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ドラゴンという名の素材

 それで、ドラゴンとどう戦えって話だが。

 ていうか、ドラゴンに首掴まれてよく無事だったな。俺、頑丈だな。


 ――頑丈?


「あっははははは! 怖くて声も出ない感じ? この姿見て怯えちゃった?」


 いや、俺の精神世界が一気に貧困になって萎えた。

 向こうの世界で、町娘の姿して襲ってきたお前の方が怖い。


 それは、ともかくとしてだ。

 武器を持てば強いなら、武器威力だけじゃなくて俺自身も武器になるのではないか。


「お前ドラゴンだったのかよ。影だからシャドウドラゴンってとこか」


「余裕だね。武器持ってるからって勝てるとでも? この大きさの違いが分からないほど馬鹿じゃないでしょ」


「言ってろよ。悪いけど、俺は此処でお前を消さないといけない。暗闇で俺を閉ざした所で、俺はお前を見つけて倒す」


「…………」


「降参して俺の中から出るなら今しかない。そうしない限り、お前はこうなる」


 鞭で地面を叩くと、地面に亀裂が走って割れた。

 足場が揺らぐと、俺は安全地帯へとすぐさまバックステップで飛ぶ。

 ワイヤーでもついたように軽く飛べるな。

 少し楽しい……なんて思う自分も些か幼稚なのかもしれない。


「選択肢を与えてやってんだ。お前が俺に……いや、錬金術師に対して何を感じてるのか分からんし分かろうとも思わない。だけど、これ以上は駄目だ。心を痛めてでも、俺はお前を殺すぞ」


 睨みを利かせると、瞳孔が割れたようなドラゴンの目が細められる。

 やっぱり引かないよな。場合によっては、虚勢にも捉えられる。下手な命乞いより滑稽だ。

 でも、いい加減にしないと俺は耐えられない。


 ――俺の精神世界にドラゴンは死んでもいらないんだ。やめてくれ。


「ふふっ、青葉君って無駄な問答が好きなタイプだったっけ?」


 楽しそうな笑い声。やっぱり駄目か。

 そうだよな。そうなるよな。俺とお前は、完全に敵だ。

 睦月が言っていた"残滓"たるこいつは、世界の敵なんだ。

 だとしたら、慈悲はかけちゃいけない。手を汚すことは仕方がないんだ。

 そうしないと、俺が死ぬ。正当防衛だ。

 ああ、嫌だ。もう嫌だ。面倒くさい。


「……ん?」


 いや、ちょっと待てよ。此処って精神世界だけど、通用するのか。

 よしんば、向こうの世界に持って帰るとか物理的に可能なのか。


「ドラゴンって素材になるよな」


 爪や牙、鱗に尻尾や肉……瞳すらなるかもしれない。

 これは、戦闘というよりも――


「何を言って――」


「これって、俺にとっては狩りみてぇなもんだろ。シャドウドラゴンの素材なんてお目にかかれないしな」


 こいつが喋っていたり前科で人の体を借りてるから人扱いしてたけど、実際は魔物だもんな。

 食物連鎖のようなものだ。

 魔物や動物は植物を食べ、その動物を俺達が食べる。

 生きていくための術だ。それで、俺が生きるには錬金術を行う。

 魔力が切れなければ死なないとかそういう問題ではなく、世界そのものが枯れたら俺の魔力も枯れて死んじゃうし。

 言わば、生命線の一端だ。


「無駄な問答なんか必要なかったな」


 地面に落ちている瓦礫と所持している鞭を合わせて魔力を注ぐと、それは強度を増していく。

 コストパフォーマンスを計算して魔力を注ぐことを考えれば、ある程度はやってもいい。

 今持つ魔力の半分くらいに抑えておけば余裕。


「巨大なトカゲを食うのは俺だ。俺の世界で、てめぇに勝率があるなんて思うなよ」


 魔力を纏った武器は光を帯びて、徐々に新しい形となる。

 緑色に輝く片手剣。やっぱ、剣の方がやりやすいんだよな。素材集めだから武器形状迷ったけど。

 でも、元の武器から他を融合してイメージするのは初めてだ。魔力を大体の量で調節して錬成するのも。

 ハイスピードの錬成が出来る世界で良かったよ。

 錬成途中の硬直時間に相手が襲い掛かってきたら、両方の素材がなくなって別の方法で戦うしか手がなかった。


 別の方法?

 頑丈で上手にコントロール出来る武器があるだろ。

 俺自身、橋崎青葉っていう錬金術師の体が。

 但し、当たれば痛いし絞められたら苦しいので非常にお勧めはしない。

 そういうのは、痛覚のない世界でどうぞ。


「話し合いは無理と判断。アフターケアをするほど俺は優しくない。そして――」


 俺は口元を緩めて剣を構える。

 刀身が闇の世界で光り、ドラゴンの姿を鏡のように映した。



「錬金術師は、素材収集もするんだ」



 その言葉を皮切りに剣を振るう。

 空を切るような風が吹き、ドラゴンの尻尾を斬る。


「あぐうああっ!!」


「おお、いい切れ味。あ、そっちも痛みとか感じるのか。悪いな、乱暴で。すぐに終わらせるからよ」


 品質は損ねないようにしないとな。

 何に使えるかとか物理的に向こうの世界に持って行けるかは置いておこう。

 暫く素材集めなんてしてないんだ。少しは勘って奴を思い出さないと。

 そうしないと、向こうで素材集めに行ったときに上手く出来ないかもしれない。

 ライドを見習って、魔物の素材も視野に入れていたところだし。


「このっ……このガキッ! ぶっ殺して――」


「言ってるだろ。俺の世界で俺を殺せると思うな。あまつさえ、ドラゴンなんてファンタジーすぎる陳腐な姿になりやがって。まあ、素材集めのリハビリとしてはいいけどさ」


「ふっ、ふざけんじゃ――」


 相手が言い終わる前に剣は頭上にある二つの角を斬っていた。


「よっと、角も入手」


 しかし、効率が悪いな。こうも図体がでかいとやりにくくて仕方がない。

 うるせぇし、黙らせるのも慈悲で俺が落ち着いて採取も出来るかもしれないが……悩むな。


「私みたいな残り滓のドラゴンなんか素材になるわけない! そんなことも分からないの!?」


「うっせーな。なるかならないかはやってみなきゃ分かんねぇだろうが。俺は、この目で見てやっと物事を信用するんだよ」


 黙って観念しろよな。

 回収した後処理のことも考えないといけないんだし。


「――ッ」


 ドラゴンの口から吐かれた黒い炎が俺の肩を掠める。


「ぐっ、あ……」


 熱いとは感じない。それよりも息苦しさがある。

 こいつ特有の技なのか。炎という固定観念に縛られずに熱さを感じさせないところは、称賛に値する。

 だけど、この息苦しさはつらい。首を絞めつけられた感覚にも似てる。


「あっはははは! 青葉君、確かに此処はあんたの精神世界。でもね、私が穢してる世界でもあるんだよ! 自分が優勢だなんて自惚れないでよね!!」


 そういえば、そうだったな。

 こんな気持ちの悪い、美的感覚が最悪な世界を俺は認めない。


「あんたの体は私のもの! 息が出来ないくらいに苦しめて暗闇に閉ざしてやる!!」


「――ッ、ざけんじゃねえ!!」


 頭に血が上った俺に呼応したのか、剣が光りドラゴンの体を貫く。


「がっ……!!」


「人んちを土足で踏み荒らしてるくせに、そんなことが通用すると思うな。俺の体は、俺一人で定員オーバーなんだよ!」


「ぐぐっ……ぐううっ! 錬金術師……何で、何で……お前が……お前が、あの世界で……私達は、生きることが出来なかったのに……」


「俺だって好きで来たんじゃねぇよ。文句なら、あの世界の災厄に言えや」


「に、憎い! 憎い憎い憎い憎い憎い!! 錬金術師! いつか、いつか私達が復讐してや――」


 そこで巨体は崩れ落ちた。

 何で俺が恨まれるんだ。錬金術師は救世主だろ。あの世界を何とかしないといけないんだろうが。

 こいつは、災厄によって理不尽に魔力を奪われた犠牲者だ。

 だからって、俺を恨むのはどうかと思う。

 俺は、お前のことを最終的に素材と見ただけだ。縁がなかったら、何もしていない。


「錬金術師に恨みがあんのか」


 しまった。終わらせる前に、吐かせるべきことを吐かせてやればよかった。

 まあ、睦月をぶん殴って吐かせればいいだけなんだけどな。


「さてと、問題は処理の仕方だけど……」


 あ、駄目だ。ドラゴンを倒した瞬間に回収した尻尾や角が消えてる。

 巨体も消滅してるし、どうやら精神世界での素材回収は流石に無理だったらしい。

 精神世界と向こうの世界のアイテムがリンクしてるって考える方が無茶あるか。

 剣もいつの間にかなくなってるしな。


「――あれ?」


 ドラゴンが倒れた場所に光るものを見つけた。

 何だろうか。余計なものだったら勘弁願いたいが、アイテムなら欲しい所だ。

 これだけ苦労したんだから、多少のご褒美はあってもバチは当たらない筈だ。


「何だ、これ」


 片手に収まる程度の赤いキューブ状の物体。見たことがないものだ。


「え、あ……ちょっ!」


 瞬間、周囲が白く瞬く。

 俺は、これから目が覚めるのだろう。

 流れから感じるに俺が自分の世界に囚われる理由はなくなるし、無理矢理にでも向こうで責務を果たせって神様が笑ってるのかもしれない。


「ちょ、まっ……せめてアイテムの解析だけでも――」


 非常に気になるから、この謎の物体を調べるくらいさせてくれ!

 そんなことを思う俺は、いよいよ錬金術師として毒されてきたのかもしれない。


 悩ましいことばかり増える俺が休息を取れるのかは運命次第だと、誰かに後ろ指で差された気がした。


 そんな運命だったら、何があっても覆したくなる。

 そんなことを思いながら、俺は瞼を閉じてしまった。

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