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 電話を切った後、オレは朝倉にメールを入れた。


『告別式の日にちが分かったら教えてくれ。』


 席に戻ると、山賀がケータイをいじりながら話しかけてきた。

「どうしたの?何かあった?」

「えっ。いや…別に…。」

「………。今日帰りにメシでも一緒に食おうか?おごるよ。」

 祐司の暗く冴えない表情が少し明るくなった。

「………。マジっすか。じゃあお言葉に甘えちゃおうかな。」

「いつも節約して、ちゃんと自炊してたりしますもんね。だからオレからご褒美ですよ。今日もおにぎり作ってきたんですか?」

「もちろん。」

「やっぱり今日もおにぎりだけ?おかずなし?」

「ないね。」

「まあまあ。本当質素だねー。」

「シャラップ。みんな仕事しろオーラ出してこっち見てるよ。」

 山賀が振り返ると、同僚数人が何やらひそひそ話をしながらこっちを眺めていた。

「あらー本当すいませんね。みなさん。」

 その中の一人が答える。

「え。いや別に、そういう風に見てたんじゃなくて単純に仲いいなーって。何か本当の兄弟みたいだね。」

「えー兄弟ですか?友達じゃなくて?」

「えー友達にしては年離れすぎてるよね?」

 周りに同意を求めるように顔をきょろきょろとさせている。周りもうんうんと首を縦に振っていた。

「そんなことないよねー?オリちゃん。」

 祐司は黙りこんだまま俯き何か考え事をしているようだった。

 山賀はそんな祐司を心配そうな眼差しで見ている。

「なになに?ケンカでもしたの?」

「ち、違いますよー。さー仕事仕事。」

 山賀はパソコンに向かい、キーボードを慣れた手つきで叩きだした。そんな山賀を見て周りも仕事モードに入ったのを確認すると、さりげなく祐司のデスクを指でトントンと鳴らしてみた。

 気付いた祐司が山賀に顔を向ける。

「え、何?」

「ちょっと大丈夫ですか?仕事はきちんとしてくださいよー?」

「わかってますよ。」

 祐司がパソコンへと顔を移す。山賀が軽くため息をつき、再びケータイをいじり出した。

「ってケータイいじんのかよ?仕事すんじゃねーのかよ?」

「ハハハ。やっぱりオリちゃんはそうじゃないと。」

「ハハハハハ。」


“本当いい人だよな。山賀さん”


昼休み、祐司は山賀と浜川と一緒に休憩室で昼食をとっていた。浜川というのは先ほど山賀とやり取りをしていた彼女の事だ。年齢は30代前半らしいが着ている服が若々しいのであまりそうは見えない。彼女は通称『ハマちゃん』と呼ばれている。


「オリ今日もおにぎりなの?」

「うん。」

「またふりかけ混ぜこんであるやつ?」

「今日は海苔。」

 そう言いながら朝リュックに詰めて持ってきたおにぎりを取り出した。

「へー。山ちゃんも見習って作ってきたら?」

 浜川の目線は山賀の前に置かれているコンビニのサンドイッチや惣菜に向けられていた。

「えー。オレだって家ではたまに料理してるよ。」

「ふーん。例えば?」

「パスタとか。」

「ソース手づくり?」

「いや、レトルト。」

「そんなのは料理なんて言いません。」

「何ですか。そのベタなツッコミは。」

「あんたがベタな振り方するからでしょ。」

 そんな二人のやり取りを聞き流しながら祐司は母親宛にメールを書いていた。


『小学生の時仲良かった月島愛美覚えてる?』

 送信するとすぐに返事が返ってきた。どうやら今は家にいるらしい。

『覚えてるよ。』

 やはりスラスラ打つのは難しいのだろう。母さんからのメールはいつも淡泊だ。“返信”ボタンを押し、少し考え込んだ後メールを書き始めた。



『事故で亡くなったらしい。』



 今、祐司ははっきりと月島愛美の死を認識して文字にしている。

そして、それを誰かに伝えようとしている。

彼女の親しかった友人から得た情報だ。

たぶん、この噂は限りなく100%に近い、真実なのだろう。まだ確実に100%ではないのは祐司がまだ彼女の“死”を見ていないからだ。百聞は一見に如かず。マナの死を決定づける“何か”を目にした時、彼の中で100%になるのだろう。そう考えていると、祐司の文面もまた淡泊なものになっていた。

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