悩みごと
俺は一人悩んでいた。
一気に重いものを持たされてしまう圧迫感に体を動かすのも億劫だった。
世界が終わるより先に生物が死ぬかもしれないと聞かされて、その時点でもう終わってんじゃんという突っ込みと、それで俺に何を求めてんのという疑問。
世界を維持するためには生命が必要。
だから、ホムンクルスを作らなければいけない。
ホムンクルスを作るために俺は召喚されたということがやっと分かった。
だけど、神様でもないのに命を作るなんて許されるのか。
それも、利用されるための命なんて……。
「命って道具なのかな」
そうだとしたら、それを作る目的に此処にいる俺も道具だ。
なるほど。確かにホムンクルス量産すれば、作り手の俺は英雄で救世主の足掛けだ。
空がぶっ壊れても世界は維持されるもんな。
ようこそ、ホムンクルスの世界へってか。
世界を救うってそういう意味かよ。ふざけんな。
分かってるよ。フィクションみたいに魔王を倒して、めでたしめでたしなんてならないって。
そもそもそんな奴いないって。
ソファでだらしなく横になっていた俺は、目線を錬金釜に向ける。
「愛情もないあんなものひとつで生まれた奴ってどんな気持ちだろ」
呟いてナーバスな気分に浸っていると、ノックと共に扉についた鈴がシャランと音を立てる。
「何腐ってんの、あんた」
まだ声変わりしていない、やや高めの少年の声。
「トーマ」
こいつは何しに来たんだ。
よく見ると、トーマは大量の荷物が入った紙袋を持っている。
「ライド達から。あんたの身を案じて材料持ってきたよ。ちゃんと参考書もあるからレシピも作れるだろ」
「俺は作らない」
周りが勝手に決めつける。俺はホムンクルス量産機だと。
でも、俺は人並みの感情でそれを否定したい。
「あんた、死にたいの?」
トーマの言葉が胸に刺さる。
「別にあんたが死ぬのは勝手だけど、ライド達に迷惑かけないでよ。アイリもあんたがいなくなったら泣く。それは許されない」
「…………」
こいつ、可愛くないな。
それでも、なんとなく俺を慰めようとしてるのかな。
「利用されるだけの命なんて作りたくねぇんだよ」
「は? 馬鹿じゃないの」
目を細めてトーマは呆れたように溜息を吐く。
「この世界にどれだけ望まれない命があると思ってんの」
その言葉に目を大きく見開いた。
そうだった、トーマはずっと迫害されて生きてきたんだ。
馬鹿野郎、言う相手が間違ってんだろうが。アホか、俺は。
「親の身勝手で子供が捨てられたり売られたりなんてよくあることだよ。いいじゃないか、命作ったって。利用されるだけの命だなんて思ってるかもしれないけどさ、その中で誰かの愛情があればやっていけるもんなんだよ」
紙袋を部屋の端に置いて、トーマは俺の体を起こす。
「僕はたった一人の友達がいるだけで救われて、ライドに拾われて……あんたに連れられて感謝してるんだよ」
何で俺がこんなガキに慰められてんだよ。情けねぇ。
「答えが、わかんねぇ。理屈では分かってるけど、でも」
「怖い?」
俺が頷くとトーマはやれやれと言った様子で目を細めた。
「ま、よく考えてみたら? エイルさんとじっくりね」
「あいつの選択は一択だろ」
「さあ、どうだろうね。あんたが悩んでるなら、一緒に悩むくらいはしてくれると思うよ」
エイルが俺と一緒に悩む?
馬鹿いうな。あいつはエゴの塊だぞ。
理想という暴力で俺を潰しにかかってきているんだ。
話し合いの余地なんてあるものか。
「ああ、それからこれ」
トーマは一枚のチラシを渡す。
収穫祭の店舗公募のチラシのようだが、俺には関係のない話だ。
祭りはあまり好きじゃないし、そういう気分でもない。
「ライドとアニーが『出ないとぶっ殺す』って言ってたよ」
――何でだよ。
「意味わかんね。今の俺に何出せっていうんだよ」
「さぁね。息抜き程度に何かやってみれば? 考えて引きこもりになってても何にもならないし。じゃ」
捨て台詞のようにトーマは言いたいことだけ言って帰っていく。
「息抜き……ね」
現状、金策も絶望的だし此処らで信頼勝ち取らないと俺自身が生きていけないか。
もしかしたら、悩みの打開策が見つかるかもしれないし。
そうは思いつつも、トーマが置いて行った荷物を見て気が重くなるのは確かで溜息しか出なかった。
このあたりから前回(初回版)の大幅加筆修正になります。
最初に書いたお話を見ていてくれた方々には申し訳ない気持ちでいっぱいですが、修正版共々よろしくお願いいたしますm(_ _)m
読んで頂けるだけでも大変励みになります。




