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商売人として

「へっ、ちょろいもんだぜ。あんな葉っぱに大金出す大馬鹿お嬢様って奴はよ」


 はい、どう見ても前方で金貨数えてる悪人面のドワーフが詐欺師ですね分かります。

 ハーブや薬草の価値はどうやら分かってないらしいが、割には合わない金額なのは確かだ。

 更に言うと、エイルが馬鹿なお嬢ってのも分かる。

 あの野郎は、恐らく……いや、確実にエイルの屋敷に来ている行商とは別物だ。

 俗にいう、なりすまし。

 だが、お前がちょろまかした金が俺の財布から出るということを忘れるな。

 錬金術師の金に手を付けようとした罰は、しっかり受けてもらうとしよう。


「おい」


「あ? なっ……!」


 俺達を見て男は、ぎょっとしたように驚いて後退りをする。

 そりゃそうだ。さっき騙したばっかりのエイルが目の前にいるんだもんな。

 俺のことだったら町の人間なら知ってる筈だが、こいつは余所者だ。知っているかどうか怪しい。

 こいつが町の野郎なら、こんな小物でも警備団が放っておくわけがなかろう。


「エイルお嬢様ではないですか。まだ何か入り用で? ああ、そうだ。これなんかどうでしょう? 虹羊の羊毛から作った手織りの繊細な――」


 男は虹色の布を取り出す。

 品質は通常以下。繊細でも何でもなしのただの布。


「過剰搾取した分の金を返せ。今なら許してやる」


「はあ? 君は何を言ってるんだ。侮辱にも程があるぞ。私は一般人とは違う貴族御用達の商人だ。言いがかりも程々にしたまえ」


「言いがかりじゃない。お前は正真正銘の詐欺師だ」


 手間かけさせんなよ、面倒くせぇ。

 俺だって手荒な真似したくないんだから、さっさと金返して消えてくれれば問題ないんだ。

 ついでに言うと、被害が出ないように店をたたんでくれると助かる。


「どこにそんな証拠がある? 君のような一般人が商品の価値も分からずに詐欺師扱いとは、許しがたい。営業妨害だ!」


「はいはい、一般人ね。じゃあ、その一般人とクイズしようぜ」


「ああ? く、クイズ?」


「そう。目利きのクイズ。お高い商売やってるおじさんなら、簡単に解ける問題だよ。これ出来なかったら、恥ずかしすぎて商売なんてやってられねぇぞ」


 俺の正体を知らないのは好都合だ。

 相手は、俺を一般人と思ってる。つまり、その一般人に目利きの勝負に負けたらどうなるかくらい分かってるはずだ。


「くだらない。私はね、子供の遊びに付き合ってるほど暇じゃないんだよ」


「あ、自信ない? ま、それもそうだよな。自分の目利きの悪さを露呈するわけにはいかない。だから、とにかく逃げるしかない。少しでもボロを出したら終わり。自分の商売は詐欺でしたって認めるようなもんだもんな。物の価値分からないで高値で売るとか、詐欺以外なら何? みたいな」


 早くしろ。俺は、お前なんかに時間を割く暇はねぇんだよ。

 祭りまで時間がないんだからな。その上で作るものが沢山あるんだよ。

 こんな小悪党に構ってる時間なんか本当はないんだ。


「…………」


 男の目が鋭いものに変わる。

 図体もでかいこともあり、少し怖気づいてしまったが、俺はその目をまっすぐに見た。

 正体見せたな。

 全く、頭悪いな。取引に応じて自分が先手取れるように誘導すればいいものを。


「可愛い顔してるから大人しくしてやってれば……調子に乗るのもいい加減にしろよ、ガキが」


「お気遣いどうも。そういうのいらないから、阿漕な商売やめて金返せっての」


 俺が言い返した直後に男の拳が目の前に飛び込んでくる。

 暴力に訴えるか。挑発に乗りやすいというか、単細胞。

 エイルもよく騙されたな、こんなアホに。


「青葉さん、危ない!」


 エイルが魔法をかけようと手を掲げようとしたが、その必要はなかった。

 何故なら、俺が一閃をかける方が早かったからだ。

 それは、俺の新しい武器だ。

 剣の柄の底に属性をつけた薬を入れたカートリッジを嵌めて属性剣を作る。

 今までやっていた薬を一滴つけるやり方だと効果時間が短かったが、この新しいやり方はカートリッジ内の薬がなくなるまで効果は持続する。


 俺が切り裂いた男の服の一枚がはらりと落ちると、静寂が訪れる。

 男は顔を真っ青にして僅かに震えていた。


「なっ……ななな……!」


 予想だにしてなかったことだろうな。

 自分よりも圧倒的にちっぽけな存在が、先手を取ったんだ。

 こいつのシナリオでは、俺を殴り飛ばして屈辱でも合わせたかっただろうけど残念だったな。

 俺、そこまで弱くないんだ。こういうもん作っちまう時点で、黙って殴られる立場ではない。


「で、もう一度きくぞ。余計に金取ってるよな? このハーブと薬草っていくら?」


「ひいっ!」


 エイルが買ってきた商品を見せつけると、男は後退りをする。

 え、いくら何でも肝小さすぎない?

 俺、そこまで怖いことしてねぇよ。服斬っただけ。いや、普通に考えたら怖いか。


「た、ただで差し上げます! お金ももちろんお返しします!!」


 男は土下座をして金貨の入った袋をそのまま渡す。

 いや、これ俺達以外の分も絶対入ってるだろ。どうすんだよ、警備団に届けるの面倒くせぇ。自首ついでに残り持ってけ。

 周りの目が集まってきて何事だとざわめきだす。

 まずいな。これだと、俺やエイルも事情聴取を受けることになる。


「ひとまず、こんな商売やめとけよ。同業者共の顔に泥塗ってんじゃねぇよ」


「は、はい。すみませんでした。一般人とか見下した真似を……! まさか、お嬢様のボディガードとは露知らず」


 何かを勘違いされている気がする。

 ボディガード? 俺が? エイルの? それはどこの世界の冗談だ。


「冗談言うんじゃねぇ。俺はただの錬金術師だ」


「れ、錬金術師!?」


 ボディガード以上のショックを受けたのか、男はその場で口から泡を吐いて気絶をした。

 おいおい、メンタル弱すぎだろ。

 地味に傷付く反応やめろ。錬金術師と名乗っただけで気絶されるとか、どうなってんだよ。

 まあ、商売で目付けられた相手が錬金術師だとしたら何されるか分からんもんな。

 こいつらにとっても、錬金術師って存在は未知数だし。本人も把握しきれてないしな。


「仕方ねぇなぁ。連れていくか……」


 でかい図体のドワーフを連れていくには中々に骨が折れる。

 今度は、重いものも軽々と運べるアイテムか何か作れないか考えてみようかとふと頭によぎった。

 不便があったら作ればいいんじゃないのかと考える俺の頭は、少しどうかしているかもしれないが、僅かでも楽をしたいのだ。

 楽をするための努力を惜しまないのもまた生活の知恵ではないのかと思う。

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