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彼女と彼と彼女の友人

 



 ~彼女の場合~




 付き合っちゃえばいいのに。


 実に無責任且つ勝手にそう言い放った友人の言葉に私は先程口に含んだばっかりのお茶を勢いよく噴射した。

 付き合っちゃえばいいのに。それは誰と誰がか。単純明快、私と私の隣りの席のくそむかつく野郎が、ということだ。

 喋る内容のうち八割方が口喧嘩な、自他共に認める仲の悪さ。そんな私達が、付き合う?いったい何のジョークだ。面白みの欠片も無い。お前は一回ならず何回でも笑点を見て笑いのなんたるかを学べ友人!


 うわ、きたなっ、と半ば蔑みを含んだ冷たい目で友人は淡々と呟いているが誰のせいだと思っているのか。少なくとも私は悪くない。というか確実にお前のせいだ友人。

 そんな私の心の呟きを余所に、だってさ、と私が噴射したお茶を取り出したティッシュで拭きながら友人は言葉を続ける。


「あんたたち仲良しなんだからここは一つ結ばれてみたらどうよ、と思ってみたわけですよ」


 何がですよ、だ。全く持って理解不能。なんで仲良しからいっきに結ばれちゃうくだりになるの。そんな、仲良しだから結ばれろと言うのであれば私と相当仲が良いお前が私と結ばれるべきだろ。そっちの気は毛頭ないがな!

 そもそもだな、


「私、あいつと仲良くないんだけど」


 むしろ犬猿の仲なんですけど。

 実に心外だ、そんな様子を微塵も隠さず眉間に皺を寄せ友人に言うが友人はどうやら聞いていないようすで。

 あんたたち付き合ったらお似合いよー、きっとあいつはあんたの尻に敷かれるわねー、でも意外とリードしてくれるのかも、などなどの実に不愉快極まりない妄言を愉快そうに並べる。愉快そう、というか絶対楽しんでるなこいつ。ニヤニヤ顔が更に不愉快指数を上昇させる。きっと今友人を殴っても誰にも文句を言われぬまい。こいつのニヤニヤ顔はそんな力がある。伝授しよう、と言われても全力で断るけど。


 そんな有害でしかない顔をしたまま、私の隣りの席へと視線を移す友人。空席のそこは正にあいつの席なわけで。トイレだかなんだか知らないが今はいない。だからこそこんな話をしているのかもしれないが。迷惑なことだ。


「まあ、そうなったら面白いなーって思って言ってみたまでだけど。あんた思った以上に嫌悪丸出しな反応するのねー。いや、面白いわ」


 ニヤニヤ顔からニタニタ顔へと更にランクアップされ、私の不愉快指数も急上昇。というかメーターふりきってますがな。

 何故たかがお前の娯楽に私が巻き込まれなきゃならん。というか面白いってのは何だ。私の顔か。顔なのか。


 ふーん、そっかー、いやいや、大変ねー。と妙に意味深に呟きながら友人はまぁ、頑張れと誰に言っているのか分からないが応援の言葉を口にする。ここはやはり私に向かってなのかとも思うが、友人の目はあいつの席に向けられまるであいつに言っているかのように聞こえて。………考えすぎかな。


 私が軽く首をひねっていると、件の奴がトイレだかなんだかから帰ってきてこの話は終りとなった。友人の視線を追って同じくあいつの机を見ていた私に勿論と言わんばかりにあいつはいちゃもんをつけてきた。

 友人の苦笑を聞きながら、私はあいつとの口喧嘩を開始したのは言うまでもない。




 まったくもって今日は不愉快な一日である。









 ~彼の場合~




 突然だが、俺には好きな奴がいる。

 同じ県の、同じ市の、同じ学校の、同じクラスの、隣りの席の奴だ。同じの~が続いたんだから最後も同じの~で括りたいものだが席が同じなどありえないことなのでやむを得ない。正直最後だけ違うのは違和感というかゴロの悪さを感じる。ゴロ良さはとても肝心だと思う。歌でも台詞でもキャッチコピーでも、ゴロが良ければ割合心に響くものだ。

 ……なんでゴロの善し悪しを話してんだ?


 そうじゃなくって、とりあえず俺の好きな奴は隣りの席の奴なんだっ!

 こんな都合のいい席にあたった俺は本当にラッキーだと思う。アプローチをかけやすいし、何より授業中とかにそいつの横顔やら悩んでる顔やら眠そうな顔やら機嫌が良さそうな顔を盗み見したりできるからな。


 盗み見なんて自分でも実に変態的だと思うさ!しかし盗み見でもしない限り俺は眉間に皺が寄った不機嫌顔しか見れないんだからしょうがないだろ!

 ほら、今だって盗み見がばれて不機嫌顔が睨んできやがるし!


 ……つまるところ、俺はあいつにあまりよく思われていないようなので、直球に言ってしまえば嫌われているようで、盗み見でしか皺の寄ってない顔が見れないわけで。

 アプローチうんぬん言ったが結局そのアプローチすらかけられないわけで。

 俺達の関係はあいつ曰く自他共に認める犬猿の仲なわけで。


 俺は犬猿の仲だなんて一切認めていないが、というか認めたくないんだが回りから見ればそうなのだろうなとは分かっていた。そう見えてんだろうなと思いあたるフシがおおいにあったからだ。


 それは十中八九俺が悪い、口喧嘩。

 口から飛び出す言葉は仲良くなりたい思いに反して、下らない嫌味や悪口ばかり。たまに普通に話せたと心の中で喜んでいてもそれは次第に上記のものへと姿を変えていく。

 確かに他の男子よりも多くあいつと喋る機会があるが、そんなもので気を引くとか馬鹿すぎる。小学生男児か俺は。


 しかしそれに反応するあいつもあいつなわけで。仲が良くなるどころか喋れば喋るほど溝が深まっていく気がする。なんてこった、俺はどうすればいいと言うんだ。


 見つめる先は不機嫌に視線で何よ、と訴えている。何よも何もございません。俺はお前が好きなんです。

 こちらも視線だけでそう伝わればどんなにいいことか。そんな思い通りにいくわけがないのだから現実は実に難儀だ。

 あいつから視線を外して深くため息を吐けば隣りから何かをへし折る鈍い音が。多分、鉛筆?

 おーおー、恐いねぇ。言わずもがな俺の態度に腹をたててやったんだろうけど。てか力強いのな。


 正直なところ、嫌われていると自覚しているのは悲しいもんがある。だってそうだろ?誰かに嫌われるのは嫌なもんだ。酷く悲しい気持ちになる。

 よりにもよって、俺は好きな奴に嫌われているんだ。何の悲劇だこれ。


 まあ、だからと言って諦める気持ちは微塵もないけどな!

 本当に、真面目に嫌いだったら俺に反応なんかせずにスルーだろうし、そもそも関わりを無くそうとするだろうから。

 口喧嘩ですんでる今はウザくて嫌いレベルだろうから徐々に挽回してやるよ!

 ……その徐々にがいつから始まるかはわからねぇけど。




 とりあえず今は、俺から視線を外した未だ不機嫌そうな顔を盗み見しながら、こっそりほくそ笑むことにする。










 ~彼女の友人の場合~




 実に面白いと思う。

 何が、と問われれば胸を張ってあたしはこうお答えしよう。


「あの子とその隣りの席の彼が!」


 だってそうでしょうよ。

 いっそ清々しいくらい一方通行な彼に、その思いに欠片も、微塵も気付かないあの子。まあ仕方ないと言えば仕方ないのだと思うのだけど、こちら側からしてみればどこぞの漫画だよ!と机を叩いてやりたいぐらいだ。というか既に何回かそれやってその都度不審がられてたんだけども。


 あの子曰く自他共に認める犬猿の仲のあの子と彼。

 それは確かにクラスはおろか他のクラスや先生数人も認めるほどだしあたしにもそう見える。ただ、そう見えるだけであたしはそうは思っちゃいないけどね。

 だって少なからず彼はあの子のことが好きだもの。きっと彼だって犬猿の仲ってのを認めてないだろうしね。


 どうやらあたしは他人よりも察するという能力が優れているらしく、彼があの子のことを好きなのだとすぐに気付いた。聞いてはいないので確証はないのだけど確信ならある。毎日何かしらちょっかい出すのが証拠といってもいいのかも。かまって欲しいのかしら。


 まるで小学生の男子だねぇ、と二つ前の席のあの子の隣りの彼を見つめる。

 あの子を盗み見してるのがバレバレだわ。だけどみんな黒板に集中してるから気付かないんだよね。よかったね、あたしを除いてみんな授業熱心で。あ、彼が熱心なのは授業じゃなくてあの子にだったわね。じゃあ訂正。あたしと彼以外はみんな授業熱心で。


 しかしながら彼の恋はとてつもなく前途多難なんじゃないかと思う。

 この前冗談で言った付き合っちゃえば発言にあの子は恐ろしく渋い顔をしてたから。普段はそこまで顔に出す子じゃないから予想以上の反応に驚いたわ。無視したりしないで反応するあたり真面目に嫌っているわけじゃないと思ってたのに。

 案外、あたしが思ってる以上に嫌ってるのかもね。

 そうだったらもうとにかく頑張れとしか言えないわ。まあ今までも頑張れとしか言ってないけど。というか言ってすらいないけど。

 言ったら言ったで面白そうだけど、現時点ではあくまで傍観者をつとめさせていただくよ。


 さて、どうやらあの子が盗み見されてたのに気付いた……それともたまたま目が合ったと思ってるのかな。まあ、いいや。そんな感じだけど、また随分な不機嫌顔してるわ。彼も彼で気付かれてバツが悪いのか中々渋い顔で。やばい、なんか笑えてきた。だってなんかシュールな気がする。

 笑いをこらえていると、ため息のような音が聞こえすぐさま何かをへし折ったような音が。鉛筆かしら。

 授業に集中してたみんなも最初こそ何だろうと好奇心に負けて音の出所を探すけど、あの子が折ったのだと知るや否や呆れと苦笑を混ぜたような表情になって黒板へと視線を戻す。みんなも慣れたものだねぇ。


 私は苦笑どころか満面の笑みでその様子を眺めている。あの子が言うところのニタニタ顔だ。うむ、なかなか上手く形容していると思うぞ。

 そんなニタニタ顔であの子の様子を見る限り、あの子の腹わたは煮えくりかえってんだろうなと容易に想像ができて更にニタニタになりそうだ。妖怪ニタニタってか。


 きっと今日の帰りは愚痴につきあわされるんだろうね。いつまでも腹わた煮えくりかえされてても困るから勿論聞くけど。

 あの子って冷静そうに見えて本当に短気なんだよねぇ。そこらへんがおバカで可愛いけど。おバカって言ったら彼もだけどね。


 本当、面白いと思う。

 単純だけど複雑な関係。あの子達は例えるならどんな関係なんだろうね。恋人以下なのは勿論だけど友達以下なのかもしれない。

 知り合い以上友達以下、か。

 うん、実に寂しい言葉であるけどこれが一番合うのかもね。

 これからこの関係が変わっていくのかはたまた変わらないのか見物だ。



 どうかあたしを楽しませておくれよ、お二人さん。






昔、自サイトに載せていたものです

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