2 願い
オレは言葉にならない思いで何度も何度もメールを読み返す。しかし何度読み返した所でメールの内容は『今度同窓会を開く事にしたので、ぜひ参加してください』とは変わらなかった。
このメールの差出人は松井早紀。中学時代の彼女はとても明るいキャラだった。彼女とは2年3年と同じクラスで祐司のことをただ一人『ユウジン』と変わった呼び方をしていたが実際は頭のいい優等生であったと祐司は記憶していた。ちなみに彼女も月島愛美とは小学校からの同級生だった。
しかしどう考えてもガセネタとしか捉えようのない、この情報もメールの差出人が松井早紀という事だけで祐司の中でほんの少しだが信頼性が出てきた。優等生であった松井早紀はこの根も葉も無い情報を知った時どう感じたのだろうか。すんなりと受け入れる事ができたのだろうか。信じる事ができたのだろうか。
『月島愛美さんが亡くなったそうです。』
一体どれだけの人間にこの情報は伝わっているのだろう。
朝倉だって早紀ちゃんだってマナとは“同級生”という事以外に特に接点はなかったはずだ。
当のオレ自身もマナとは高校一年の夏に、あるメールを送ったきりずっと連絡は取っていなかった。
月日が流れ、今現在、オレのケータイにはマナの番号やアドレスは入っていない。
もし仮に入っていたとしても電話をして出なかったらどうする?メールをして返ってこなかったらどうする?いや、そんな事を考えてはいけない。
そんな事を考えている時点で最悪の事態を想定している事になる。
頭の中に思い描くのは髪をポニーテールに結び、笑うと八重歯が除くきらっきらの笑顔をしたあの頃のマナだった。
そんなマナが死んだ?有り得えない、有り得ない。
ちなみに今日はエイプリルフールではないし、そうであったとしてもこんな嘘、許される訳がないだろう?第一“事故”というのも納得いかない。
オレの知っているマナは事故なんか起こさない。車だって運転なんかしないだろうし(祐司の思い込み)道路に飛び出して跳ねられる程バカではない。バカではないというのは頭の良し悪しではなく、勿論、勉強はかなりできていたが常識があるということだ。しかし祐司の頭の中に例外のケースも浮かんだ。
“車に跳ねられそうになっている子供か何かを助けた……?”
マナなら有り得ない話ではない。正義感が人一倍強かった彼女だ。
“でも…だからって……そんな……。”
祐司は思い煩う様子でどこか一点を見つめていた。そっとベッドから降り、電気は付けずにソファに座る。LED内蔵の置き時計に目をやった。0時42分。
マナは人に怨みをかうような人間ではないけれど、今回は、今回だけはマナを良く思っていない誰かの嫌がらせであってほしい。そう願っていた。
ゆっくりと目を閉じる。祐司の頭の中では月島愛美との色々な過去の想い出が駆け巡っていた。




