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鋼鉄の兵士と一本勝負

 勝負と言われても、要は鋼鉄の人形相手に剣の力を見せろってことだろ。

 しかも、根性とか性格に合わなそうな熱いこと言ってくるし勘弁しろよ。

 俺が武器を使って根性出せるわけねぇだろ。

 気合いとか必要ないし、寧ろアイテム作りの方が神経と気合い使うわ。


「面倒くせぇな」


 剣に補填してたカートリッジを入れ替える。

 まあ、赤でいいか。粉砕しておいた方が納得するだろうし。


「よっと……」


 広場の中心部に向かおうと歩き、睦月を促す。


「どうせなら派手な方がいいんだろ」


 印象付けというやつだ。

 人をなめくさって挑戦してくるアホには、このくらいの方がいい。それこそ、ちょっとした見世物だ。

 俺としては、非常に不本意ではあるのだが。


「ほう、意外。そういうの嫌いそうに見えたんだけど」


「ああ、嫌いだよ。でも、お前がそういうのが好きなんだったらやるしかねぇだろ。俺が此処で逃げたら、話は打ち切りになるしな」


「物分かりはいいんだね。でもいいの? この兵士さん、動くよ? 顔と手は傷つけないようにするけど」


「はいはい。好きに動き回れよ」


 さっさと終わらせよう。

 派手なことしたところで町の野郎共が喜ぶだけだし、事故ったらその前に監視に来てるトーマが何かするんだろ。

 今夜は、ぐっすり寝るんだろうな。文系男子にハードな日常与えるんじゃねぇよ。


 広場に行けば、すぐに人が集まった。

 そりゃ、鋼鉄の兵士と剣を抜いた俺が対峙してたら何事かと見に来るだろうな。


「おい、青葉。何が──」


「離れてろよ。火傷すんぞ」


 声をかけてきたライドを制して剣の柄を握り直す。

 何かを感じたのかどうか分からないが、無言でライドは身を引いた。

 もしかして、こいつもエイルみたいに俺の魔力ってやつ感じるのかもな。


「おい、来ないのか」


 人形を一瞥した後、睦月に視線を向ける。


「え、先でいいの?」


「ああ。俺の準備はとっくに終わってるからな」


 この程度のものなら構える必要もないしな。

 顔が怖いわけでもないし、威圧感も体がでかい程度だし。

 多少のストレッチ程度と考えれば安いもんだ。

 面倒くせぇけどな。


 にやりと笑った睦月に腹を立てながらも平常心を装う。馬鹿にしやがって。

 指をパチンと鳴らされ、人形が俺に向かって走り剣を振り下ろす。

 何が顔を狙わないだよ。思いっきり、剣で頭殴ろうとしてんじゃねぇかよ。

 まさか、こいつの感情が人形の動きを作用してるわけじゃないよな。

 まあ、細かいことは考えなくていいだろ。やることはひとつだけ。

 剣を一度振れば、それだけでいい。


「はい、終わり」


 剣を横薙ぎにして、刃が鎧に触れた瞬間に爆発を起こす。

 魔力を少し注いでやれば、薬品が刀身を通して魔力と薬品が融合して爆発するなんて滅茶苦茶な技だ。

 薬品と魔力を合わせるからどちらかの調整が必要。

 この場合は、カートリッジの薬品が満タンだったから魔力の量を軽微に抑えて刀身から爆発するまでの距離と時間も計算する。

 その一瞬を今の俺は考えることが出来る。

 はっきり言うと、俺は考えることが嫌いだ。

 基本は発想と感覚で生きている人間だし、学校の成績も理数系は苦手だ。体育はもっと苦手。

 それが今はどうしてこんなことが考えられるか。何故、動けるのか。

 正解は、異世界人補正のチート。終了。


 見事に粉砕した人形は、ただの鉄屑と化した。

 まあ、これだけやったら文句ないだろ。

 さて、睦月はどんな顔をするのか見ものだな。


「青葉、手は!?」


 慌てた様子で睦月は俺の手を握った。


「は? 手って……握るな、気持ち悪っ!!」


「気持ち悪くてもいいから、見せて。火傷してないか? 絵描きの手に火傷や怪我なんてあったら……いや、やらせたのは俺だけど。あんな爆発で手が無事なわけ……」


 心配してくれるのはありがたいが、握ってりゃ分かるだろ。

 俺の手には火傷どころか掠り傷ひとつない綺麗なままだ。


「え、あれ……?」


 漸く気付いたらしい。


「早く離せよ。お前が勝負だって言ったんだろ」


「だって、まさか剣を振って爆発起こすなんて思いもしないから。うわ、本当に焦った……」


「この世界だと常識が非常識なんだよ。お前のガラクタだってそうだろうが」


「うちのハニーをガラクタって言うな」


 ハニーってなんだ。

 何こいつ。人形に愛情でも抱いてるわけ? 気持ち悪いな。


「ああ、ごめんな。ちゃんとパーツ修復してもっとかっこよくしてやるから。痛かったよな」


 鉄屑を集めながら半泣きになってる。

 いやいや、本当にやべぇ奴だこいつ。


「ひとまずは、俺の勝ちでいいんだろ」


 観客からお捻りを回収しながら問うと、睦月は涙を拭いて頷いた。


「ああ、完敗だ。話には応じる。だけど──」


 何だよ、まだ何かあんのかよ。そろそろキレるぞ。


「お腹空かない?」


 へらりと笑う睦月が自分の腹を擦ることで、今度は俺にたかる気がして一発殴った。

 腹が減っては戦は出来ぬと言うが、俺は戦をした後の空腹感が否めなくて悔しいが同調せざるを得なかった。


 言っておくが、俺は人に奢るだけの金はないぞ。

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