表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【打ち切り完結】どうやら俺の錬金術は世界を救うらしい  作者: 森鷺 皐月
第一章 錬金術師として手始めを
15/83

相容れない関係

「青葉さんって、どうやって錬金術をやっているんですか?」


 風呂上がりの後のハーブティーを飲む俺をアイリは、じっと見つめる。


「どうやっても何もレシピ通りにやってるだけだ」


 あれを錬金術と言っていいのかは分からんが。


「例えば、こないだの万能薬。億年草の花と草をすり鉢で擦って、そこから出たエキスと中和剤を錬金釜に入れて……」


 地道な作業なんだよな、あれって。

 魔法みたいに一瞬で完成なんかしない。

 錬金釜自体が魔法みたいなものだが、それは置いておこう。


「でも、それって青葉さんがやるから出来るんですよね。よく分からないけど、特殊な魔力だっておじいちゃんが言ってました」


「お前も御伽噺の英雄って感じで錬金術師を崇拝してるわけ? 悪いが、俺はそんなつもり――」


 いや、待てよ。

 エルフでおじいちゃんって結構な年寄りだよな。

 つまり、この集落の秘密とか知ってるんじゃないか。

 アイリには聞きたくない。女の言葉なんか信用出来るか。


「青葉さん?」


「うわあっ!」


 至近距離で顔を近付けるな。怖いだろうが。


「お、お前の爺さんってこの集落にいるのか?」


「はい。私のおじいちゃんは此処の村長ですよ」


 まさかの権力者。


「でも……」


 言葉を濁してアイリは俯く。


「あの、青葉さん。聞いてくれますか?」


「嫌だ」


 こいつの表情から察するに面倒事だ。

 俺には俺のスケジュールってもんがあるんだよ。

 さっさと卵受け取って帰りたい。


「………」


 アイリの目に涙が浮かぶ。

 これは俺が悪いのか。


「何、お前の爺さんが死にそうだから、追加依頼でまた万能薬作れって言うんじゃないだろうな」


 追加依頼は高いぞ。そんな金ねぇだろうが。


「違います。この集落を隠す理由です。私はその……間違ってると思うんです。だけど、怖くて言えません」


「何が怖いんだよ。その爺さん、そんなに強面なのか?」


 アイリは首を横に振る。


「おじいちゃんは普段は優しいんです。でも、その……何に対しても偏見が強くて。それが村民にも影響しているんです。いつしか、外の者は信用ならないという意識が強くなって」


 それはつまり、俺達も歓迎されてないってことか。


「いや、待て。俺達が来たときのあの空気、そんな人嫌いには感じなかったぞ」


 嫌な予感がプンプンしてきた。

 何か、よくないこと考えているんじゃないのか。


「錬金術師は悪の芽。神に背く異様な魔力を持つって。穢れを払えば、全てが解決するって」


 錬金術師が悪の芽?

 オイコラ、人を英雄扱いしたり悪役扱いしたり忙しいな。

 現状、表の顔では俺達を歓迎している。

 その裏で俺を悪とするなら、何か罠を張っているのかもしれない。

 早々に去った方が良いな。元から長居する気はないが。


「青葉さん」


 顔を強ばらせてアイリは、俺の目をじっと見た。


「青葉さんが人間を作ろうとしてるって本当ですか?」


 ………………。

 …………はい?


「悪い。わけわからないことが多すぎて頭いてぇ」


 人間を作るってどういうことだ。


「アイリ、不穏な言葉は慎みなさい」


 扉が開く音と共に年寄りと村民がそこに立っていた。

 何か物々しい雰囲気だ。

 だって年寄りの周囲の奴らは銛や斧などを持っている。

 逆らったら殺されるんじゃないか、俺。


「失礼しました、錬金術師様。アイリはまだ幼い子供故、無礼をお許しを」


「女って時点で……まぁ、いいや。あんたが村長だろ。俺よりも詳しい話知ってそうだし、聞かせてくれるか」


 罠を張ってるとしても話くらいは出来ていいだろ。意思疎通出来るんだし。

 ついでにその物騒な武器を下ろしてくれると助かるんだが。


「錬金術師様、あなたが本来召喚されて理由……どうも自覚がないようですな」


「まぁ、よく分かってねぇけど。この世界を錬金術で救えって言われたけど何が何だか」


「なるほど。理解すらしていないということか」


 何かに納得したように爺さんは頷き、そして喉元で笑った。


「──っ!?」


 何だ? この感覚。全身が鉛みたいに重い。

 重力に押し潰されるように俺は床に平伏せられる。

 指先ひとつ動かない。

 これ、魔法? 俺、今ピンチなんじゃないか。


「体……が……」


「下手に動かれたら困りますからな」


「俺が何したってんだよ……!」


 こんなの理不尽だ。

 何もしてないのに捕縛されるなんて冗談じゃない。


「俺にこんなことするってことは、平和的な話は出来ないわけか」


「全てはこの集落の民を守るため。外の者を簡単に受け入れられぬのだ」


 つまり、自分達の平和のために外との関わりを切るってことか。

 ルーイエにいたのは、この縛られた村になんかいてられねぇって飛び出した奴らだな。正解だぜ。

 てめぇの保身のために人を平気で縛り上げられるんだもんな。


「私達に用があるなら話そう。しかし、此処の民を傷つけることは許さんぞ」


 思いっきり誤解されてるな。


「聞きたいことは二つある」


 さっさと聞いてさっさと帰る。それがベストだ。

 二度とこんなところに来るか。


「ひとつ、どうしてこの集落を隠す? 他者を拒む口実としては大袈裟過ぎねぇか。条件さえ満たせば、隠れてても意味ないだろ」


 町にはエルフがいる。つまり、この場所の情報は掴める。

 そして、此処に入るための風転石を使えば、鍵のかかった部屋に入るようなものだ。


「何も施さず入られるよりはマシだ。先程も人間が来たが、最近は異端児を目的としてる輩が多い。全く、あいつも抵抗せずに連れて行かれればいいものを」


 異端児?

 此処に住んでいる奴を選りすぐって守る奴と守らない奴が決められているのか。


「それ、僕のこと?」


 開いた扉の外には一人の少年が立っていた。

 傍らにはライドもいる。


「トーマ」


 アイリが少年の名前を呼ぶ。

 確かライドが風呂借りるって言ってたっけ。 

 アイリが言っていた熱出したっていう子供。

 薬が効いたんだな、良かった。

 ああ、医者が首を横に振るってそういうことかよ。

 本当、本当に……嫌な気分になるよな。


 この子は『治らない』んじゃなくて、『治してもらえなかった』んだからさ。


「安心してよ、出て行くから。その人もすぐに出ると思うよ、こんなとこ。そしたら今度はもっと分厚い結界張れば? 自分達が出られないくらいのさ」


 淡々とした物言いから分かる。

 異端と言われたこいつをこのクソ野郎共は、どうやって迫害してきたか凄く分かる。

 アイリと変わらない年のガキを大人が寄ってたかって煙たがって、大変な目に遭っても助けようともしない。

 努力をしようともしない。

 こんな場所、クソ食らえだ。


「その人、離して。じゃないと、僕が魔法を使うよ。あんたの弱々しい魔法よりも強烈なやつ。一応、人間の血引いてるから」


 この世界は驚くことに人間が一番、魔法に長けている。

 ゲームとかで考えると、人間が一番弱そうなのに、この世界はやはり特殊らしい。

 というか、やっぱり現実なんだな。分かってはいるんだけど。


「その人はこっちの世界の人間じゃない。半端な術をかけたら、体が壊れるよ。いくら特殊な魔力持っていたって……いや、持っているからこそ半端な擬似的魔法を使ったら体が反応起こすよ」


 このガキ、何て不吉なことを。

 確かに体が動かないだけじゃない。

 体の中が焼けるようにチリチリと痛む。


「だけど、人間の安定した魔法ならすぐに解ける。簡単な捕縛魔法でも長引けばただじゃすまない。まぁ、推測に過ぎないけどね」


「だが、お前がやったとこで同じだ。お前のような混ざりものが──」


「あんたよりマシだよ」


 トーマが右手を俺に向かって伸ばすと、パリンッと硝子が砕けるような音がした。

 それと同時に俺の中の痛みも体の拘束も解ける。

 指先を動かして起き上がると、変な魔法にかかったのが嘘のように体が軽い。


「腕を上げただけで……何で混ざりもののくせに、こんな魔力が……この化け物が!」


「それ言ったら人間そのものが化け物だろうがよ」


 ライドが爺さんを睨み、指をパチンと鳴らす。

 それと同時に大人達が持つ武器がその手を離れた。

 ライドお得意の鍛冶魔法。

 武器を作るだけじゃなくて操ることも出来るのか、すげぇな。


「帰るぞ、青葉」


 何事もないようにライドは薄く笑う。


「アイリ、僕達と一緒に来てよ。こんなとこにいてもつまらないだけ。また閉じこめられるよ」


 閉じこめられる?


「おい、どういうことだ」


 これ以上は勘弁しろよ。

 ただでさえ胸糞悪いのに。


「僕と関わる度にアイリはクソジジィに地下倉庫に閉じこめられてた。多分、また閉じこめられる。僕に薬をくれたから」


 それを聞いた途端、体中の血液が沸騰したかのように怒りの頂点が沸き、俺は爺さんを殴っていた。


「青葉さん!」


 俺に殴り飛ばされた爺さんを庇うように大人達やアイリがそちらへ向かう。


「青葉さん、何でこんな暴力……」


「そこの爺さんがお前にやってるのはこれ以上の暴力だよ! 爺さん、いくらなんでもそれはねぇだろ! こんな小さいガキ共をお前らのくだんねぇ差別とか迫害とかに巻き込みやがって……!」


「青葉さん、私は大丈夫です。だから──」


「うっせぇ! 黙ってろっ!」


 大丈夫じゃねぇだろ。

 少なくとも俺の心中は大丈夫じゃない。

 俺はアイリの腕を掴んでライドとトーマに近付くと、鞄から小瓶を取り出す。


「鉄壁の腐った集落か孫かどっちが大切か見極めてやる。孫が大事なら考え方を改めて行動で示してみろ」


 そう言って小瓶のコルクを抜き、俺達四人に液体をかける。

 森で迷ったときのために持ってきた町へ転移する薬だ。

 帰るときに使うつもりだったから丁度いいや。これ、完璧に誘拐だけど。

 まさか女子を誘拐するなんて思わなかった。

 俺、死んだな。別の意味で。


 しかも──


「卵、貰いそびれた……!」


 町に戻った瞬間、膝を落として地面に手をつく。

 ライド達は上手いこと着地出来たようだ。


「青葉、お前すげぇな。まさか誘拐するとは思わなかった」


「ああ、俺もだよ。何で俺がこいつ誘拐しなきゃならないんだよ」


 大体、これどうすんだよ。

 俺、この先面倒見切れないぞ。

 というよりも、見たくない。


「ま、お前が誘拐したならお前が預かるしかないな」


「はあっ? 冗談じゃねぇぞ! 何で俺が女とひとつ屋根の下で――」


「本当、冗談じゃないよ。ライド、アイリも一緒に面倒見てよ」


 トーマが腕を組んで溜息混じりに言い放つと、やれやれとライドは苦笑いを浮かべる。


「でも、あのクソジジィがアイリに何かしたらあんたの責任だから」


 トーマが俺を睨む。プレッシャーかけんな。

 何で俺がこんなに責められなきゃいけねぇんだよ。

 しかし、疑問を解く方が先だよな。

 話し合いの余地がなかった爺さんに聞きたかったもうひとつの疑問。


 人間を作るって、どういうことだよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ