?」


 ライドより先にアクションを起こしたのはエイルだ。

 マジでこの女……!

 さっき、キスしただろうが。

 確実に女子とは違う感覚だったろ。アホなのか、こいつは。


「それじゃあ、私は……」


 エイルの顔が茹蛸のように真っ赤に染まる。

 ああ、そうだよ。お前は、異性に無理矢理キスをしたわけだ。

 この意味分かる?


「え、何この空気。てか、その子……ってか、そいつ男? うわ、マジか」


 みるみるうちにライドの不抜けた表情が落胆に変わっていく。

 そこまでショック受けなくても。


「あー……うん。何をお買い求めで?」


 いきなり口調が営業モードになるが、声のトーンは低く沈んでいた。


「あの、ライドさん。この方に合う装備の見立てをお願いします」


「エイルさん、どういうことですか。ま、まさか彼氏? なんか雰囲気的に二人からただならぬ」


「おぞましいことを言うな!」


 ライドのクソみたいな発言に俺は声を荒げた。

 彼女なんか生涯作るものか。そんなもん作ったらまさに奴隷生活。

 デート代は全て男持ち。記念日や誕生日には高価なものを買わないといけない義務感。

 男に何のメリットがあるんだ。

 偏見? ああ、偏見だよ。悪いか。すみませんね。

 愛? そんなもので財布が重くなるか。嘆かわしい。


「おぞましいって……何て失礼なことを!」


「んなもん知るか。こっちが迷惑してんだよ。勝手にこんな世界に連れてこられて」


「連れてこられた? そういや、見たことない服着てるよな。しかも、あまり黒い髪って見ないし」


 黒髪を見ない?

 そういえば、町で見た奴らの髪ってカラフルだよな。

 赤とか青とか緑とか、カラーパレットのように奴らの頭は見ていて飽きない。

 と言ったら失礼なのだろうか。

 いや、でもこの世界の住人って本当にファンタジー要素が濃いというか、それしかない。

 俺と共通するものを探す方が難しい。


「青葉さんは錬金術師として私がお喚びしました」


「錬金術師って……はあっ? あの伝説の?」


 相変わらずの笑顔でエイルが言うと、ライドは目を大きく見開き俺の手を強く握った。

 野郎に手を握られる趣味はないんだが、エイルが期待している通り錬金術とやらはこの世界で大層な技術らしいということは想像出来る。


「離せよ」


 ライドからの手を振り払うと、溜息ひとつ吐いた。


「んなもん使えるかまだ決まってねぇよ。エイルが勝手に言ってるだけだ」


「まだ使ってない? あ、もしかしてアレ発注したのってエイルさん?」


 アレって何だ。俺が錬金術使うことと関係してるのか。


「はい。ライドさんとアニーさんの腕を見込んで依頼を出しました。注文書に書いていませんでしたか?」


「ああ、あったかも。そういう書類に関してはアニーに任せっきりだったからな。というか、俺は鋼材作りと焼きくらいしかしてないし」


 一体何の話をしているんだこいつらは。

 依頼? 注文書? 鋼材? 焼き? というか、アニーって誰だ。

 少なくともエイルが余計なものを注文しているのは間違いない。


「話が見えないんだが」


「ああ、帰れば分かるって。ひとまず装備整えるんだろ? 俺はライド。えーと……」


「橋崎青葉。青葉でいいよ、ライド」


 ライドから差し出された豆だらけで固い手を握る。

 気さくで馴れ馴れしい奴だが、商売人としては良い奴なんだろう。

 それに職人ゆえの固くて少し荒れてるこの手は嫌いじゃない。

 手に職というものが羨ましくも感じる。


「ふむ。ふむふむふむ」


 ライドは俺の頭から足のつま先、前後左右を観察し、手馴れた様子でメモを取っていく。


「オッケ、決まったな。じゃあ、裏来いや」


 まるで体育館裏でボコされるような物言いだが、他意はなさそうだ。


 ライドについていこうと足を進めようとして、少し踵を返す。

 エイルが笑顔で「いってらっしゃい」とでも言うように手を振っていた。

 ひとまず置いていかれる心配はなさそうだ。

 気を取り直して、ライドの後ろに続いて歩いた。


***


「店の中じゃねぇのかよ」


 連れて行かれたのは裏手にある倉庫。

 武器や防具、それに必要な工具や素材なども揃っていて少し散らかっていることから、此処が工房だということが分かる。


「そりゃお前、店の中で採寸するわけにゃいかねぇだろ」


 確かに一理ある。

 採寸するとしたら店の中よりもこういった作業所の方がいいだろう。

 店の中、そんなに広いイメージなかったし。


 あれ、というか――


「採寸から始めるのか。適当にサイズ合う奴で構わねぇよ」


「馬鹿か。そんなぬるい仕事なんかしねぇよ。一つ一つ完璧に仕上げて客に満足して貰わないと金なんか取れねぇ」


 職人のプライドって奴か。

 そこまで自信満々に言うってことは客から信頼されてるからってことだよな。

 あれ、でもさっき俺とエイルしか客いなかったよな。

 たまたまか。それとも口だけの奴か。他に原因があるとか。いずれにしろ信頼に足る店ならもう少し客足があってもいい筈。


 それとも装備品を必要としないほど平和な世界か?

 まさかな。世界の危機で誰も戦えないとか洒落にならん。


「そんじゃいきますか」


 ニヤリと笑い、ライドはメジャーを取り出した。

 その顔は明らかに悪い顔だ。思わず、ぞっと肝が冷える。

 体格を正確に測るため、ライドに指示された通りブレザーとワイシャツを脱いでインナー姿になる。


「男にしては華奢だな。もう少し筋肉つけろよ」


 最初は馬鹿にしたようで気を使う物言いのライドが不服そうに眉間に皺を寄せる。


「うるせぇな。関係ねぇだろ」


 文系男子に筋肉を求めるな。


「ったく、顔が可愛い上に体もそんな華奢じゃ本当に女の子みたいだぞ。折角の機会だ。錬金術学ぶと同時に体も鍛えとけよ」


 余計なお世話だよ。

 生きていく上で何も困ってないんだから、無理に体を作る必要ないだろ。

 それにこんなわけのわからない世界に長居もしたくないし。


「さて、始めるか。とう!」


 ライドが掛け声を上げ手を振ると同時、何枚かの生地や鋼材が浮かび上がり作業台に乗る。

 何だ、今の。


「ふっふっふ、異世界の錬金術師様には珍しいだろう。俺の鍛治魔法は、そんじょそこらの奴とは格が違うってもんよ」


「鍛治魔法?」


 ゲームの世界でも聞いたことねぇぞ。

 そういうのって魔法じゃなくて手で作るもんだろ。

 この世界は何でも魔法つけりゃ通用するのか。


「素材と心を通わせるんだよ。そうすることでイメージが湧いて俺のこの手に宿る。工具を扱う力加減や火の温度とか、色々。だから俺の作る装備品はいつも高品質なんだよ」


「腕利きと見せかけてのただの奇跡頼りかよ」


 何だか拍子抜けだ。

 拘りのある職人だと思いきや、結局のところ魔法だもんな。


「いや、腕だよ。自分の能力を鍛えるのは常識だろ。魔法ってのは奇跡の力じゃなくて技術なんだよ」


「技術?」


「おうよ。魔法といっても色々あるけど、魔導書をいくつも読んで練習したり、杖の振り方一つでも変わっていく。それはやっぱ努力を重ねた技術って言えるだろ」


 確かにライドのいうことは一理ある。


 魔法なんか馬鹿馬鹿しいとか、異種族の存在も有り得ないと未だに俺は思っているんだ。

 何も見ようとせず、頭ごなしに否定ばかりする自分を少し恥じた。

 偏見でしか物を見ようとしない。

 自分のことを考えすぎるあまり、周りを考えないどころか見えていないんだ。

 仕方ない仕方ないといつまで言い続けるのだろうか。

 この世界を救うまで? 錬金術が使えるまで?

 いや、その前段階だ。俺は認めつつある。この世界を。

 仕方ないという感情さえ否定することで、俺は一人、常識的な非常識を気取る。

 このままじゃ、駄目だ。ずっとこの世界にいるつもりがないなら尚更だ。


「なぁ、ライド」


「ん?」


「この材料、何処に行けば買える?」


 突きつけるように俺はレシピを差し出した。


「何だこれ。レシピ? 食品か」


「ああ、そうだ」


「ふむ」


 思慮深く考えて頷くライドは、にっこりと満面の笑みを浮かべる。


「毎度ありがとうございます。シデン堂、雑貨コーナーは副店長のアニーが承ります」


「は?」


 この笑顔は営業スマイルか。アニーってさっき言ってた奴のことか。

 というより、此処って装備品だけじゃなく雑貨用品も扱ってるんだな。


「てわけで、測るもん測ったら店に行け。こっちはこっちで時間かかるからな。雑貨担当の俺の妹、そろそろ帰って来る筈だし」


「え、でも支払いは? 俺、ただでさえ装備の金払えねぇのに」


 俺、この世界の金持ってねぇぞ。

 というか、完璧にエイルに頼ることになっていたことに気付く。

 他人に金払わせるとかいくらなんでもそれは屑すぎないか、俺。


「後払いでいいよ。どうせ、お互い良いビジネス関係を築くんだし」


「は?」


「錬金術師なら加工物も作れるだろ。後で色々依頼するから、それが代金ってことで。お前が必要だって言うなら、此処で売ってる素材は簡単に手に入るだろうしな」


 やばいぞ、この流れは。


 こいつもエイルと同じで俺が錬金術を使えると信じて疑っていない。

 使えなかったら完全にお払い箱じゃねぇか。


「あ、後でな……」


 目を泳がせながら適当に相槌を打つと、俺の心中を隠し通せたか、ライドは首を傾げた。

 ひとまずは誤魔化せている。


 錬金術が使えなかったらお払い箱。使えても利用されまくる。

 俺の気苦労は変わらない。

 使えない人間だと分かったとき、この気さくな笑顔は冷めたものになるのだろうか。

 ライドだけじゃない。エイルも落胆して俺を突き放すかもしれない。

 エイルの場合は、この世界を救うことに異様に拘ってるみたいだし。

 単純に死にたくないって思うのが普通だろうけど、あの女は食えない奴だ。

 信用も出来ないし、何を考えているのかも分からない。



 『気に入らないなら私を殺して構いません』



 エイルの言葉が脳裏でフラッシュバックする。

 あいつは自分が生きるためじゃなく、別の目的で世界を救おうとしている?

 自分の命よりも大事なものがこの世界にあるっていうのか。

 やっぱり、あの女はわけがわからない。


「はあ……」


 ふわふわとして地に足がつかない状態の自分に嫌気が差して溜息が出る。

 路頭に迷いたくないから期待されたままの方が楽なのかもしれないが、このままではいけないのも事実だ。

 どっちつかずで右往左往している俺の心とは裏腹に足は前に進もうとしている。

 それは、興味が湧いたからかもしれない。

 俺の絵で出来たレシピにライドの魔法。

 此処では、非現実なファンタジーを実際に体験出来る冒険心がくすぐる。

 それはポジティブな感情ではなく、世界の危機をせせら笑う観客気分同然だろう。


 それを理解すると、俺は何処の世界でも酷い屑野郎だと自覚せずにはいられないのだ。

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