(十五)人類居住外空域・後々編
調査中に発見された古代遺物は、かつて古代地球の大破壊に関わったとされる暗黒色の竜、超弩級魔竜を封じる物だった。右腕に焼けるような何らかの力を覚えつつ、それに対抗しようとするパーセウスと隊員たち。
彼らを押しとどめたのは、飛行隊を率いるウチーチリ少佐だった。調査部隊の本分として、敢えて騎兵憲章を破っても、超弩級魔竜との知性的接触を試みることを提言するウチーチリに対し、戸惑いながらも同意する各小隊長。だがその試みは、ウチーチリ飛行隊に潜入していた監査部隊の一員、エスピオンによって遮られる。不意に始まった同士討ちにより、飛行隊は混乱に陥る。
全員の目が、大型浮島の表層に激突したδ隊1番機に釘付けになった。
クライシ大尉を乗せた脱出球を無理に追ったため、無視界飛行も不完全なままで黒藻宙底層に突入したのだろう。
風防は黒藻たちによって食い破られ、その操縦席は無残にも崩壊している。空気取入口から侵入した貪欲な黒藻たちは、その機体を内部から食い荒らし、航空騎兵は半壊している。
人型形態への移行途中のまま、「く」の字にその身を折り曲げたδ隊1番機からは、まるで救いを求めるかのように、両腕が伸びていた。その両手には、今や見る影もなくなった脱出球の残骸が、死んでしまった雛のように横たわっている。
――δ隊は間に合わなかったのだ。
女性大尉のすべては黒藻に消えた。彼女を救いに駆け昇った4機の航空騎兵、8人の搭乗者たちは、その身すら、暴食の宙底層に差し出してしまったのだ。
パーセウスの耳に、もはや聞くことの出来なくなった彼らの笑い声や、少年をからかう声が甦ってきた。その脳裏に、クライシ大尉の美しい金髪、艶やかな褐色の肌が想い描かれた。
それらは皆、食い潰されてしまったのだ。
突然の裏切りによって。
「――ぉおおおおおおおお!!」
少年は吠えた。
ウチーチリが制動する間もなく、搭乗するα隊1番機を中空のエスピオン機に向ける。
――右翼撃槍、展開と同時に射出! 超音速の撃槍がエスピオン機に向かって放たれる。
狙いが定まっていないため、やすやすと盾翼で弾かれる……だが、これは囮だ。
――人型形態へ移行、制御弁全開放で肉迫、左翼撃槍、展開と同時に突撃! 僅かに稼いだ時間で、一気に肉迫、人型形態を取っているエスピオン機の腹部を狙う。
操縦席を狙うことに、何のためらいも感じなかった。
『……バカか、お前は』
容赦なく、エスピオンは引金を引いた――右腕の撃槍が射出され、狙い定められていたどん亀の操縦席を貫き、炸裂した。
「やめろ! やめてくれ!」
ウチーチリが絶叫を上げた頃には、κ隊2番機の前部は塵となっていた。
『お前みたいな考え無しが、一番ムカつくんだ』
エスピオン機は、肉迫するα隊1番機の撃槍を右翼盾で払う。
その慣性を活かして盾翼を横に薙ぎ払う。
薙ぎ払われて、α1の頭部が砕け散った。
人型形態時の頭部、つまり制御系統を破壊され、α隊1番機の機能が全停止した。
――通常の航空騎兵としては学ぶ事の無い、「人間と戦うこと」を想定した航空戦術だ。
安全装置が働き、脱出球状態で撃ち出されようとするα1の操縦席を、エスピオン機が風防ごと、右手で押さえ、そのまま鉛直方向に突進、大型浮島の表面に叩きつける。
「くそっ! くそっ!」
激しい衝撃が、パーセウスとウチーチリの全身を襲った。自分の骨が折れる音を聞きながらも、少年は叫んでいた。
「じゃあてめぇの考えは何なんだよ! 仲間を殺すことがてめぇの役割なのかよ!」
『そうだよ』
α隊1番機を地面に叩きつけ、さらにそれに圧し掛かりながら、エスピオンはさらりと答える。まるで、明日の天気でも聞かれたかのような声だった。
『いや……そうじゃないな。敵性分子は粛清、それが俺の役割だ』
エスピオン機は、左翼撃槍を展開しつつ、右手の鉄爪を伸ばし、α隊1番機の風防をこじ開ける。前部座席と後部座席、それぞれを安全に射出するための脱出球も、破れて弾けた。
――パーセウスの有視界に、人類居住外空域の薄明の空が見えた。
12キロメートルほど上空には、黒々とわだかまる黒藻宙底層。
それを除けば、夜の闇は昼の青さにすり替わろうとしている。
三時方向からは、太陽の温もりを感じられた。
――だが、少年の眼前には、力無く横たわったα隊1番機に圧し掛かる、エスピオン機の黒色の頭部と、撃槍の先があった。
『生身を貫くところは見たことがないんだが、どんな感じなのかな』
舌なめずりでもするような声でエスピオンが言う。
動かない体、怒りを押し潰すような恐怖に、パーセウスの唇が震えた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『……きやがったぞ! 畜生!』
γ隊1番機からの声に、少年は自分の虚像把握を広げた。なぜ、航空騎兵が完全停止した状態で自分が虚像把握できるのか、疑問に思う余裕は無かった。
直接交戦範囲まで、亜級翼竜は既に迫っていた。
中空に停止せざるを得なかった鷹の目たちに、音速で、次々に襲い掛かる。
音速の衝撃波が響く都度、航空騎兵が1機、また1機と薄明の空に散っていく。
『小僧が手間をかけさせた所為で……くそが』
エスピオンが口汚く呟く。
このまま此処に残っていれば、次々と他の竜種も集まってくるだろう。
『まあ、後処理は彼らに任せますか。私は本隊への報告優先とします』
急に丁寧口調に戻ったエスピオンが、α隊1番機に圧し掛かっていた自機を起こす。
亜級翼竜たちとの交戦に手一杯な鷹の目たちを尻目に、重力制御を活動させると、大型浮島の表層から100メートルほど上空に浮かび上がった。
『……それでは、さようなら』
蒼く輝く黒い球体が、エスピオン機の胸部から斜め上空に向け、超々音速で射出された。
音速の衝撃波と重力異常で、α隊1番機や周囲の低木が、ぐらぐらと揺れる。――超々音速飛行でこの場から逃れるつもりだ。
「何が、さようならだ」
パーセウスの中を、凶悪な感情が渦巻いた。
「アンテットさんを、みんなを、あんな目に会わせておいて……!」
全身の痛みも忘れてパーセウスが叫んだ刹那、少年の中の何かの力が爆発した。
「落とし前ぐらい、つけて行きやがれ!」
頭部を失ったα隊1番機が立ち上がり、その全身を炎が包む。
即座に掲げられた右腕から光神経線維が射出され、エスピオン機の脚部に絡みつく。
先端空間を開き、超々音速飛行に入ろうとしていたその機体に向けて、火線が走る。
『属性顕現……!』
次の瞬間、エスピオン機は、およそ5千8百ケルビンで燃え上った。
猛烈な熱量が周囲を焦がし、辺り一面の低木が一瞬にして灰になる。
エスピオンは、絶叫を上げる間もなく、その機体ごと消え去っていた。
右手を掲げたままの姿勢で、パーセウスは呆然としていた。
周囲を飛び交う航空騎兵たちも、亜級翼竜たちも、極めて短時間とは言え、太陽の表面温度に等しい高熱を浴びて瞬時に燃え上って塵となるか、その余波を受けて著しく損傷し、墜落していく。
炎が納まる頃、浮島表層中央は一面、岩石蒸気によって燃え上り、溶岩化し、それが冷え固まりつつ蒸気を上げるという、火炎地獄のような様相を呈していた。
内蔵するすべてのフラクタル鉱石を使い果たし、α隊1番機もまた、崩れ落ちる。
少年もまた、前部座席に背中から倒れ込む。
くらくらする視界で、パーセウスは上空を見ていた――なぜ、α1が、そして自分が無事なのかは分からない。
(ああ、まずい、あれはやばい……)
その主体を失った重力球が、そのさらに上空に浮かんでいる、フラクタル鉱石を剥き出しにした引き揚げ基部に、引き寄せられるかのように向かっている。双方が結びつけば、フラクタル爆発が発生、少なくともこの浮島は吹き飛ぶだろう。
(皆、死んでしまった。俺が、殺してしまった……)
嫌にはっきりとした虚像把握で、パーセウスは大型浮島全体を眺めた。
もはや動くものの無くなった大型浮島表層には、ただ炎だけが揺らめいている。
――いや、1つだけ、動くものがあった。
高熱に揺れる大型浮島上空の大気、朝焼けが差し込んできたその空を、巨大な黒い影が舞った。
ついに解き放たれた超弩級魔竜が、ゆらゆらと進む重力球を咥え、噛み砕く。蒼黒い光が周囲に放たれ、大気を揺らすが、巨大な竜は意に介した様子もない。
(あれを動かせば良いのか)
パーセウスの虚像把握に、魔竜の虚像把握が絡むと、そう声が聞こえた。
(あれを動かせば良いのか)
丹念に虚像把握を絡めながら、もう一度、魔竜は尋ねる。
(あれ、引き揚げ基部、そうだ、動かしてくれ)
驚く余裕も無い少年が、虚像把握でそう答える。
――ウチーチリ少佐が提言していた知性的接触は、呆気なく成功していた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
超弩級魔竜の額から青い光が飛び出す。
その直撃を受けた引き揚げ基部が、ゆっくりと稼働し始めた。
1キロメートル上空に浮かんでいた引き揚げ基部や、直径約5キロメートルの大型浮島を包む底引き網は、幸いなことにその機能を損ねずに済んでいたらしい。
引き揚げ基部がその動きを強めるにつれ、そこに仕込まれたフラクタル鉱石はその回転を増し、巨大な、円錐形の先端空間が開かれていく。
先端空間が表層をすっぽりと覆う頃、大型浮島はゆっくりと浮上し始めていた。
(ほんとなら、これで皆で帰れたはずなんだけどな)
古代遺物を発見したのは、ほんの15分ほど前だ。低木に覆われていた大型浮島表層は、今や溶岩に襲われた後のようになっている。
(皆というのは、あれらか)
ウチーチリ飛行隊は失われ、多くの亜級翼竜たちと共に、燃え尽きるか、あるいは地に伏していた。一方のパーセウスは痛みに身動きも取れず、独り航空騎兵に座して、さらに超弩級魔竜まで伴っている。
(そうだ、かれらだ。71名の仲間たちだ。皆、失われてしまった)
暗黒色の竜の巨大な頭部は、パーセウスの間近にあった。赤黒い炎を上げる6つの目も、3つの口も、そう恐ろしく感じない。
あまりの喪失感に自分は麻痺してしまっている少年は、そう感じていた。
(お前以外に、もう一人、生きている)
跳ね起きようとして、パーセウスは全身に襲い掛かる苦痛に呻いた。
(どこだ! どこにいる!)
(後ろ。お前の後ろ)
――ウチーチリ少佐!!
必死に上半身を起こすと、這いずる様にして、少年は後部座席へ向け、半身を捩った。
「少佐! ウチーチリ少佐! おやっさん! このクソ親父!」
声を振り絞って、パーセウスは叫ぶ。
後部座席にぐったりと身を委ねていた少佐の目が、僅かに開いた。
「……おう、やりやがったな、小僧」
「少佐……」
ほとんど音にならない掠れ声。
それでも、少年の耳には確かに聞こえていた。
「俺、おやっさん、俺、あいつを、みんなを……」
それ以上は言葉にならなかった。
気づくと、パーセウスの頬を滂沱の涙が伝っていた。
「甘かった、俺が、甘かった。選り抜きの精鋭を、揃えたつもりだったが、監査部隊を紛れ込ませちまうたぁ、俺も、焼きが回ったもんだぜ」
白い頬髯を血で染めながらも、ウチーチリは銀色の瞳をたわめ、微笑む。
おそらく、内臓のどこかを損傷しているのだろう。黒を基調色とする調査部隊用騎兵服の腹部が、異様に歪んでいる。
引き揚げ基部に引かれた大型浮島が、時速約40キロメートルの速度で確かに上昇を続け、ほどなくして黒藻宙底層に入ると、周囲は再び、闇に包まれた。辺りで光を放つのは、間近で大人しくとぐろを巻いている、超弩級魔竜の6つの瞳、3つの口だけだ。
(……面倒なやつが、来た)
虚像把握を通してそう言うと、暗黒色の魔竜は四枚の巨大な翼を広げ、二足で立ち上がった。その身動きだけで、もはや完全に機能停止したα隊1番機が揺れる。
六時方向に発生した眩い光に、パーセウスは思わず目を覆った。
直径5キロメートルの大型浮島の縁、先端空間の守りを抜け、暴食の宙底層の闇を裂いて躍り出たのは、巨大な黄金の竜だ。全身を雷で包み、六枚の翼で電磁場を発生させ、黒藻からその身を守っている。電磁浮上によって滑るように接近してきたそれは、およそ100メートルの距離で、その5本の爪を浮島に突き立てた。
(大破壊から半世紀も経ずに、よくもまぁ再臨したものだ)
二つの巨大な瞳をしげしげと凝らし、暗黒色の魔竜を観察するようにして、それは言った。その言葉が、魔竜の虚像把握を通して、パーセウスにも伝わってくる。
「超弩級雷竜……」
後部座席でウチーチリが声を漏らした。
黄金色の竜鱗からは、常に雷光が放たれ、その表皮を走っている。
超弩級魔竜と並び、かつて古代地球の大破壊に関わったとされる竜がまた一体、二人の眼前に有った。
(小竜どもが騒ぐから何事かと思えば……正しく、小賢しい人間どもには眩暈がする)
魔竜は返答しない。
ただ、パーセウスとウチーチリの二人を、金竜から守るような気配は感じられた。
(自ら黒藻を撒き散らしておきながら、今更、何をするつもりだ)
魔竜は何も答えない。
その逞しい体躯に電流をみなぎらせた黄金色の竜から、苛立ち、怒り、戸惑い、そして憐憫といった、複雑な感情が伝わってくる。航空騎兵の操縦席で「小賢しい人間ども」と呼ばれた二人は、ただ息を呑んでいた。
「竜たちは何を……」
「金竜が、黒竜に話しかけてます」
「分かるのか、パース」
「虚像把握を通して……何となく伝わる感じです」
苦しい息の下で、ウチーチリが少年と会話する。
大型浮島は、引き揚げ基部に異常なく、浮上を続けている。暴食の宙底層の闇を抜けるには、あと1時間近くは掛かるだろう。
(竜種だけでは絶界は救われない)
初めて、暗黒色の竜が口を開いた。
(我々には再び、「輝ける闇」が必要だ)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――古代遺物の有った場所、ちょうどそれが、此処だよ」
当時生い茂っていた低木が、見る影もなく焼き払われ、今は機能高分子繊維製の対熱甲板が覆うベネトナシュ空域基地の地面を指差しながら、32歳のイオキベが言った。
スズ・オラシオン大尉は混乱していた。
ウチーチリ飛行隊の壊滅、超弩級魔竜、超弩級雷竜、監査部隊の密偵、上位種との知性的接触、多くの事をイオキベは語ったが、辻褄の合わないことも数多くあった。
「……そんな、そんなばかな。だってこの基地は」
懐中電灯の光の輪の中で、彼女の頬が一層、青白く浮かぶ。
「ベネトナシュ基地は300年の歴史を持つって……」
「それは嘘だ」
呆気なくそう言うと、イオキベは横顔を向けた。煙草を取り出すと火をつけ、深々と吸い込み、吐き出す。
「俺たちがこの大型浮島を引き揚げたのは、18年前のことだ」
「どうして、司令はそんな嘘を」
「あいつもそう、信じ込まされてるんだ」
「どうして、佐官級まで、そんな嘘に」
イオキベは沈黙した――その沈黙が、スズ・オラシオンに結論をもたらした。
星明りもない闇夜季節は、徐々にその色合いを変化させようとしている。
「どうして、そんな話を、私にするんですか」
こわばった横顔を向け、スズは薄明の始まった空を睨んだ。
「私の、気持ちを、利用しようというんですか」
「そうじゃない……!」
32歳の男は、慌てて彼女の横顔を見つめた。
その横顔の固さに、視線が泳ぐ。
「いや、やっぱりそうなのかも知れねぇ……つーか、いや、なんつーか」
しどろもどろになり始めたイオキベの様子に、スズは思わず、くすりと笑った。その微笑みが、イオキベの言葉を引き出した。
「知ってて欲しいんだ、多分。俺はこれから、やらかすからさ」
「その時、お前さんになら、後ろから撃たれてもいい、そう、思うんだ」
「その時、多分説明なんか出来ないから、今、この時に、知ってて欲しいんだ」
(変なところで不器用なんだから……)
内心では苦笑いしながら、スズ・オラシオンは、パーセウス・イオキベを見た。まっすぐな水色の瞳を受け、碧眼が一瞬、たじろぐ。
「教官、私が告白した時、自分がなんて返事したか覚えてますか?」
「あー、うーん、えーと、何だっけ」
「お前さんはまだ愛の質量を知らない……ですって」
「あー、ばかだねぇ」
自分の事であるにも関わらず、イオキベは大きく笑った。釣られてスズも、笑う。
「……その答え、今も変わりませんか?」
スズが、イオキベを見つめなおす。
軽く結い上げた黒髪が、不安そうに揺れる。
「……すまん、変わらない」
「そう、ですか……」
長い睫毛をそっと伏せ、それから穏やかに、彼女は微笑んだ。
うーん、と背伸びをすると、清々しい表情でイオキベを見上げる。
「じゃあ、聞かせてください。教官が知ってること、やろうとしてること、全部!」
「お、おぅ!」
今度はイオキベが釣られて、なぜか元気良く、煙草を携帯灰皿でもみ消した。
「まずは、そうですねぇ……航空騎兵からの降機時、制御系統と神経接続してなくても、教官は虚像把握が出来るんですか? 今、現在も?」
薄紅色の唇に指を当て、考えながらスズ・オラシオンが尋ねる。金髪をわしゃわしゃと掻きつつ、イオキベが答える。
「今も、できる。歳食って範囲は2千弱ぐらいまで狭まったけどな……お前さんがこっちに来るのも、見えてた」
「本当に?」
「ここで証明すんのは難しいんだけどなぁ。例えば……ガイツハルスの奴は、なんか私室で書類整理してる、この時間までご苦労さんだね。アウダースは、爆睡だな。おろろ、ラソンは電算室にいるね、割と勉強熱心じゃん」
いかにもそれらしい描写に、スズは小首を傾げた。半信半疑、という感じだ。
「虚像把握でも使わなけりゃ、一介の民間人が警備の目を抜けて、騎兵基地の兵舎から抜け出して、煙草なんぞ吸いには出られないだろ?」
「それは、確かに……」
実際、今スズ・オラシオンは、彼女の大尉権限を以って外出許可を得ている。きちんとした証明が無ければ、歩哨に見咎められただけで外出差止だ。
「やろうと思えば、女湯覗くのだって楽勝だって……いや、やらないよ? 紳士だから! やらないよ?」
水色に澄んだ瞳でじっとりと見つめられて、イオキベは慌てて否定した。
「古代遺物の影響……なんですよね」
覗き見の追及はさて置くことにして、スズは真面目な顔で考え込んだ。イオキベも同じく、真顔になる。
「古代遺物はきっかけ、だったのかも知れない。非搭乗時虚像把握能力を培うためには、それなりに訓練が必要だったよ」
「……どこでそんな訓練を?」
懐中電灯の光の輪の中で、二人の視線が重なる。
六時方向から、太陽の温もりが広がってくる。
初めて、イオキベは組織の名前を口にした。
(つづく)
ま゛ーーーーーーっ!
の゛ーーーーーーっ!
ぅおーーーーーーっ!(皇龍砲)
ううう。
色々とううう。
それでも行ってみます!
次回「試験飛行」。
さあ貴方も、絶界でフライ・ルー!(まーのーうぉー!)




