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3 夜明け

 ピピピピピ……。

 けたたましく鳴り続ける電子音にオレは目を覚ました。いつの間にかソファに座ったまま寝てしまっていたようだ。今が、暑さの残る9月下旬で本当に良かった。真冬だったら間違いなく風邪を引いていただろう。ただでさえ、自分では気をつけているつもりなのだが毎年12月になると恒例のように風邪を引いてしまう。今は関係のない話だ。

 大きく伸びをして立ち上がり、カーテンを開けた。雲が割れ、朝日がちょうど差し込んできてちょっと眩しい。いい天気だ。窓を開けて新鮮な空気を吸い込む。

― 太陽の香りがする。気持ちがいい。こんな空の下を散歩でもしたらどんな嫌な事も忘れてしまいそうだ。どんな嫌な事も。


 しかし残念ながらそんな事をしている時間はない。現実に戻り窓を閉め、時計に目をやると8時ちょうどを指していた。いつもならこれから昼食用のおにぎりを作り、余ったご飯で朝食をとるのだが、今日はなぜだか『どっちもコンビニで済ませばいいや』と考えた。朝からそんな事をする気分にはなれなかった。

 再びソファに座り込み、数秒間何やら考え込んだと思いきや、『たまにはいいか』の声と共に立ち上がり、着ていたTシャツ、ハーフパンツ、トランクスを脱ぎ捨ててバスルームへと向かう。

昨夜、風呂に入らなかった訳でも、ソファで寝ていたため当然、寝汗をかいた訳でもないが、無性に暑いシャワーを浴びたかった。祐司にとって特に必要性のない入浴は彼なりの贅沢なのだ。言わば自分へのご褒美。しかし今回の場合はご褒美ではなく気分転換だろう。本当の意味でのリフレッシュができる。

 ハンドルをひねり冷水からお湯に変わるのを待っている間、余計な事を考えそうだったので鏡の中の自分に声をかけた。

『おはよう。いい天気だな。今日もマイペースでがんばろうぜ。そっちの世界はどう?』そんな事をしている間に既にお湯へと変わっていた。頭から豪快に浴びる。頭の中はからっぽになり今はただ気持ちがいい。ただそれだけだ。途中から鼻歌を口ずさんでいたが、突然やんだかと思うとシャワーを止め、急いで体を拭き早々とバスルームを出ていってしまった。昨夜、寝る前にセットしておいた炊飯ジャーを思い出したのだ。



 折原祐司は8月が誕生日で先月ハタチになったばかりだった。自分でも思った以上にハタチはまだまだ子供だと実感している。ただそれ以上に祐司自身がまだまだ大人になりきれていない。出身は福島だが進学のため現在、東京で一人暮しをしている。しかしなぜか2度も受験をしなかったため今は派遣社員として働き、それなりに充実のしている毎日を送っていた。



 食器を洗い終え、洗顔をして歯を磨き、ワックスで髪型を整えてから作ったおにぎりをリュックに入れる。ケータイを取り、開けると昨日のメールが開いたままになっていた。

『月島愛美さんが亡くなったそうです』

思い詰めた表情で画面に目を落とし、無言のままケータイを閉じてポケットにしまう。そして部屋の鍵を握りしめ、ドアを開いた。

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