(三十一)後日談・ガイツハルス、その後
まだずきずきと痛む頭を抱えながら、ガイツハルスは自室の書机で唸っていた。
すっかり二日酔いになってしまい、今日は朝食も、昼食も逃してしまった。
それもこれも、あの馬鹿のせいだ。
いつもいつも、あいつが関わると碌な事が無い。
立ち飲み屋で呑み始めてから後の記憶が、彼にはほとんど無い。
さらに彼を唸らせているのが、目の前に積まれた支払依頼書の山だ――有ろう事か、オラシオン小隊の全員が、休日の遊興費を全額、彼のつけにしていた。
なおさら最悪なのが、あの小隊長だ。
即座に却下してやろうと呼び付けたところ、一枚の始末書を持って現れた。そして、彼が押し止めるまで、黒髪の彼女は滔々と語り続けたのだ。
『少佐殿におかれましては我々と休暇をご一緒いただき、誠に有難うございました。ただ……ちょっと困ったことが有りまして、少佐殿は散々酒類を召し上がった上、立ち飲み屋ならびに公道において騒乱、一部のアルカイド市民より苦情を頂いてしまい……さらに困ったことに、上流層向けの人工海岸でそのう、酔った少佐殿が大暴れ、さらに吐瀉、借り物の敷物を汚す始末。我々現場の人間だけであればまだ良かったのですが、何しろ当基地責任者でいらっしゃいます少佐殿、御自ら率先しての騒乱の上、高級施設において公序良俗に反する行いまで……』
要は、ガイツハルスの責任にならないように始末書を出してやるから、遊興費を全額出せということだ。
彼女の、どこまでも沈着冷静な光を湛えた、水色の瞳を思い出して、彼は思わず身震いした。
本隊への返り咲きを狙っている彼にとっては、自分の名前で始末書の一枚も出したくはない。それを理解し、逆手に取った所業なのだ。
「まったく、高くついた……」
溜息をついて、ガイツハルスは革張りの椅子に深く背を預けた。
彼の濃茶色の瞳が、もう一つ、書机の上に乗せられた物に引き寄せられる。
丁寧に梱包された紙箱から顔を覗かせているのは、選びに選んだ、黒蛋白石の首飾り――今日の午後の便で届いた物だ。
それを見て、彼は微笑んだ。
まだ胃の腑は落ち着かないが、不思議と、彼の気分はすっきりとしていた。
心から語り、心から笑い、心から泣いた一日だった……ように思う。
「だが、良い休暇だった……、かな?」
ふふん、と笑うと、彼は首飾りを大事に手に取り、今頃は格納庫に居るであろう黒髪の少年に見せるべく、小太りの体をよいしょっと、革張りの椅子から立ち上がらせた。
(つづく)
かむ、
かむ、
かむ、
かむぱねるらーーーーーっ!!!!(←言いたいだけ)
続きは、2015年10月10日(土)、18:00に掲載予定です。
次回「窒素封印機体」。
さあ貴方も、絶界でフライ・ルー!(ざねりっ!←言いたいだけ)




