救いのための力
忙しさに手を焼いていたエイルに何とか会い、事情を話すとすぐに優先してもらった。
二人でアトリエまで走り、中にいるライドの様子を見るとエイルの表情が焦りに似たようなものになる。
「どうだ、エイル」
「魔力が全体的にやられていますね。かなり危険な状態です」
「き、危険って……そうだ! 魔力回復薬が」
「いえ、そういうことではないんです。青葉さん、落ち着いてください」
すぅと息を吐くエイルは、怖いほどに真っ直ぐで強く俺が目を逸らせないほどに見つめると手を握りしめた。
今は、不快感がない。そんなことどうでもよくなるくらいの事態が起きているんだ。
「魔力の汚染です。これまで死に至った人間達と同じ状態を作為的に行われた可能性があります」
待てよ。それは、待ってくれ。
冗談でしたじゃ済まないぞ。お前、ライドが瀕死って言ってるんだぞ。
魔力が抜けるならまだ回復すればいいから理解は出来る。汚染って何だ。
「俺に出来ることはないのか? 薬でも何でも作る! こいつを助けるために何か俺に出来ることは!!」
「青葉さん……」
「ダチ一人救えないで世界救えるかよ! このまま見殺しになんて出来るかっ!」
「しかし、青葉さん。あなたにとって明日は……」
「そんなもん、どうでもいい! 今やらなきゃいけないことを考えたら分かるだろ!!」
命を生む手掛かりより、目の前の命を助ける方法が大切だ。
人形師に会う機会なんてそのうちいくらでもある。
だけど、ライドには今しかない。今を逃したら、ライドの未来はない。
それに遺されたアニーはどうなる。兄貴が死んでまともでいられるわけないだろ。
「あなたの魔力消費も激しくなる作業になりますよ」
「覚悟の上だ。手があるなら、頼む」
俺の覚悟は変わらない。
俺がぶっ倒れたところで、俺は死ぬわけじゃない。
多少きつい錬金術だとしても、やってやるさ。今の俺に出来ることなら何だって。
「分かりました」
エイルは頷いて、俺の手を離す。
「青葉さんは、魔力回復薬を作ることが出来るんですよね」
「ああ、作れるけど。でもさっき、それじゃ駄目って」
「ライドさんが目覚めた時に使用する最高品質の魔力回復薬を。魔力の汚染を回復するには聖水が必要なのですが……いえ、こちらは私が魔法を使用して何とか」
「聖水……か」
イメージしろ。
穢れた魔法を解除する薬だ。即ち、それは身を清めるという意味も取れる。
ゲームの世界なら状態異常の回復上位互換だ。
作ってみる価値はある。
「エイル、魔法で出来るならライドの呪いを停止しておいて欲しい」
「体の時間停止は、ある程度なら可能ですが……青葉さん、まさか」
「やってみねぇと分からん。でも、信じて欲しい。俺に聖水とやらを作らせてくれ」
羊皮紙に聖水のイラストを特徴まで細々と描くと、レシピが浮かび上がる。
笑えるよな。最初は戸惑ってたレシピ作りも当たり前で、今はこんなにも頼もしい。
やっぱり、俺は錬金術師なんだと再認識。だからこそ、出来ることがある。
ただの高校生じゃ何も出来なかった。今は……今だけでも、この力に感謝する。
「材料は此処に全て揃ってる。素材集めの時間は短縮される筈だ」
やろうとすれば、両方とも今夜中には終わる。
聖水の調合は魔力を大量に消費するけど作り方は簡単だし、最高品質の魔力回復薬なんていつもやっていることだ。ただ、今回は今までで一番の出来のものを作らなければいけないわけだが。
「分かりました。私は出来るだけ長く回復と汚染の停止を試してみます。このこと、アニーさんには」
「言えるわけねぇだろ。あいつ、こいつに似て冷静だけど心配性だし。面倒事はごめんだ」
身内が倒れて何もしないような大人しい奴じゃない。
魔法のエキスパートであるトーマの力を借りたいところだが、あいつだってライドへの強い情があるしどうなるか読めない。
それにトーマが動くと、もれなくアイリがついてくる。いつ終わるか分からないこの戦いに子供巻き込めるかって言われたら、ノーって言うね。子供は、夜更かしすんな。
「時間がない。やるぞ、エイル」
「はい、青葉さん。どうかお願いします」
俺達は互いに頷き、やるべきことに着手した。
エイルは、呪いの進行を停止させ少しでも回復を。俺は、ライドが再び起き上がるための薬を作る。
タイムリミットは、翌日の朝が限界だろう。ライドにとっても、俺達にとっても。
「頼むぜ……」
錬金釜に手を触れる。
釜が眩く光ることで違和感を感じた。
「なっ……」
俺の手まで光り輝いて、それはアトリエ全体を大きく照らした。
力が湧いてくると同時に、それが釜に供給される。
「なんじゃ、こりゃああああっ!!」
ライドを救う以前に、俺の生態がおかしくなっている。
俺の身に何が起きてるか、誰か教えてくれ。
得体の知れない大きすぎる力はいらない。
この手に収まるものだけでいい。
そうじゃないと、困惑して混乱し頭の中がオーバーヒートしそうになるからだ。




