プロローグ
無限に広がるコバルトブルーのキャンパスに白い絵の具を垂らしたような雲が浮かぶ空。
謂わば快晴というもので、視界ワークを下に向けると緑広がる広大な世界が広がっていた。
だが、その緑の高原に影が落ち始める。雲が空を覆ったわけではない。
清々しい空に亀裂が入り、軋む音と共に崩れ落ちていく。
穴の開いた空から見えるのは闇。何もない漆黒の闇だった。
その破滅の兆しが見えたのが二十年前の話である。
現在、世界……イェルハルドの半分が闇に捕らわれている。
二十年前の災害により数多の人間が死に絶え、人間が使える生活に要する魔法の力も弱まっていた。
人を増やすにも災害の瘴気により、命を作る器官を失った女性が多発。子供を作ることは無理だと認識された。
人間を増やす。
増やすことで自らの大地を取り戻すことを誰もが望む。
しかし、成す術がなかった。宮廷遣いの上級魔導師ですら命を作れる者などいなく、それは傲慢な人間の驕りだと非難された。
「――それでも生きなきゃいけない。どんなに非難されても私は、この世界を助けたい」
絹糸のような綺麗な金の長髪が揺れる一人の少女エイルは、魔法陣の上に立ち小さな杖を振る。
キラキラと杖から光の粒子がラメ状となって風に乗り、それが魔法陣の枠内に広がった。
ヴゥン……と光の粒子と魔法陣が共鳴する音が発せられる。
イェルハルド古来より伝わる呪文を唱えると、みるみる魔法陣は青い光を発し、エイルを包みこんでいく。
「お願い。お願いだから、私達の世界を……イェルハルドを助けて。錬金術師様」
その願いを抱えながら、エイルは飛び立った。
イェルハルドを救う魔法を越えた技術を持つ伝説の存在……錬金術師を探して。