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揺れる想い

 部屋の窓から覗く虚無と青の空、そして活気のあるルーイエの町をエイルは切なそうな目で見ていた。


「青葉さん」


 青葉の噂はエイルの耳にも届いていた。

 様々な人間を錬金術で助け、上手いこと生活をしている。

 それが嬉しくて小さく笑みが零れる。

 しかし、すぐにその表情は曇る。


「本当の目的を知ったら怒るでしょうか」


 活気ある町から憂いを込めた目を逸らした。


「でも、青葉さんならきっと……きっと何とかしてくれます。そう信じないと、もうこの世界は」


 ぐっと胸元を掴んで苦汁を飲んだようにエイルは唇を噛み締め、俯いた。


「お引き取り下さい!」


 何やら家の中が騒がしい。

 またアニーが無理に訪ねてきたのだろうか。


「うっせぇ! こっちはお前らじゃなく、あの馬鹿女に用があんだよっ!」


 口汚い怒声。

 その声にエイルはハッと顔を上げた。

 間違いなく、彼だった。

 自分の理想を押しつけて苦しめてしまった彼、橋崎青葉の声。

 どうしてこんなに怒っているのか、寧ろどうして自分を訪ねに来たのか。

 女嫌いの……特に嫌っている筈の自分を。

 困惑すると同時にエイルの中で嬉しさが込み上げる。


「てっめぇ! エイル!!」


 バンッと勢いよく扉が開かれると、確かにそこにいるのは青葉だった。

 想定していたとはいえ、目の前に実際に現れると驚きを露にしてしまう。

 だが、彼は何故、自分を訪ねてきたのか不思議だった。

 彼は自分を嫌っているから突き放し、顔など見たくない筈だ。

 そして自分も逃げてしまったと、エイルは後悔で顔向けが出来なかったのだ。


「青葉さん」


「今すぐ、俺のアトリエに来い! お前とはじっくりと話さないといけないみたいだからな」


 そう言って青葉はエイルの腕を取った。


「え、あの……」


「こっちは我慢して触ってんだから何も言うな」


 腕を掴み歩く青葉を見て呆気に取られたエイルは、ただ引かれるままに歩く。

 というよりも、引っ張られて無理矢理歩かせられているというのが正しいだろうか。


「青葉さん、ちょっと待って下さい。一体、何が」


「だからアトリエで話すって言ってんだろ。お前の親父のせいで、俺は機嫌が悪いんだ」


「え、お父様が何か――」


「何かも何も……人のこと馬鹿にした挙げ句、ホムンクルス作れって百万リール置いてったんだよ! どんな神経してんだよ、お前の親父」


 ホムンクルスと聞いた途端、エイルの肩がビクッと揺れ、顔が青ざめる。


「ホムンクルス……」


「それが何かも分からねぇし、何より俺がお前に会う理由は──」


「青葉さん」


 青葉の言葉を遮ってエイルは固い表情を浮かべる。


「全てお話します。私があなたを召喚した本当の理由を」


 厳しい表情のエイルに、青葉は呆気に取られた。

 今まで下手に出てたエイルからは想像出来ない程、その目は真っ直ぐで整った彼女の顔が輪をかけて美しく見えた。

 顔に火照りを感じた青葉は、心に引っ掛かるものを感じた。

 女性恐怖症で女嫌いの自分が、何故かエイルにだけ拒否反応が起きず、寧ろ安心感と妙な胸の高鳴りを感じる。

 そうだ、最初の時もこんな気持ちがあった。

 彼女の顔を見た瞬間、胸の鼓動が速くなって、それで──


(召喚補正ってすげぇな。俺の心の中までこいつは入って来るのか)


 そう感じたら無性に腹が立って、今度は嫌悪感を感じる。

 だけど、その嫌悪感はエイルに感じるものじゃない。

 恐らくは自分に……彼女しか頼れない癖に横柄な態度を取る自分に嫌気が差す。

 それでも何故か素直になれず、彼女を他の女性と同じく拒否するしか出来なかった。


「エイルお嬢様、一体何処へ」


 メイドの数人が心配そうに青葉達へと駆け寄る。


「旦那様からお嬢様を外に出さぬようと。どうか、外には出ないようにお願いします」


「しかも、そのような野蛮人と一緒だなんて……責任は私達にあるのです」


「このままでは私達が旦那様に叱られてしまいます」


 口々に保身のためにエイルを留まらせる言葉に青葉の怒りが蓄積される。


「お前、あのくそ親父に軟禁されてるのか」


「いえ、そんなことは……」


「じゃあ、何で外に出ちゃいけねぇんだよ。おかしいだろ」


「それは……」


 エイルが目を泳がせると青葉は呆れたように深い溜息を吐いた。


「……俺のせいか?」


 ぐっと拳を握りしめ声を震わせる青葉にエイルは、肩をビクッと揺らした。


「ち、違います! 青葉さんは何も悪くありません!」


 張りつめた空気が場を支配し、エイルは息を飲んだ。


「何を言われた?」


「何も言われてません。それに青葉さんには関係な──」


「全て話すって言ったよな。だったら話せ。何があった? 俺のことで親父に何か言われたか?」


「それは」


「エイル」


 青葉はエイルを掴んでいた手を離し、すぐに彼女の白くて細い指を自分の指と絡めた。


「俺がお前を連れ出してやるよ」


 青葉は鞄に手をかけ、白い液体が入った試験管のコルクを外し、周囲にばら撒くと、白い煙が立ち込める。

 メイド達は口々にエイルの名前を呼びながら咳き込んだ。

 エイルはただ青葉に引かれるまま走った。

 そこにあるのは戸惑い。

 女性を極端に避けようとする彼が、どうして自分に対しては普通に……いや、それ以上に接してくれるのだろうか。

 一度突き放したのに今はこうやって手を取って走っている。


「…………」


 もし、そこに特別な感情があるとしたら申し訳ない気持ちになる。


 召喚する者とされる者。

 そこに個人の感情を抱いては駄目なのだと教わった。

 召喚されし者は、主人に仕えるのが当たり前。

 そう何度も父親に教え込まれた。

 特別な感情を抱くと、本来ある契約が崩壊して繋がりが消えてしまう可能性があるのだと。

 つまり、青葉と感情を結べば、彼が力を失って救世主になれないかもしれない。

 それは避けないといけない。

 お互い、特別な感情を抱いてはいけない。

 ただひたすらエイルは願った。

 彼にとって自分が大切な存在にならないことを。

 そして、自分も彼に必要以上の好意を抱かないようにしなくてはいけない。


 だけど、どうしても繋いだ手から感じる彼の肌の温かさに喜びを感じずにはいられなかった。

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