表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/83

過剰搾取を撲滅せよ

 町に戻って数日が経った。

 人形師が収穫祭にやって来るから会えという話もあり、俺もひとまずはそれに向けて取り組むことにした。

 出し物をするという話だし、約束を取り付けたとはいえ錬金術師の俺が無様な姿をさらすわけにはいかない。

 そうじゃないと、紹介してくれたあの女錬金術師にも面目立たない。

 それに――


「耗弱病……か」


 治せるものなら、俺だって協力してやりてぇところではある。

 そうしたら、不便もなくなるだろうし。

 あの人の主が探してるから余計なお世話かもしれないけど、病人は放っておけない。


「あ」


 そうだ、億年草。万病に効く植物。

 トーマの高熱を治した時に使ったやつだ。

 億年草を使って作った薬は、まだいくつか残っていた筈。


「って、それで解決したら苦労しねぇよな」


 普通の病気とは違う。

 どっちかと言えば、呪いに近いレベルでどの文献にも書いていない。

 病だとしたら医学書に書いてる筈だが、空振り。


「あの、青葉さん」


 大きな紙袋を持ったエイルの声が頭上から聞こえる。


「あ? うわっ、いて!」


 驚いた俺はベッドから転がり落ち、木製の床に頭をぶつけてしまう。

 考え事をしているときに突然エンカウントするな。本当に吃驚するんだからさ。

 まあ、腐っていた俺の目を覚まさせるには良い刺激にはなったのだが。


「大丈夫ですか!?」


「ああ、大丈夫だよ。これ以上、頭悪くなんねぇから」


 後頭部を抑える俺が起き上がると、エイルの持つ紙袋の中身を覗く。

 エイルは、今後俺のバックサポートを全力でしてくれるらしい。

 主人がサポートするってこれいかに。

 そういうわけで、断る理由もないから買い物を頼んだわけだ。

 パシリと言われれば、言葉が悪いかもしれないが。

 お嬢様をパシリ扱いするとは、と一部に怒られそうな気もするが、エイルが望んだのだ。

 俺は悪くない。悪くない筈だが、ライドから一発の拳骨を食らった。

 理不尽極まりない。


「あの、これ何に使うものなのですか?」


 俺が頼んだのは、種類豊富な薬草に果物、それから卵や小麦粉に液糖とミルク。それ以外のものは、錬金術で用意できるから頼む必要はない。

 もちろん、これらの材料は錬金術に使うものだ。

 エイルは、何をするかではなく何を作るかと聞いているのだろう。


「健康食品だよ。あんま馴染みないかもしれないけどな、体に良い菓子でも出そうかなって」


「あ、収穫祭の」


「そういうこと。種類ある方が誤魔化し効くしな」


「誤魔化し……ですか?」


 一種類じゃ芸がないからな。

 何種類か出しておけば見栄えもいいし、サービスで日本人の心でもある緑茶を飲ませようと思う。

 これだけやれば、信頼の回復見込みはあるだろう。

 サービスの緑茶の葉を再現するハーブの情報も掴めた。

 ハーブティーになってしまうのは仕方ないことだが。

 高価だったけど大丈夫か。


「おい、いくらだ。結構、かかったろ」


「お気になさらないで下さい。私は、青葉さんのお役に立てるだけで」


「そういうのいいから。金はなくても、ちっぽけなプライドはあるんだ。女に払わせるとか冗談じゃねぇ」


 腐っても女には借りを作らない。

 金に関しては、サポートと別の話だと思う。そうじゃないと、ヒモっぽくて嫌だ。


「で、では……十リールほど」


「嘘つけ。その程度で済むわけねぇだろ。錬金術師の目利きなめんなよ」


「えっと、はい……」


 金の切れ目が縁の切れ目だ。こういうことはしっかりしておきたい。

 金持ちお嬢様からしたらどうでもいいことだとは思うけど、庶民の俺からしたら金貨一枚でも大事な金だ。


「二百リールです」


「にひゃ……は? にひゃくっ!?」


 こいつどんな買い物してるんだよ。おかしな行商から買ってるわけじゃないよな。


「お前、どこで買い物した? アニーの所と屋敷に来る行商だよな?」


「はい。あ、でも……今日は、いつも来てくれる方とは違いましたが」


 それだ。絶対それ。

 金銭感覚が馬鹿なの? それとも、普通に馬鹿なのこいつ。

 とてもじゃないけど、こんな普通の品質でその値段は頂けない。


「その行商からは、どれを買ったんだ」


「ハーブと薬草です。その他はアニーさんの所で揃えて――」


「その行商、まだ町にいるか」


 クーリングオフ。もしくは、強制値切りだ。


「はい。夕方頃まで広場で店を広げていると」


「行くぞ、エイル」


「え?」


 お前は、知る必要がある。

 俺はこの世界のことは知らんが、お前は人を疑うことを覚えろ。

 目の前で俺がその悪徳行商をぶっ飛ばしてやるから、社会勉強でもしてろよ。


「俺は、平気な顔で人を騙す奴が大嫌いなんだよ」


 俺の怒りの一番の理由がこれなわけだが。

 絶対に詐欺に引っかからない俺が、間接的と言えど引っかかったのは絶対に許されない。

 素直に謝って金を返すならよし。それ以外は全て却下だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ